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19.リクル2 〔リクル視点〕

時はスティクォンが王国を見限り魔族の国に入国するところまで遡る。






国王直轄近衛騎士団の一角、そこに私の部屋がある。

実家であるアバラス家の私の部屋よりはこぢんまりとしていて1人で暮らすには丁度良い。

外には太陽が昇り始め、小鳥の囀りが聞こえてくることで私の意識が覚醒する。

「んんっ! もう朝・・・」

私は身体をもそもそと動かしながらゆっくりと起き上がる。

連日の肉体強化訓練で大量に体力を消費しているが疲れを感じたのは生まれて初めてかもしれない。

「いくら私の体力が尋常じゃないとはいえこんなことは初めてね。 無理しすぎたかしら?」

昨日の疲れがたまたま残っていた、私はそう結論付ける。

「さて、今日も1日頑張りますか」

私は普通の基礎体力作りから基礎訓練、果ては剣術稽古まで体力に物を言わせて行っている。

周りからは脳筋バカみたいに扱われているが、それが私の取り柄ともいえるだろう。

今は序列は下のほうだが、ゆっくりと上り詰めていつかは国王直轄近衛騎士団の団長になるわ。

そんなことを夢想しながら着替えを終えると、部屋を出て食堂へと向かう。

そこでは先輩、同輩、後輩たちがすでに食事をしている。

「おはようございます、先輩方、皆様方」

「おはよう、リクルちゃん」

「よう、今日は遅かったな、リクル」

「リクル先輩、おはようございます」

私は丁寧に1人1人挨拶していく。

国王直轄近衛騎士団のほとんどは男性である。

割合としては男8:女2といったところだろう。

私は食事を受け取ると女性陣の輪に歩いていく。

「おはようございます」

「おはよう、今日も人気者ね」

「さすが公爵令嬢」

「まぁ、リクルの家と顔なら人気が出ても当然よ」

国王直轄近衛騎士団に配属されてから男女ともに分け隔てなく接している。

なぜそのように心掛けているかというと私は兄様と違って無闇矢鱈に敵を作ろうとはしない。

本来ならスキル【剣聖】があるのでほかの団員を圧倒できるがそれでは今の兄様と同じように二の舞になるだけ。

なのでなるべく協力関係を結ぶのが最善策である。

とはいえ騎士団の人間は基本仲間ではあるが、決して味方や敵ではない。

少しでも劣れば蹴落とされる。

私は最善手を考えて慢心することはせずに堅実に1歩1歩前を歩いていく。

それが私のやり方だ。

食事を終えた私はほかの団員とともに訓練の準備をする。

「?」

いつものように体力に物を言わせて準備をしているが何か違和感を感じる。

(朝起きた時も同じようなことを感じたけど気のせいかしら?)

女性特有の日ということもありうるので焦りや無理は禁物である。

今日は慎重に行動しよう。

そうこうしているうちに団長と先輩騎士たちがやってくる。

「よし、みんな揃ったな。 それでは練習を始める。 まずは基礎トレーニングからだ」

団長が練習メニューをいうと私たちはまず走り込みから始める。

普段ならこれくらいのことは無尽蔵の体力を持つ私にとっては問題ない・・・はずだった。

1番で走り込みが終わると私はその場で膝をついてしまう。

「おい、リクル。 大丈夫か?」

団長が心配して話しかけてきた。

いつもなら活を入れるのだが、私の様子が変なのか気を使ってくれる。

「だ、団長、ふ、不甲斐ないところをお見せして申し訳ございません」

「いや、リクルも女性だ。 その・・・そういう日もあるのだろう。 もし、無理と感じたらすぐに声をかけろ。 ここ(騎士団)は身体が資本だからな」

「わ、わかりました」

私は呼吸を整えながら団長に返事をする。

しばらくするとほかの団員も走り込みを終えて戻ってくるが私の様子を見て驚いていた。

私が疲労しているのが珍しいのだろう。

(今はたまたま体調が悪いだけ。 少し休めばすぐに元に戻るはずだわ)

私はもう少しだけ様子を見てから判断することに決めた。

そのあとも基礎トレーニングを続けたが明らかに体力が続かない。

すべての基礎トレーニングが終わると私はほかの団員と同じように地面に寝転がっている。

「はぁはぁはぁ・・・」

大きく息をして新鮮な空気を身体に受け入れる。

(おかしい・・・明らかにおかしいわ)

昨日までの自分とは明らかに違っている。

動く度に疲労が溜まり、身体に重りをつけられていく。

明らかにおかしいと感じた団長が私に声をかけた。

「リクル、今日はもう上がれ」

「団長、私は・・・」

「リクルの頑張りは見ていてわかるが、無理をするべきではない」

ここは反論せずに団長の助言を受け入れることにする。

「わかりました。 団長の言う通り今日は休ませていただきます」

私は団長に一礼すると訓練場を後にした。

「どうなってるの? 私に一体何が起きているの?」

いつものように身体を使っただけなのにまるで自分が自分でない気分だ。

大勢の前で無様な姿を晒したことに対して恥ずかしさを味わいながら部屋へと戻っていく。

「たしかに私はいつも通り身体を使っただけなのに・・・」

団長が言ったように女性特有の日で無理をするべきではないのだろう。

「・・・今日はたまたま体調が悪かっただけよ。 明日にはいつも通りの体力が戻っているはずだわ」

だが、これは始まりに過ぎない。

それから3ヵ月もしないうちに私の体力がほかの団員たちとさほど変わらないくらいに落ちたことを今の私は知る由もなかった。


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