18.ロニー2 〔ロニー視点〕
時はスティクォンが王国を見限り魔族の国に入国するところまで遡る。
宮廷魔導師団宿舎の一角、そこに俺の部屋がある。
実家であるアバラス家の俺の部屋よりは遥かに小さいがそれでも1人で暮らすには十分すぎるほどの大きさだ。
外には太陽が昇り始め、小鳥の囀りが聞こえてくることで俺の意識が覚醒する。
「んんっ! よく寝た・・・」
俺は身体をもそもそと動かしながらゆっくりと起き上がる。
連日の魔法訓練で大量に魔力を消費しているが疲れを感じたのは生まれて初めてだ。
「いくら俺に膨大な魔力があるとはいえこんなことは初めてだな。 無理しすぎたかな?」
昨日の疲れがたまたま残っていた、俺はそう結論付けた。
「さて、今日も1日俺の実力を団長や先輩たちに見せますか」
俺が高位の魔法を使ったり、魔法の威力を上げたり、魔法の連射を増したり、魔法のクールダウンがないことを見せることで、如何に俺が優秀かをアピールする。
これにより先輩魔導士たちの序列を追い越して次期宮廷魔導師団団長へと上り詰めてやるぜ。
そんなことを夢想しながら着替えを終えると、部屋を出て食堂へと向かった。
そこでは先輩魔導士たちがすでに食事をしている。
本来であれば後輩である俺は食事にありつけないのだが、俺の実家であるアバラス公爵家を敵に回すようなことはしたくないのか、文句をいう先輩魔導士たちは誰もいない。
「おはようございます、先輩方」
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
俺は先輩魔導士たちに形だけ挨拶するが誰も返事をしてくれないのはいつものことだ。
なぜこうなったかというと俺の態度が気に入らないらしい。
本来であれば団に入れば新人魔導士は全員先輩魔導士から色々と学び身に着けていかなければならない。
それは魔法だけでなく共同生活における衣食住についてもだ。
だが、俺は王族を除けば最高位である公爵の息子である。
ほかの屑な魔導士たちと同列など我慢できるわけがない。
ある時、それに腹を立てた1人の先輩魔導士が俺に指導してきた。
そいつは平民上がりで下積みからコツコツと立派な魔導士になるために日夜努力を惜しまない奴だ。
世の中には身分を弁えぬ愚か者がいたもので、俺はその先輩魔導士と正式な魔法勝負をして、俺の【火魔法】でそいつを燃やし尽くした。
勝負は当然俺の勝ちでその先輩魔導士は死にはしなかったが、全身大火傷で今も病院のベッドの上で未だに意識を取り戻していない。
以降、俺に直接文句を言う先輩魔導士たちは鳴りを潜め、同輩や後輩からも敬遠されている。
俺は貴族然とした動きで食事を食べ終えるとそのまま訓練場へと向かった。
訓練場では俺よりも数段劣る魔導士たちが朝の訓練に勤しむ。
彼ら彼女らはお互いに魔法を見せると問題点を挙げてより正確に魔法を行使することを学んでいく。
「おはよう」
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
俺が挨拶しても誰も返事をしない。
別に俺は気にせず魔法を使う準備をする。
(さて、どこを使おうかな・・・)
これも先輩魔導士でなければ自分で準備をしてやるのが普通だが俺はそんなことをするつもりは毛頭ない。
同輩や後輩が準備したであろう先輩魔導士たちの訓練場所に俺は陣取る。
それを見ていた同輩や後輩連中は注意こそしなかったがあまり良い顔をしていなかった。
俺の準備は整ったがまだ練習を始めない。
しばらくすると団長と先輩魔導士たちが姿を現す。
俺はそこでようやく魔法の練習を始める。
同輩や後輩たちに見せても意味はない。
団長や先輩たちに見せることで俺の有用性をアピールするのだ。
俺はいつものように魔法を行使する。
莫大な魔力を持つ俺の魔法は今日も冴え渡る・・・はずだった。
何発か魔法を放つといつもと何かが違う。
(何だ? この違和感は?)
魔法を放つまでの時間がいつもより長い。
魔法の威力がいつもよりない。
魔法の連射がいつもよりできない。
魔法のクールダウンがいつもより長い。
そして何より疲労感が半端ない。
(どうなっているんだ? これではまるでほかの屑どもと変わらない? いや、それよりも酷いぞ?)
俺が不可解な出来事に困惑していると周りで見ていた団員たちがひそひそと話している。
「おい、あいつの魔法ってあんな大したことなかったっけ?」
「いつもならもっと派手にぶっ壊す勢いで魔法を放っていたよな?」
「あれじゃあ昨日までとは別人だぞ?」
団員たちは疑惑の目を向けてきた。
「おい、お前ら! あんまりふざけたこと抜かすと焼き殺すぞ!!」
それを聞いた団員たちが慌てて目を逸らす。
そんな中、団長が話しかけてきた。
「ロニー、調子が悪いのか?」
「あ・・・そうみたいですね。 今日は珍しく調子が悪いようです」
「そうか・・・今日はもう上がってゆっくり休め。 練習はまた明日にしろ」
ここで反論してもよかったが相手は団長だ。
下手に口答えして出世の道を閉ざす訳にはいかない。
「わかりました。 団長の言う通り今日は休みます」
俺は団長に一礼すると訓練場を後にした。
「くそっ! どうなってるんだっ!!」
いつものように魔法を使ったはずなのにまるで自分が自分でない気分だ。
大勢の前で無様な姿を晒したことに対する憤りと蔑まれた目で見られた屈辱を味わいながら部屋へと戻っていた。
「たしかに俺はいつも通り魔法を使ったはずなのに・・・」
あの場で誰かが言ったようにまるで昨日とは違うことに苛立ちを覚える。
「・・・今日はたまたま体調が悪かっただけだ。 明日にはいつも通りの魔法が使えているだろう」
だが、これは始まりに過ぎない。
それから3ヵ月もしないうちに俺の魔法がそこらの有象無象よりも酷い有様になるとは今の俺は知る由もなかった。