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17.イコーテム公爵2 〔イコーテム視点〕

時はスティクォンが王国を見限り魔族の国に入国するところまで遡る。






今日も館でわしは朝から机に座り、領主の仕事を熟していた。

「はぁ・・・まったく確認の書類が多すぎる」

文句を言いながらも必要な書類に判子を押し、書類を分別していく。

山のようにあった書類もある程度捌くとわしは気分転換に外に出て庭を見て回る。

「うむ、今日も綺麗に咲いておるな」

見渡す限り綺麗に咲き誇る花々、見ていて心が癒される。

「どれ、もっと間近かで見てみるか」

わしは近くの花壇によると綺麗に咲いている白い花を見る。

その花は生き生きと咲いていた・・・ように見えたが葉っぱが少し変だ。

「ん?」

わしはその花の葉っぱをよく見た。

すると黒い斑点ができている。

「まったく・・・ちゃんと手入れをしないからこうなるのだ! おい! 誰かいないか!!」

わしが大声を上げると近くにいた庭師がやってきた。

「旦那様、どうされましたか?」

「どうしたじゃない! これを見てみろ!!」

わしが指さしたところの葉っぱを庭師が見る。

「あれ? 何か黒い斑点ができてますね」

「できてるではない! なんで黒い斑点ができているんだ! お前は何をしているのだ! ちゃんと世話をしないからこうなるのだぞ!!」

わしが怒りを露わにすると庭師が慌てて頭を下げる。

「申し訳ございません! 旦那様!!」

「うむ、今後は気をつけろよ」

「はい!!」

それだけ言うとわしは執務室に戻り書類整理を再開した。

「気分転換のつもりがなんで苛つかねばならんのだ!」

そのあとも不快な気分ではあるが仕事を続けた。

いくら気分が悪いとはいえ滞る訳にはいかない。

幸い先にある程度捌いていたので、仕事が終わるのに然程時間がかからなかった。

「やれやれ、わしとしたことがこの程度で感情を表に出すとはな」

過ぎたことはしょうがない。

嫌なことは忘れるに限る。

その日はさっさと休むことにした。


翌日───

『───』

『───』

『───』

「?」

わしが執務室で作業をしていると外で何か声が聞こえてきた。

「何かあったのか?」

窓を開けて確認するとそこには執事長と昨日の庭師が話していた。

2人は何か真剣な表情で花壇を見ている。

気になったわしは窓から声をかけることにした。

「おい、お前たち! 何かあったのか?」

それに気付いた執事長と庭師が一斉に振り返ってわしを見るなり一礼する。

「こ、これは旦那様・・・」

「少々気になることがありまして、この者と話をしておりました」

それだけいうとそれ以上は言葉にしなかった。

「今そちらに行くからそこで待っていろ」

わしはそれだけいうと窓を閉めて2人のところまで早足で向かった。

程なくして庭に到着すると執事長と庭師は困った顔で花壇を見ている。

「どうした? 何かあったのか?」

「はい、実はこの花なんですが・・・」

「花?」

疑問に思ったわしは花を見る。

すると昨日見事に咲いていた白い花に黒い斑点が混じっていた。

「おい! これはどういうことだ!!」

「申し訳ございません!!」

「旦那様、落ち着いてください」

庭師が謝り、執事長がわしを止める。

「昨日も言ったはずだぞ! ちゃんと世話をしないからこうなるのだと!!」

「旦那様、それなのですがどうも変なのです」

「変?」

執事長が疑問を口にする。

「はい、この花なのですが今朝確認したときは黒い斑点などなかったのです」

「何? どういうことだ?」

わしの質問に執事長が状況を踏まえながら答える。

「今朝は染み1つない純白な花が我々が見ているときに黒い斑点がぽつりぽつりと現れ始めたのです」

「なんだと? それは本当か?」

「はい」

執事長と庭師は2人して頷いた。

庭師だけなら疑惑があるが執事長までもというと話が変わってくる。

この執事長は先代であるわしの実父からアバラス家に長く使えているのだ。

その仕事ぶりは幼少のころから見てきているのでよく知っている。

執事長が嘘をついているとはとても思えない。

「!!」

何気に花壇を見るとわしは驚いた。

白い花に付着した黒い斑点が広がり、目の前で白い花が黒い花へと変貌したのだ。

「な、なんだ? これはどういうことだ?」

わしだけでなく執事長と庭師も驚いていた。

「も、もしかすると病気に侵されたのではないでしょうか?」

「病気?」

庭師の意外な言葉にわしは聞き返していた。

「はい、今の症状だと黒斑病の疑いがあります」

「しかし、こんなに早く病が進行するのでしょうか?」

「わかりません。 ある程度の症状は知識としてあるのですが、こんなことは何分初めてなことで・・・」

いつもなら庭師を叱責しているところだが、今の庭師が嘘をついているようには見えなかった。

「1つ聞きたいが黒斑病はこの花特有の症状なのか?」

「詳しくはわかりませんが、植物ならかかっても不思議ではない病気の1つです」

庭師は自分が知りうる限りのことを口にする。

「とりあえずほかの花に移るといけないので、これは焼却処分にします」

「・・・ああ、そうしてくれ」

これが病気だとしたら庭師の提案に同意するしかなかった。

処分については執事長と庭師に任せてわしは仕事に戻る。

「くそ! なぜわしの館の花壇だけ・・・いや、被害がわしのところだけで済んでよかったと考えるべきだな」

だが、これは始まりに過ぎない。

それから3ヵ月もしないうちに黒斑病がアバラス公爵領全体に広がることになることを今のわしは知る由もなかった。


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