156.ロニー9 〔ロニー視点〕
王都フーズベルグから抜け出して2ヵ月が経過した。
俺は今フーリシュ王国最北端にある村、世捨て村に到着した。
「なんとかここまで逃げてこれたな」
思えばここまで来るのに苦労した。
王城を脱出した俺はまず最初に目指したのは城下町にあるスラムだ。
そこには闇市があるので急いで向かった。
理由は俺が今着ている第四魔法兵団の服が目立つからだ。
スラムに到着した俺は闇市が開かれているところを探す。
するとすぐに一般の商店街と違う雰囲気の露店商が多く立ち並ぶところへと出た。
よく見るとガラの悪い男たちがたむろしている。
俺は速やかに服飾店を見つけると入店した。
「・・・いらっしゃい」
店主は読んでいる新聞から目を離さずに応対する。
「店主、悪いがこの服を買い取って普通の衣類を購入したい」
俺の言葉に店主は一つ溜息を吐くと面倒臭そうにこちらを見る。
「それですか? ああ・・・随分と良い服を・・・! って、これ第四魔法兵団の服じゃないですか?!」
俺の服を見て店主は驚いた。
それから俺に質問してくる。
「あんた、第四魔法兵団で何やらかしたんだ?」
「国王の命に逆らって現在逃走中だ。 今は団長とかから見つからないように行動している」
俺が手短に話すと店主は口角を上げて笑みを見せた。
「それはお気の毒様だな。 姉御は団員に容赦ないからな」
「?! 団長を知っているのか?」
俺が聞くと店主は鷹揚に頷いた。
「ああ、俺も元第四魔法兵団だ。 ただ、姉御のしごきがあまりにきつくて辞めたけどな。 で、俺がここで店を開いたらどこで聞きつけたのか姉御が来たんだよ。 それからは暇を見つけては足繁く訪れるようになったんだ」
「へ、へぇ・・・」
女団長の意外な一面に俺は驚いていた。
「あはははははっ、驚くだろ? 俺も今のあんたと同じ気持ちさ。 まぁ、俺の身の上話はどうでもいいとして、それを買い取れと?」
「そうだ」
店主は理解したのか頷いた。
「ああ、いいぜ。 言い値で買い取ろう」
「ありがたい」
「時間がねえんだろ? さっさと店内を見て自分に合う服を探しな」
俺は言われるがままに自分に合う服があるか店内を探す。
幸運なことにすぐに合う服が見つかった。
俺は店内にある試着室に行くとその服を着る。
試着室から出た俺は店主に声をかけた。
「これにする。 それとこのフード付きのコートも一緒に購入する」
「ありがとな。 ほい、買取金額から購入金額を差し引いた差額だ」
店主から金と何か怪しい物体を受け取る。
「これは?」
「かつらだよ。 その髪だと目立つだろ? それ被ればすぐに捕まることはないだろう」
俺は受け取ったかつらを被る。
「それとこの王都にある乗合馬車を利用するならやめとけ。 すぐに捕まるぞ」
「わかった」
店主は手をひらひらする。
「見つかる前にここから離れないと・・・」
店を出た俺は王都内から脱出するために行動しようとした時だ。
何気なく見た先に第四魔法兵団の女団長がいた。
距離があるのか気づいていないようだ。
(ここまで迫っていたとは!!)
俺はすぐに服飾店の隣の店に入る。
中には老婆が一人椅子に腰かけて煙草を吸っていた。
「おや? お客さんかい? 珍しいね」
「いや、客じゃないんだけど・・・」
「あんた、誰にも悟られずにここから出たいんじゃろ?」
老婆の言葉に俺は目を見開いた。
「なぜそれを?」
「長年生きてるとね、そういうのはすぐにわかっちまうんだよ。 ここはヘマした者たちが王都から逃げ延びたいとやって来る場所さ。 単純に言えば抜け道がある場所だね」
老婆は一服すると俺に問いかけた。
「それで出るのか出ないのかどっちなんだい?」
「その前に一つ確認させてくれ。 ここを利用すれば確実に王都外に出られるのか?」
「もちろんだよ。 ほかの奴は知らないがあたしには一つだけ自分に決めたルールがある。 それは『金を払う奴を裏切るな』だ。 世の中金がすべてだからね」
それだけいうと老婆は右手を差し出した。
「? なんだ? その手は?」
「見りゃわかるだろ。 金だよ、金」
「俺はまだ利用するとは・・・」
「そうかい、それならさっさとここから出ていきな」
老婆は手で追い払うような仕草をする。
俺が店を出ようとすると隣の服飾店から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『久しぶりだな。 元気にしてたか?』
『あ、姉御! お久しぶりでございます!! 今日は何の御用でしょうか?』
声の主は女団長だった。
『お前に聞くがここに第四魔法兵団の服を着た男が訪ねてこなかったか?』
『サ、サー! たしかにここに訪れて服を購入して出ていきました』
しばしの沈黙。
店主の言葉を吟味していた女団長が口を開く。
『・・・どうやら嘘は吐いていないようだ。 だが、肝心なことを隠しているな。 悪いが店を調べさせてもらうぞ』
女団長の言葉に俺は心臓を握りしめられた感覚を覚える。
(不味い! このまま近隣を捜索されたら見つかってしまう!!)
俺は老婆へと向き直る。
「なんだい? まだ何か用かい?」
「金を払う。 ここから出してくれ」
「よっぽど切羽詰まっているようだね」
俺は老婆に金が入った袋を渡す。
老婆は中を確認すると硬貨を何枚か取り出し懐に入れて袋を返した。
「まいどあり。 ちょいと待ちな」
老婆はその重い腰を上げると今まで座っていた椅子をどかし、カーペットを剥がす。
そこに扉が一つあり、扉を開けると地下へと続く階段が姿を現した。
「ここを進んでいけば王都の外に出られる」
「ありがとう」
「礼はすでに貰った。 さっさと行きな」
俺は言われるがままに階段を下りていく。
それからわずかな光を頼りに道を歩き進める。
しばらくして出口と思われる扉にたどり着いた。
扉を開けると3メートルくらいの段差になっている。
そこから飛び降りると扉は自動的に閉まった。
どうやら外から中に入ることができないような仕組みになっているようだ。
王都から脱出した俺は西にあるミエーテナヒ伯爵領へと逃げることに成功した。
そこから乗合馬車などを使って北を目指すことに。
道中何度か王国兵に見つかりそうになるが、服飾店の店主がくれたかつらのおかげでなんとかやり過ごすことができた。
そして、紆余曲折しながらも俺は世捨て村へと到着したのであった。




