154.貨幣の配布
太陽が西に傾き空を赤く染める頃、スティクォンの招集により、マルチブルグに住む者たち全員が人工海に集合していた。
「スティクォン、何かありましたの?」
「宴ですか?」
代表してメルーアがスティクォンに質問する。
リルたちは用意されている食事のほうが気になるようだ。
「宴も用意しているけど、今日は別の要件で皆を呼んだんだ。 実はこの国で使うお金・・・貨幣ができたので、先行して配布することにした。 これから一人一袋渡していくから」
金を知らない多くのホビット族、ドワーフ族、海人族たちが不思議そうな顔をしていた。
「スティクォンさん、お金って何ですか?」
「お金っていうのは物を買ったり売ったりするために使う物だよ。 今までは物々交換だったけど、これからはお金で物を売買することになるだろう。 ほかにも年に一回税金を納めてもらう予定だ」
「「「「「「ええぇーーーーーっ!!」」」」」」
それを聞いた多くの者たちから不満な声が聞こえてきた。
「それじゃ、食べるのにお金が必要になるんですか?」
「そうなる」
『酒は?』
「嗜好品なので対象になる」
「ぬいぐるみとかは?」
「娯楽品ということで対象になるかな」
シディア、アリアーサ、アールミスの質問にスティクォンが簡潔に答える。
「「「「「そんなぁ・・・」」」」」
アリアーサを筆頭にその場にいた多くの者たちは絶望からかその場で膝を落とし、地面に手をついた。
「皆落ち着いて。 何も今すぐに全部やるというわけではないから。 当分は今まで通りで最初は嗜好品や娯楽品を対象にする予定だ。 それと贈り物として渡したり受け取ったりしたのはお金を支払う必要はないから」
「でもでも、これからはお金が必要になるんですよね? どうやってお金を増やすんですか?」
当然の疑問にスティクォンは再び答える。
「今皆がやっている仕事に国が対価を支払う。 リルたちホビット族がやっている農業やパン作り、ファリーたちドワーフ族がやっている建築や酒造り、ティエスさんたち海人族がやっている海産業、バーズさんたち獣人族がやっている畜産業や乳製品、ほかにもアーネルたちが個人でやっている服飾などに対して国はお金を支払う」
それからスティクォンはアリアーサを見て続ける。
「アリアーサさんなら内務大臣の職に対してお金を支払うことになるかな」
「えっ!!」
自分の職でお金がもらえると聞いて驚くアリアーサ。
「だけど、それはこの国に貢献しないと貰えないから・・・」
「スティクォンさん! 私、やります!! そして、アイスクリームを大人買い・・・えへへぇ・・・」
食べることが大好きなアリアーサ。
頭の中はすでにアイスクリームのことでいっぱいのようだ。
ホビット族の一人が手を挙げて質問する。
「スティクォンさん、今までのことをして具体的にはどれくらい支払われるのですか?」
「そうだな・・・例えば、先ほど話した農業やパン作り、建築や酒造り、海産業、畜産業や乳製品なら1日だいたい銀貨1枚かな? 役職についていればもう少し色はつくけど」
今度は海人族の一人の女性が手を挙げて質問する。
「スティクォンさん、小さな子供や働こうにも働けない者はどうなりますか?」
よく見るとその女性はお腹が少し膨らんでいて、隣に小さい子供を一人連れている。
どうやら女性は妊婦のようだ。
「まだ、働くのに適していない子供や訳あって働くことができない者たちは国に手続きをしてもらい、認められれば補助金の支給や税の減額及び免除できるようにする予定だ」
それを聞いて女性はホッと胸をなでおろした。
「もし、働き口がないという人がいたら国で仕事を斡旋するから」
ここで働けない者たちといえば、年端もいかない子供やまともに動くことができない老人、身体の欠損や常に不調を抱えている障害者、それに先ほどの妊婦みたいにやむを得ない理由を持つ者たちだけだろう。
「それと僕の考えた政策に不満があったり、王として相応しくないと感じたら異議申し立てをできるようにする。 その時は皆で話し合って次の王を決めることになるから」
「政策に関してはまだやっていないので大局を見て判断するしかありませんわね」
「スティクォンさんは皆を引っ張っていく力があるので、王様が相応しくないとは誰も思っていませんよ」
メルーア、ファリーの言葉にその場にいた者たち全員が頷いた。
「えっと・・・過大評価してくれるのは嬉しいけど・・・」
『道を踏み外したらなら無理やりにでも戻してやる。 そういっただろう』
シディアは王になる前にいった言葉を伝える。
「・・・そうだな。 もし、そうなったらお願いするよ。 湿っぽいのはここまでにして、これから皆に貨幣を配布していくから」
スティクォンはウィルアムたちに手伝ってもらい、硬貨が入った袋を皆に一人一つずつ渡していく。
全員に行き届くとスティクォンが説明する。
「まず、袋の中を見てほしいんだけど、金貨が2枚、銀貨が99枚、そして銅貨が100枚入っていることを確認してくれ」
皆はスティクォンの言う通り袋を開けて中を確認する。
スティクォンは金貨、銀貨、銅貨を見せながら話を続けた。
「銅貨100枚で銀貨1枚に、銀貨100枚で金貨1枚になる。 金貨1枚はどのくらいの価値かというと人間族の国や魔族の国では質素な生活で1年間は暮らせるくらいの金額だ。 今皆には金貨3枚相当のお金を配った。 このお金を大事に使うも湯水のように使うも個人の自由だ。 ただし、お金がないからといって盗むのはダメ。 その時は刑罰を受けたり牢に入れるので注意してほしい」
今までマルチブルグでは喧嘩はあれど、犯罪はなかった。
できれば、今後も犯罪がないことを祈るスティクォンである。
「何か質問はあるかな?」
スティクォンが聞くも、皆実感がわかないのか戸惑っている。
「質問や疑問、相談があれば僕のところにいつでも聞きにきてくれれば対応するから」
渡されたお金が価値があることは理解したのか、懐の中に入れたり腰にしっかり括り付けたりしている。
「僕の話は以上だ。 それでは宴を始めよう」
スティクォンの号令で宴が始まる。
生活が変わると感じたのか、皆いつも以上に食べたり飲んだりするのであった。




