152.貨幣を作ろう
城が完成した翌日───
スティクォンのところに朝早くウィルアムがやってきて、シディアから中央の巨木に来るようにとの言伝を伝えていった。
言われたとおりにやってくるとそこにはウィルアムとシディアのほかにクレアとシャンティがいた。
「シディア、どうしたんだ?」
『スティクォン、外交を始める前に貨幣の準備が必要ではないか』
「あ! 忘れてた・・・」
城や学び舎などの建造物、学校の授業、アルラウネの勧誘の手伝いなど色々とやっていたのでスティクォンの頭の中からすっかり忘れていた。
『多忙故に仕方あるまい』
「あははは・・・それでこれから貨幣を作っていくのか?」
『クレアとシャンティの手が空いたので早速作ろうとしたいところだが、ここでは誰が見ているともわからぬ。 場所を移すぞ。 スティクォン、ウィルアム、クレア、シャンティ、我の背中に乗れ』
スティクォンたちはシディアの言う通り背中に乗る。
『それでは行くぞ』
シディアは翼を羽搏かせると空中に浮かび人工山へと飛んで向かった。
到着すると火口の入り口に降りていく。
火口とはいうがシディアたちが人工的に作ったので溶岩までは再現していない。
降りていくと四方をオリハルコンでできた壁に囲まれている。
かなりの距離を降りていくとついに底が見えてきた。
「結構深いな」
『何をいっている、スティクォン。 まだ半分しか降りていないぞ』
今スティクォンが底だといったところはスティクォンたちがいつも暮らしている地上の高さと変わらない。
そうこうしているうちにスティクォンが底だといったところにやってくる。
周りを見渡せば真っ暗く、だだっ広い空間が永遠に続いているように感じた。
『これから最深部に移動する』
シディアはそれだけいうと低空飛行で真っ暗な空間に突っ込み移動を開始した。
明かりも何もないのにシディアはまるで空を舞うような感じで進んでいく。
途中、いくつも上に下にと移動したり、右に左にと曲がったりして目的地を目指す。
それからどれくらい経っただろう。
不意に明るい部屋に出るとシディアが地面に降り立つ。
『着いたぞ』
「眩しい!」
突然明るくなったことでスティクォンたちは手で目を遮った。
しばらくして光源に慣れたのか薄く目を開ける。
スティクォンは二度三度と目を瞬かせてから辺りを見た。
そこは何もないだだっ広い部屋だ。
「ここは?」
『ここは最深部地下100メートルのところにある部屋の一つだ。 我としてはここを造幣局にしたい』
シディアは財務大臣の言としてスティクォンに提案する。
「それは構わないけど、なぜこんな底に?」
『大量の硬貨を置いておく保管場所として最適であるのと、ここなら貨幣や情報を盗み難いからだ。 これからシャンティのスキル【絵画神】で硬貨をデザインしてもらい、クレアのスキル【鉱石創造】で貨幣を増産するのだからな』
「たしかに地上にあるのでは誰かが盗みに入ってもおかしくはありませんな」
シディアの説明にウィルアムが納得する。
「理由はわかったけど別に地上で貨幣を造ってもよかったんじゃないのか?」
『今までならそれでよかっただろう。 しかし、外交をするとなると話は別だ。 我らの国の貨幣が出回ればそれを見て偽造する輩も出てくるだろう』
「それは困るな」
スティクォンはフーリシュ王国の王都で貨幣を偽造した偽硬貨事件が過去に何度もあったことを思い出す。
ウィルアムも同じことを考えていたのだろう。
シディアの説明に同意するように頷いていた。
『中にはクレアやシャンティのスキルに似たような能力を持っている者もいるかもしれない』
「それらの者たちが結託して貨幣を作ることもあり得ますな」
貨幣が出回れば偽造を考え、楽して儲けようとする者たちが出てくるだろう。
『そこでできた硬貨に我が魔紋を付与する』
「魔紋?」
聞きなれない単語にスティクォンは首を傾げる。
『指紋の魔力版だ。 この世界に自分以外に同じ波長の魔力を持つ者はいない。 たとえ双子や三つ子でもだ』
「なるほど、魔紋を使って本物か偽物か特定するのですな」
『あとは魔力を特定する魔道具があれば我が魔力を付与したのかどうか特定できるだろう』
「魔道具につきましては私からティクレ様に作成依頼をしておきます」
『頼んだぞ』
魔道具作りの依頼をティクレに依頼することに決定したところで本題に入る。
『それでは始めるとしよう。 スティクォン、ウィルアム、まずはクレアとシャンティに硬貨を見せてやれ』
「たしかに実物がないと作れないよな」
「こちらでございます」
スティクォンとウィルアムはそれぞれの国で使われている金貨、銀貨、銅貨の三種類を取り出してクレアとシャンティに見せる。
「これが硬貨ですか・・・」
「人間族と魔族のでは違うのね」
クレアとシャンティは手に取って色々な角度から見ている。
「シャンティ、硬貨のデザインを頼むよ」
「具体的にはどのようなデザインがいいのかしら?」
シャンティからの要望にスティクォンは悩む。
「そうだな・・・表はこの国の国旗にしよう。 裏は・・・何がいいだろう?」
「普通であればその国を象徴とする風景や建造物、花などが一般的でしょう」
「象徴するものね・・・」
ウィルアムの助言を聞くもスティクォンはパッと思い浮かばない。
ここでクレアが意見する。
「それならスティクォンさんにすればいいじゃないですか?」
「待って! それはちょっと・・・」
「たしかにスティクォンがいるからこそこの国は成り立っているわ」
「クレア様の言う通りでございますな」
『決まりだな』
スティクォンが止めようとするもウィルアムたちはクレアの意見に賛同した。
「早速デザインするわ」
シャンティは【絵画神】を発動すると硬貨のデザインを素早く描いた。
銅貨は右顔、銀貨は左顔、そして、金貨は正面だ。
「できたわよ」
「いや、これはさすがに恥ずかしぃ・・・」
「任せてください! 【鉱石創造】!!」
シャンティのデザインを見て、クレアは【鉱石創造】を発動して硬貨を作成した。
「できました!!」
できあがった硬貨を見てウィルアムたちが称賛する。
「素晴らしい出来です」
『見事だ』
「完璧ね」
「あはははは・・・はぁ・・・」
こうしてマルチブルグに貨幣が誕生した。




