15.欲に目が眩む者
フォレスト・ベアの肉を食べて満足したリルたち。
ついでにスティクォンたちも久しぶりの食事を堪能する。
『うむ、焼いた肉も美味いな』
さすがに全部は食べられなかったのか余った肉や骨はシディアの胃に収まった。
満たされたところでスティクォンは【現状維持】を発動してリルたちを自分たちと同じ状態にする。
「これでリルたちも僕たちと同じにしたから大丈夫なはずだ」
「? 私たちに何かしたんですか?」
スティクォンの言葉に不審な目で見るリルたち。
「あ、ごめん、説明していなかったね。 これから行くところは砂漠で開拓した土地以外何もないところなんだよ」
「砂漠?」
「あぁ・・・行ってみればわかるかな? そこには当然食料もないから時間が経てばお腹も空く。 そこで僕の【現状維持】で君たちの体力や満腹状態を維持したんだ」
「そうなんですか?」
「お腹が減らないの?」
「なんか実感が湧かない」
リルたちは要領を得ていないようだ。
「あ、ついでにシディアも僕たちと同じように維持したから」
『なに? それでは我も今の腹の状態を維持されているのか?』
「はい」
『満腹ではないがこの状態を維持できるのか・・・改めて聞くとすごいな』
シディアはスティクォンの【現状維持】に感心する。
『うむ、それではそろそろ戻るとするか』
「そうですね」
『皆、我の背中に乗れ。 リル、ファリー、クレアも遠慮するな。 それと我のことは気軽にシディアと呼ぶがよい』
「「「は、はい」」」
スティクォンたちはシディアの広い背中に乗る。
『それでは行くぞ』
シディアは翼を羽搏かせると空中に浮かび西にある死の砂漠へと飛んで行く。
1日が経ち、死の砂漠のスティクォンたちが開拓した場所へと戻ってきた。
そこは見渡す限り何もない土地だ。
唯一あるのはメルーアが【木魔法】で育てた巨木と一キロ毎に植えた木だけ。
何もないことに驚くリルたち。
「「「・・・」」」
「3人とも大丈夫か?」
「「「は、はい」」」
スティクォンはリルたちの満腹度も心配した。
「お腹の調子はどう?」
「あ!」
「そういえば全然お腹が空いてない」
「いつもならぐうぐうお腹が鳴っているのに」
スティクォンに指摘されてようやくお腹が空いていないことに気付いた。
「もしかしてこれがスティクォンさんの【現状維持】ですか?」
「そうだよ。 僕が維持したいと願えばその状態を維持し続けることができるんだ。 また任意で解除もできる」
「すごいんですね!」
「もうあの空腹の時間に戻らなくてもいいんだ」
「スティクォンさんがいれば餓死しない」
リルたちは自分たちが空腹に苛まれる心配がなくなり安堵する。
スティクォンはリルたちの救世主となった。
「リルたちはどんなスキルが使えるんだ?」
「スキル? なんですかそれ?」
「え?」
リルたちはスキルを知らないようだ。
「スキルというのは神が生まれた子供に授けたモノだよ。 僕のスキルは先ほど君たちが褒めてくれた【現状維持】だ」
「それじゃ、私たちにもそのスキルというのがあるんですか?」
「あるにはあるがどうやって調べよう・・・」
スティクォンが困っているとウィルアムが話しかけてきた。
「僭越ながら私が調べてみましょう」
「ウィルアムさん、そんなことができるの?」
「はい。 12歳以上を迎えていれば【鑑定】で調べることができます。 それでは失礼します」
ウィルアムの目が光るとリルたちは驚いた。
「め、目が光ってる?!」
「ぁぅ・・・」
「怖いよぉ・・・」
「怖がらなくても大丈夫ですわ。 あれは爺のスキルで【鑑定】ですわ」
しばらくするとウィルアムの目が元に戻る。
「・・・判明しました。 御三方ともレアなスキルをお持ちです。 リル様は【農業神】、ファリー様は【製造神】、クレア様は【鉱石創造】をそれぞれお持ちです」
リルはあらゆる農業に関することに神懸かるスキル。
ファリーは有から優れた物を作り出すスキル。
クレアは金銀銅といった鉱石を始め、ダイアモンドなどの宝石を無から生み出すスキル。
ウィルアムの説明を聞いてシディアが目を輝かせた。
『クレアよ、お前のスキルで宝石を生み出してはくれないか?』
「え、えっと、シ、シディアさん、ほ、宝石ってなんですか?」
『何? クレアよ、宝石を見たことがないのか? 待っておれ、すぐに持ってくるからな』
それだけ言うとシディアは翼を羽搏かせて、その場からすごい勢いで飛んで行った。
スティクォンたちに気を使って飛んでいた速度の比ではない。
「いやはやドラゴンは金や宝石に目がないと聞きましたが、まさかここまで喰い付くとは・・・」
「あの・・・ウィルアムさん、私のスキルってすごいんですか?」
「すごいといえばすごいのですが、作れたとしてもせいぜい小指の爪にも満たないほどの大きさです」
それを聞いてスティクォンとメルーアもそんなものだろうと笑っていた。
しかし、次のウィルアムの言葉にスティクォンとメルーアは凍りつく。
「ですがそれは作るのに膨大な魔力が必要だからです。 シディア様の考えではスティクォン様の【現状維持】と併用することで莫大な量を生み出そうとしております」
「えっと・・・それって・・・」
「はい、世に出した場合は世界がひっくり返ります」
スティクォンとメルーアはあまりのことに開いた口が塞がらない。
そうこうしているうちにシディアがとんでもない速さで戻ってきた。
シディアは掴んでいた大きな袋を地面に置く。
『待たせたな! これが宝石だ!!』
中を開けるとダイアモンドを始めとした宝石がずらりと入っている。
「うわあああああぁ」
「綺麗」
メルーア、リル、ファリー、クレアが宝石を見て目を輝かせていた。
『まずはこのダイアモンドと同じ物を作ってみてくれ』
「こ、これですか?」
クレアはダイアモンドを色々な角度から見て、今度は質問する。
「あの・・・どうすればそのスキルを発動できるのですか?」
「先ほどの私みたいに自分の中で意識すれば発動します。 クレア様の場合はこのダイアモンドを頭の中でイメージして発動すれば同じ物ができるはずです」
「わ、わかりました。 やってみます」
クレアはダイアモンドを頭の中でイメージすると【鉱石創造】を発動させた。