148.転送
スティクォンは今日も学校で文字の読み書きと数字の計算を教えていた。
生徒たちは皆真剣に学んでいる。
ふと、外を見ると太陽は西に傾き空は赤みを帯び始めていた。
「みんな、今日はここまで。 今教えたことを家に帰ってちゃんと復習するように」
「「「「「はい!!」」」」」
授業を終えた生徒たちは教室から出て行った。
「うーん、終わった」
スティクォンが伸びをしているとウィルアムがやってきた。
「スティクォン様、少々よろしいでしょうか?」
「ウィルアムさん、どうしました?」
「実はお耳に入れておきたいことがあります」
ウィルアムがいつにもまして真剣な表情だったので、スティクォンもちゃんと向き合う。
「それで話は何ですか?」
「ビューウィ様が諜報活動する組織を立ち上げました」
「え゛?」
ウィルアムの言葉にスティクォンは固まった。
一瞬思考が停止したが、すぐに現実に戻ってウィルアムに問いかける。
「えっと・・・ビューウィが?」
「はい。 組織といっても今は同族のベリモ様とお二人だけですが、ゆくゆくは全世界のアルラウネをここに集めて活動する予定でございます」
その報告を聞いてスティクォンは額に手を当てる。
(冗談で考えていたことが現実になりそうだな・・・)
ビューウィは親しくなった者にはからかって面白がる部分があるが、根は皆に気遣いができるアルラウネだ。
今回考えた諜報活動もマルチブルグを守るために必要と判断してのことだろう。
「・・・ウィルアムさん、なぜそれを僕に報告を?」
「スティクォン様はこの国の王でございます。 この事は知っておいたほうがよろしいでしょう。 ビューウィ様も私と同じ意見でございます」
「たしかに」
それを聞いてスティクォンは納得する。
「ビューウィ様とベリモ様は現在多種族の文字習得と私が提供した魔族の資料を覚えながら外にいるアルラウネを探しております」
「勉強をしながら同族探しって、ビューウィはすごいな」
「あら、そんなことはないわよ」
スティクォンが感心しているとうしろから声をかけられる。
振り向くとそこにはビューウィとベリモがいた。
「ビューウィ?! ベリモ?! いつからそこに?」
「普通にいたわよ。 失礼しちゃうわね」
「おどかせてすみません」
ビューウィが呆れた顔で、ベリモは申し訳ない顔でスティクォンを見た。
「ご、ごめん」
「別に気にしていないわ。 それよりもスティクォンに話があるの」
ビューウィは改まってスティクォンに向き直る。
「僕に?」
「そ、以前獣人族をスカウトしに行った時のことを覚えているかしら?」
スティクォンは南にある獣の国に行った時のことを思い出す。
「ああ、覚えているけど」
「そこで会ったアルラウネを勧誘したからここに連れてきてほしいの」
「今からか?」
「そうよ」
ビューウィの無茶ぶりにスティクォンは苦笑いをする。
「シディアに頼んでも往復で二日かかるけど・・・」
「スティクォンのスキルとシディアの超スピードなら1日もあれば問題ないでしょ?」
シディアの超スピードを何度も経験したスティクォンではあるが、できれば安全に移動したいと考えている。
「できれば普通に移動したいんだけど・・・」
「スティクォンなら大丈夫よ」
「ビューウィは一緒に行かないのか?」
「私? 私はもう分身体を現地に送っているわ」
すでに動いていたビューウィ。
スティクォンはそこで一つ疑問が浮かんだのでビューウィに尋ねる。
「一つ聞きたいんだけど、ビューウィの分身体でそのアルラウネの本体をここに持ってくることはできないのか?」
「残念だけど私には生き物を持ってくることはできないわ。 もしかすると同族の中にはそういうスキルを持った者がいるかもしれないけどね」
ビューウィとしてもそんな能力があればスティクォンに頼らず自分でアルラウネたちをここに呼んでいただろう。
スティクォンは一つ溜息を吐いたあと、ベリモに尋ねる。
「ベリモもビューウィと同じスキルなのか?」
「スキルってなんですか?」
スティクォンの質問に戸惑うベリモ。
「これは出会った時のビューウィと同じ反応だな」
「それならば僭越ながら私が調べましょう」
ウィルアムの目が光りベリモを【鑑定】する。
しばらくするとウィルアムはすごく驚いて、それから目が元に戻った。
「・・・判明しました。 ベリモ様はレアなスキルをお持ちです。 ベリモ様のスキルは【送受神】でございます」
「【送受神】?」
「どんなスキルかしら?」
「ベリモ様が手で触れているモノを任意の場所に送ることができるスキルでございます」
物質の転送と聞いて驚くスティクォン。
しかし、ウィルアムの説明では肝心な部分が不明である。
「それって生き物も送れるの?」
「モノの指定はされていないので予想では送ることができると解釈します」
「実際に試してみればわかるわ。 ベリモ、スキルを使って私をこの部屋の隅に送ってみなさい」
ビューウィは部屋の隅を指しながらベリモにスキルを使うように促す。
しかし、スキルの詳細を聞いてもいまいちピンとこないベリモは困惑する。
「あの・・・スキルってどう使うんですか?」
「最初だから言葉にして使ってみるといいよ。 慣れれば意識するだけで使えるようになるから」
スティクォンのアドバイスを受けて、ベリモはその通りにやってみることにした。
「や、やってみます」
ベリモは分身体を部屋の隅に移動する。
「【送受神】」
ベリモはビューウィに触れて【送受神】を発動する。
するとビューウィの姿が消えて分身体のいる場所に現れた。
「あら、本当に移動したわ」
「これはすごいじゃないか!」
「はい。 ベリモ様の分身体を利用すればモノの転送が自由にできると愚考いたします」
スティクォンたちはベリモのスキルに驚愕するばかりだ。
「これがスキル・・・あの、もう一度やってみてもいいですか?」
「それならここからはるか南に私の分身体がいるからそこにスティクォンを送ってもらえるかしら?」
「わかりました!」
ベリモは意識を集中してビューウィの分身体の位置を探り、そして、特定した。
「見つけました! 先に分身体を送って・・・うん! 準備ができたのでいきます! 【送受神】!!」
ベリモはスティクォンに触れると【送受神】を発動した。




