表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/158

147.裏の組織 〔ビューウィ視点〕

家の居間、私は椅子に座ってお茶を飲みながら紙を見ていた。

「これは便利ね」

スティクォン、メルーア、ウィルアム、シディアから人間族の文字や数字の計算の仕方を教えてもらい習得したわ。

「覚えるまでは難しかったけど、習得すれば言葉で伝えるより文字で伝えたほうが正確だし、数字も指で折りながら数えるより楽だわ」

そんなことを考えていると近くにアルラウネ(同族)の気配がした。

「こんなところで勉強ですか?」

「ええ、そうよ」

やってきたのは私の家に同居しているベリモ。

彼女は最近マルチブルグから北西にある森で火災から救助されたアルラウネ(同族)よ。

私が見ている紙を横から覗き込むように見て首を傾げる。

そこには人間族の文字のほかにいくつもの記号が書かれていた。

ベリモは紙に書かれている記号を指さす。

「この一番左のは人間族の文字だからわかるけど、ほかの記号は?」

「これも文字よ。 左から魔族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、海人族、龍族よ。 それぞれが人間族のこの文字を指すわ」

スティクォン、メルーア、シディア、クーイ、ドーグ、ソレーユから各種族の文字や数字を教えてもらい、私なりに同じ文字に該当するものを一覧にして纏めたものよ。

特にシディアは龍族以外にもここでは文字を知らないドワーフ族に代わり、ドワーフ族の文字をはじめ色々な種族の文字や言語を知っているのだから驚くわ。

「こんなに文字があるのですね」

「そうよ。 本来私たち魔物には文字なんて無縁のものだわ。 アリアーサ(ラミア)を見ればわかると思うけど普通はこんな面倒なことはしないわ」

アリアーサは内務大臣ではあるが、基本食事に貪欲な魔物(ラミア)ね。

ただ、意外と鋭いところがあって私たちにない着眼点を持っているわ。

「たしかに」

私の言葉を聞いて納得するもベリモは新たな疑問を感じていた。

「でも、こんなに色々な種族の文字を覚える必要はあるのですか?」

「あるわよ。 私、これでもこの国(マルチブルグ)の外務大臣なの。 今までここ(マルチブルグ)は閉塞的な場所()であったけど、つい先日国として活動することになったのよ。 その際にスティクォンから外務大臣に任命されたわ」

私は外務大臣になった経緯を語る。

「仕事上覚える必要があるだけよ。 けど、仮に相手に言葉が通じなくても文字が書ければ相手に伝えることはできるわ」

「なるほど」

ベリモは文字の一覧を見て少し考えてから私に話しかけてきた。

「私も一緒に勉強してもいいですか?」

「別に構わないけど、ベリモ、貴女が覚えても何の意味もないわよ」

私は外の国との交流に必要だからこそ覚えるのであって、役職に就いていないベリモが覚えても役に立たないとはっきりいった。

「たしかにそうかもしれないけど、私は私がやりたいことをしたいの」

「それならベリモの好きになさい」

そういうとベリモは一旦部屋に戻りペンと紙をもって戻ってきた。

私の対面の椅子に座るとテーブルの上にある紙を手に取って早速勉強を始めたわ。

その間、私たちはお互い無言で勉強する。

どれくらい時間が経過したのでしょう。

コンコンコン・・・

不意に家の扉を叩く音が聞こえてくる。

私は椅子から立ち上がると玄関へと向かい扉を開けた。

そこにはウィルアムが袋を持って立っていた。

「あら、ウィルアム」

「ビューウィ様、お時間よろしいでしょうか?」

「ええ、いいわよ。 中に入って頂戴」

「失礼いたします」

私が許可するとウィルアムは一礼して家に入ってきた。

居間に着くと勉強をしているベリモを見て顔には出さなかったけど少し驚いているみたいね。

気を取り直してウィルアムは袋から紙を取り出すと私に渡した。

「これは?」

「魔族についての資料でございます」

魔族であるウィルアムは自分の知る限りの情報を紙に書いたようね。

私が目を通そうとするとベリモが横から覗き込んできた。

「ビューウィ、これは何?」

「今度国交することになった魔族の国の資料よ」

「見てもいい?」

私はウィルアムをチラッと見た。

ウィルアムとしては珍しく難しい顔をしているわ。

「あまり見せたくないみたいね」

私が代弁するとベリモが突然頭を下げた。

「私、皆さんの役に立ちたいんです!」

ベリモの言葉を聞いて私は何となく察しました。

(ベリモは命を救ってくれた恩返しをしたいのでしょうね)

そう考えるとなんだか微笑ましく感じるわ。

「うふふっ」

笑ったことでウィルアムもベリモも驚いた顔で私を見た。

「ごめんなさい。 微笑ましかったものだからついね」

私は笑うのを止めると今度は真剣な顔でベリモを見る。

「ベリモ、私の補佐をやりなさい」

「私がビューウィの補佐を?」

「ええ、そうよ」

突然の事に驚くベリモ。

疑問を感じたウィルアムが私に問いかけてきた。

「ビューウィ様、いったい何をお考えなのでしょうか?」

「私たちアルラウネで裏の組織を作るわ」

「裏の組織?」

私の発言にウィルアムは驚き、ベリモは理解できていない顔をしている。

「表向きは外交官で、裏は諜報官ということでしょうか?」

「その通りよ」

「その諜報官っていうのは何ですか?」

ウィルアムが説明するもベリモは理解が追いついていないわね。

「諜報というのは裏で暗躍する者たちのこと指します。 諜報のほかにスパイ、(エス)、影とも呼ばれております」

「スパイ? (エス)? 影?」

訳のわからない単語にベリモは混乱しているわね。

「簡単にいうと人や国などの情報を収集する者たちのことよ」

「ああ、なるほど!」

私の説明でベリモも納得したみたい。

「ビューウィ様のお考えは理解しました。 しかし、お二人だけでは諜報は厳しいのでは?」

「誰も二人でやるとはいっていないわ。 世界中にいるアルラウネ(同族)と協力してやるのよ」

「それはまたスケールが大きいですな」

ウィルアムには珍しく苦笑いをしていますわね。

「そういうわけで手始めにスティクォンにお願いして世界中のアルラウネ(同族)ここ(マルチブルグ)に呼んでもらいましょう。 名目は『アルラウネ(同族)が二人だけでは寂しいから』とでもいえばいいわ」

「賛成です」

「ほっほっほっ、これはとんでもないことになりましたな。 ただ、ビューウィ様の案には私も賛成いたします」

「決まりね」

こうして私の発案で裏の組織が密かに作られることになったわ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

「君を愛することはない」と言いますが、そもそも政略結婚に愛なんて不要ですわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

婚約破棄? それならとっくの昔に言い渡されておりますわよ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ