144.昇降機を作ろう
まずは建設地をそれぞれ決めることにした。
ウィルアムを呼んで話し合った結果、北西の住宅地区のど真ん中に城を、その近くに大使館を、城から南へ1キロほど離れたところに学校の学び舎を建てることが決まった。
城や大使館の周辺、それと城から学校の間は舗装された道を、道の両脇には店を作り、商店街のようにする予定だ。
明確な都市設計ができたところで、まずは手頃なところから学び舎を建設する。
普通の家とは違い、壁も柱も天井もすべて装飾にこだわることにした。
最初にシャンティが【絵画神】を発動して見本となる絵を描く。
それを見たファリーが【製造神】を発動して木材からサンプルとなる飾り壁、飾り柱、飾り天井を作っていった。
更にファリーが作ったサンプルを基にドワーフたちは同じように木材を加工して、寸分違わず同じものを作る。
できあがったものからシャンティの設計図通りに組み立てていく。
ファリーたちが建造しているとスティクォンが現場にやってきた。
「ファリー、シャンティ、建設のほうはどうだ?」
「スティクォンさん、順調に進んでますよ」
「今のところは特に問題はないわね」
「それは良かった」
ファリーたちから予定通りに進んでいると聞くスティクォン。
「急いでないから無理なく建ててほしい」
「それなら私たちよりもティクレさんかな」
「そうね。 何か悩んでいるみたいだったし」
ファリーたちが心配そうな顔をする。
「そうなのか?」
「スティクォンさん、ティクレさんを励ましてください」
「私からもお願いするわ」
「わかった。 ティクレさんのところに行ってくるよ」
スティクォンはファリーたちと別れてティクレのところへと向かう。
ファリーたちが建物の骨組みに着手している頃、ティクレは別の場所で奮闘していた。
昇降機の模型を作って試したところ上手くいったので、ファリーから手の空いているドワーフたちを借りて実際に作ろうとした。
しかし、ここである問題が発生する。
どうしようかとティクレが頭を悩ませているとそこにスティクォンが現れた。
「ティクレさん、どうしたんだ?」
「スティクォンさん、これ見てよ・・・」
ティクレが指さしたところには三階建ての小屋があった。
入り口は一ヵ所だけで、中は何もない。
「これは?」
「昇降機の実物だよ。 今は試運転中なんだけど上手くいかなくてね・・・」
ティクレはそれだけいうと今度は昇降機の模型を見せた。
「これは昇降機の模型だよ」
実際に起動すると滑車が動き、中のかごが昇降路の内を普通に上下に移動している。
「模型のほうは私のイメージ通りに動いたんだけどね、ドワーフたちにお願いして実際に作ったら想像以上に魔力を消費してしまったんだよ」
「ああ、そういうことか」
ティクレの説明を聞いてスティクォンは納得した。
模型は本来の物よりも縮小して作られる。
魔石を使うとしても魔力はそこまで消費することはない。
だが、実際の大きさの昇降機を作り起動させたところ、魔石内にある魔力をほぼ消費してしまった。
大きさが変われば当然消費量も比例する。
模型が魔石一個で十分起動するのに対して、実物は何十倍も大きくて重いため、消費量も増大した。
試運転した結果、一階移動するのがやっとだ。
運用するには毎回魔石の魔力を充電しなければならない。
それならば一階毎に新しい魔石に換えればいいが、マルチブルグにはそこまで潤沢に使える魔石はない。
「今まで私が作ってきた物って小物ばかりで、少量の魔力で十分だったんだよ。 大きさに比例して魔力消費量が増大するのは計算外だった。 魔石に魔力を注いで回復するのに相当時間がかかるし、どうしたものかな・・・」
「それなら僕の【現状維持】で魔石内の魔力を常に維持すればいいのでは?」
それを聞いてティクレは目を見開く。
「! そうだった! スティクォンさんのスキルがあったじゃないの! 私のバカバカバカ!!」
ティクレは自分の手で自分の頭をポカポカ叩く。
「まぁまぁ、ティクレさん、落ち着いて」
「スティクォンさん、もう大丈夫だから。 早速試してみよう」
冷静さを取り戻したティクレは近くにある充電済みの魔石をスティクォンに渡した。
「スティクォンさん、お願いします」
「わかった」
スティクォンは【現状維持】を発動して魔石の現在の魔力量と熱量、それに劣化して壊れないように耐久力を維持した。
「できたよ。 魔石の魔力量と熱量と耐久力を維持したから」
「スティクォンさん、ありがとうございます」
それからティクレは昇降機の制御盤から魔石を取り出し、スティクォンから受け取った魔石を所定の位置に嵌め込んだ。
「よし! まずは『二階』から」
ティクレは昇降機に乗ると『二階』のボタンを押す。
滑車が起動してかごが二階に移動する。
「問題なし。 次に『三階』へ」
ティクレが『三階』のボタンを押す。
滑車が起動してかごは三階へと移動する。
「これも問題なし。 では、『一階』へ」
ティクレが『一階』のボタンを押す。
滑車が起動してかごは一階へと移動する。
かごから降りたティクレにスティクォンは話しかけた。
「問題なく動いたね」
「魔力の枯渇による停止は見受けられない。 昇降路内のかごの上下移動にも異常なし。 あとは乗車人数確認と重量確認、それに耐久試験だけだね」
作って終わりだと考えていたスティクォン。
「そんなに確認するの?」
「実用するなら安全面も確保しないといけないからね」
ティクレは技術者として多くの人が利用するのを想定していた。
「うーん、それならいっそのこと昇降機に使われている物全部を僕のスキルで維持してしまったほうが早いかも?」
「なるほど、それは良い考えですね」
「あと、昇降機に使う材料だけど、クレアにお願いして金属に交換してもらおう」
「昇降機の骨組み、かごの骨組み、滑車、紐は金属製が良いよね」
話が纏まったところでスティクォンとティクレはクレアのところに向かった。
クレアを見つけると事情を説明して手伝ってもらうことに。
それからクレアの協力を得たティクレは昇降機試作二号機を作成する。
このあと、ティクレの厳しい試験に合格したことにより昇降機は完成した。