141.久しぶりの手合わせ
「姉上、サレスさん、遠慮せずにどんどん食べてよ」
用意された食事に驚くリクルとサレス。
「それでは」
「遠慮なく」
スティクォンに催促されてリクルとサレスはそれぞれ手近にあったごった煮を手に取り一口食べる。
「! 美味しいですわ!!」
「・・・」
リクルは味の感想を述べ、サレスは何もいわずに一心不乱に食べる。
「スティクォン、このごった煮すごく美味しいわ」
「口に合って良かったです。 そのごった煮はここで収穫した野菜がたくさん入っていますからね」
「そうなの。 この砂漠のど真ん中でこんな美味しい料理が味わえるなんて想像していなかったわ」
そういいながらも食べる手は止まらず、リクルとサレスはすぐにごった煮を完食した。
「スティクォンさん、あれはなんですか?」
サレスは次の料理を物色しているとホタテのバター焼きを指さして、スティクォンに問い合わせる。
「これはホタテをバターで焼いたものだよ」
ホタテのバター焼きを手に取り、口の中に頬張ったサレスは目を見開く。
「これも美味しいです! 噛むほどにホタテの中から肉汁が溢れてきます」
リクルは魚の塩焼きを手に取り噛みつく。
「この魚の塩焼きも美味しいわ」
それからリクルとサレスは気になる料理を見つけては手に取り食べていく。
どのくらい時間が経過しただろう。
酒や料理に満足したリクルとサレスはお腹を擦っている。
「ふぅ、美味しかったですわ」
「本当ですね」
「姉上、サレスさん、満足してくれたようで何よりです」
周りを見れば未だに多くの者たちが宴を楽しんでいる。
リクルは伸びをするとスティクォンに話しかけた。
「さて、私はそろそろ休ませてもらうわ。 スティクォン、家で休ませてもらえないかしら?」
「僕の家でよければ構いませんよ。 サレスさんは?」
「私はもう少し宴を楽しんでいます」
「わかりました。 姉上、家に案内するよ」
スティクォンはリクルを連れて家に戻ると自室に案内した。
「姉上、僕の部屋のベッドを使ってください。 僕はもう少し宴を楽しんできますので」
「ありがとう。 遠慮なく使わせてもらうわ。 それじゃ、お休み」
「お休みなさい」
リクルはベッドに横になると疲れていたのかすぐに眠ってしまう。
それからスティクォンは宴に戻って翌朝まで楽しんだ。
翌日───
宴の場で朝早くに目覚めたスティクォンは家に戻るとそこにはリクルが柔軟体操をしていた。
「おはよう、スティクォン」
「姉上、おはようございます。 早いですね」
「いつものことよ。 身体を動かしてないと鈍っちゃうからね。 あ! そうだ!」
リクルが何かを思いついたのかスティクォンに質問する。
「スティクォン。 木剣ってあるかしら?」
「木剣ですか? ありますよ」
「それじゃ二本持ってきて」
「わかりました」
スティクォンは家の中に戻ると木剣を二本持ってきた。
「姉上、どうぞ」
「ありがとう」
リクルは木剣を一本手に持った。
「スティクォン、久しぶりに手合わせしない?」
木剣を二本持ってこいといわれた時点でスティクォンとしてもこの展開は予想していた。
「少しだけなら」
「決まりね」
スティクォンとリクルはお互いに礼をしてから木剣を構えた。
「姉上、いきます!」
「来なさい! スティクォン!」
スティクォンはリクルに突進して袈裟斬りを放つ。
カンッ!
リクルはスティクォンの斬撃を軽々と木剣で受け止めた。
「どうしたの? この程度では私は倒せないわよ」
「まだです!」
スティクォンは一旦離れると再度攻撃を仕掛けた。
カンッ! カンッ! カンッ!
力任せに攻撃せずに手数で勝負するもリクルは余裕で捌いていく。
「やるわね」
カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!
スティクォンはさらに手数を増やして攻撃する。
「甘い!」
カンッ!
一瞬の隙をついてリクルがスティクォンの木剣を弾き飛ばす。
それからスティクォンの喉元にリクルの木剣の切っ先が突き付けられた。
「ま、参りました」
「しばらく見ないうちに強くなったわね、スティクォン」
リクルは木剣を下ろす。
「姉上に比べればまだまだですよ」
「それは仕方ないわ。 私のスキルは【剣聖】ですもの」
そこでリクルはあることに気づく。
「ねぇ、スティクォン。 もしかして私の体力を維持し続けているのかしら?」
「そういえば解除はしてないですね」
「スティクォン、私の体力の維持を解除して」
「姉上?」
リクルの発言にスティクォンは驚いた。
「スティクォンがいなければ何もできない自分ではいたくないの」
「・・・姉上、僕がアバラス家から追放されてから何かあったのですか?」
「そういえば話していなかったわね。 スティクォンがいなくなってからフーリシュ王国は大変な事になったのよ」
リクルはスティクォンが追放されてからの事を話した。
実家であるアバラス公爵領が見るも無残な荒地へと変貌したこと。
国全体で農作物が不作、木材や金属、布製品など様々な品が不足し、物価が高騰したこと。
兵士や魔法士たちが弱体化し、魔物や魔獣たちが活発化したこと。
話を聞き終えたスティクォンは茫然としていた。
「僕がフーリシュ王国を出たことでそんな大事になっているとは知りませんでした」
「それは仕方がないわ。 発覚したのはスティクォンがアバラス家を追放されてから3ヵ月以上経過していたのよ。 それまでは私も含めて誰もがただの不調としか考えていなかったわ」
「でも、僕のスキルが原因だと特定できましたね」
「最初に気づいたのは国王陛下ですわ。 それからスティクォンの捜索を貴族たちに命令したの。 危険を感じた私はフーリシュ王国を捨てて獣の国に逃げたわ。 最初の1ヵ月は上手くやっていたのだけど、そこで帝国の兵士に襲われてね。 命からがらエルフの国に逃げてサレスと出会ったの。 あとは魔族の国に向かう途中であの火の魔獣に襲われたってわけ」
「そんな事があったんですね」
話を聞いてスティクォンは納得した。
リクルの中にスティクォンに甘えてはいけないという気持ちがあったのだろう。
スティクォンはリクルの要望通り体力の維持を解除した。
「姉上、体力の維持を解除しました」
「ありがとう。 また一から鍛えなおすわ」
スティクォンは今はリクルの好きなようにさせることにした。




