138.姉からの謝罪
リクルから声を掛けられるスティクォン。
「姉上、ちょっと待ってください」
スティクォンはビューウィに話しかける。
「ビューウィ、アルラウネってポーションは効果があるのか?」
「生物ですもの、効果はあるわ」
ビューウィの回答を聞いて今度はアールミスに話しかける。
「アールミスさん、今ポーションを持っていますか?」
「持っているぜ」
アールミスは持っているポーションをすぐに取り出した。
「これからアルラウネの生命力の維持を解除するから、すぐにそのポーションをアルラウネに使ってください」
「わかったぜ」
スティクォンはアルラウネの生命力の維持を解除する。
「アールミスさん!」
アールミスは頷くとアルラウネにポーションをかける。
その直後、アルラウネが発光した。
「ウィルアムさん!」
ウィルアムはスティクォンの意味を汲み取りすぐに【鑑定】で調べる。
「スティクォン様、こちらのアルラウネ様の生命力は安全域まで回復しました。 しかし、魔力が枯渇している状態でございます」
「それなら私が魔力を譲渡するわ。 アルラウネ同士なら魔力の波長も合うから」
ビューウィは自らの魔力を与えていく。
「アルラウネはなんとかなりそうだな。 それじゃ・・・」
スティクォンがリクルに向き直り、話しかけようとするとそこにシディアが割り込んだ。
『待て、スティクォン。 話し合う前に倒した魔獣たちについて聞きたい』
シディアとしてはスティクォンたちが倒した大量の魔獣を食材として確保したいのだろう。
「持ち帰りでいいんじゃないか? 前の狩りみたいにファリーとドレラをここに連れてきて運ぶのを手伝ってもらおう」
『うむ、それならすぐにファリーとドレラをここに連れてこよう』
シディアはその場で羽搏いて空に浮くと超スピードでマルチブルグへと戻っていった。
「ファリーとドレラを連れてすぐに戻ってきそうだな」
「ならば、私たちは倒した魔獣を一ヵ所に集めておきましょう。 その間にスティクォン様はリクル様とお話されるのがよろしいでしょう」
「そうですわね。 魔獣たちはわたくしたちにお任せですわ」
メルーアたちは空気を読んでか、皆倒した魔獣を集める作業に取り掛かる。
「私は少し離れたところでアルラウネに魔力を譲渡しているわ」
「私は皆さんのお手伝いに行ってきます」
ビューウィもサレスもその場から離れる。
残されたのはスティクォンとリクルの2人だけだ。
「皆に気を使わせてしまったな」
「本当ね」
お互い軽く笑いあうとすぐにリクルは真剣な表情に戻った。
「スティクォン、ごめんなさい」
「姉上?! いったい何を・・・」
突然リクルが頭を下げて謝ったことにスティクォンは動揺する。
「私はスティクォンに随分と酷い事をしましたわ」
「姉上、落ち着いて。 話が見えてこないんですけど」
それを聞いてリクルは驚いて顔を上げる。
「スティクォン、もしかしてお父様から何も聞いていないの?」
「何をですか?」
「・・・その様子だとお父様はスティクォンに何も話していないのね」
リクルはアバラス公爵家について語り始めた。
「普通の貴族は嫡男嫡女が当主になる事が多いけど、アバラス公爵家は実力主義なの。 子供が複数いた場合は代々の当主が最も優秀だと判断した者を当主にしますわ。 嫡男嫡女であっても実力がなければ当主になることはできないのよ」
「それは初めて知りました」
「私もスキル授与の時に初めて知ったのよ」
スキル授与と聞いてスティクォンは苦い顔になる。
「僕の場合はスキルが判明した直後に父上から追放宣言を受けたから・・・」
「そうだったのね。 話を戻すけど、【剣聖】のスキルと知った私は王侯貴族に嫁ぐよりもアバラス公爵家当主の座が欲しかったの。 だけど、兄様は【賢聖】のスキルを持っていたし、スティクォンのスキル次第では誰が当主になるかわからなかったわ」
リクルの説明にスティクォンは疑問を感じた。
「でも、姉上は父上と同じ【剣聖】のスキルだから普通に考えれば姉上が当主になるはずではないでしょうか?」
「たしかに私はお父様と同じ【剣聖】を持っていますわ。 もし、お父様が武器を優先していたなら私が当主の座になっていた可能性はとても高いでしょう。 しかし、私の【剣聖】も兄様の【賢聖】も同じ【聖】に関する以上、甲乙はつけられないの」
「ああ、だから兄上と姉上はあの時から仲が悪くなったのですね」
リクルはスキル授与の儀のあとからロニーとの仲が急に悪くなり、スティクォンにも冷たく当たっていた。
「近い表現ね。 実際には私も兄様も当主の座を競い合っていたのよ。 お父様に認められれば当主になれるのですから。 仮に兄様に勝てたとしてもまだスティクォンがいたから油断はできなかったわ」
「僕が賜ったスキルは兄上や姉上と競い合うようなスキルではなかったですけどね」
「スティクォンのスキルが仮に【剣】が付くスキルだとして、【剣鬼】、【剣豪】、【剣客】のいずれかなら当主候補すらなれず、【剣聖】なら私や兄様と競い合うことになり、そして、【剣神】であったなら当主の座は間違いなくスティクォンになっていたでしょう」
それを聞いてスティクォンは驚いていた。
「【剣神】というだけで当主になれるのですか?」
「なれますわ。 もっともスキル授与の儀で【神】に関するスキルは100年に1度現れるかもしれないといわれていますわ」
「それほど【神】に関するスキルは貴重なんですね」
スティクォンが納得したところでリクルは話を続ける。
「私の無尽蔵の体力は最初スキル【剣聖】のおかげだと思っていました。 でも、実際にはスティクォンのスキル【現状維持】であることがわかったの」
「僕のスキルが姉上を助けていたと?」
「その通りよ。 なのに私は恩を仇で返すみたいにスティクォンに酷いことをしましたわ」
「ああ・・・もしかして、あの地獄のような剣の特訓のことですか?」
スティクォンが質問するとリクルは恥ずかしながら頷く。
「許してとはいわないわ。 ただ、直接会って謝りたかったの」
それだけいうとリクルは再び頭を下げる。
リクルが謝罪した意味をようやく理解したスティクォンであった。




