137.姉弟の再開
スティクォンはバーズやスポーグたち獣人族がいる方へと向かっていると火の魔獣たちが現れた。
しかし、魔獣たちは先ほどメルーアの放った【水魔法】を受けてずぶ濡れになっているのか、再発火しても上手く火を纏うことができていない。
「火を纏われると厄介だから妨害させてもらうよ」
スティクォンは【現状維持】を発動して火を纏っていない状態を維持した。
これにより魔獣たちは身体が乾いても再び火を纏うことはできない。
「これでよしと。 さぁ、いくぞ!」
スティクォンは剣を抜くと魔獣たちに突撃する。
「はっ!」
「グギャアアアアアァーーーーーッ!!」
袈裟斬りして1匹の魔獣を倒す。
仲間がやられたところで魔獣たちは一斉にスティクォンを攻撃した。
「うわっ! やめろっ! 噛むなっ!」
身体中を魔獣たちに噛まれるも、スティクォンは事前に【現状維持】で自分の身体の状態を維持していた。
本来なら噛まれたところから血飛沫が舞い、肉を引き千切られ、骨が折れ、内臓が潰されているはずだが、今のスティクォンは鋼鉄をも凌ぐ硬い皮膚をしているので、魔獣の鋭い歯を持ってしても食い破ることはできない。
スティクォンは噛みついている魔獣を1匹1匹剣で刺していく。
首や額や心臓を貫かれた魔獣たちは悲鳴を上げるとその場に倒れた。
ここにきて魔獣たちはようやく異変に気付く。
いくら噛んでも死なないどころか血の一滴もでないスティクォンを異質な存在と認識した。
それと同時に勝てないことも理解したのか、噛むのを止めてその場から逃げる。
「あっ! こらっ! 逃げるなっ!」
スティクォンは【現状維持】を発動して魔獣たちの筋肉を固定するように維持した。
これにより身体全体があたかも膠着して動かすことができない状態だ。
「悪いけどバーズさんたちの方には行かせないよ」
スティクォンは持っている剣で動けなくなった魔獣たちを1匹1匹倒していく。
最後の1匹を倒すとほかに魔獣たちがいないことを確認する。
「全員倒せたな。 せっかく魔獣が手に入ったんだからあとでシディアに回収してもらおう」
スティクォンは【現状維持】を再び発動すると魔獣たちの鮮度を維持した。
これでこれ以上腐敗することはないだろう。
「さて、急いでバーズさんたちのところへ加勢しに行こう」
スティクォンは魔獣の死骸をそのままにバーズたちの方へと走る。
到着すると案の定バーズたちは火を纏った魔獣たちに苦戦していた。
「こいつら、本当に火が邪魔だな」
「これさえなければ余裕で倒せるのによ」
「私が風で火をかき消すからそこを狙ってくれ」
アールミスは【風魔法】を発動して魔獣たちの火を吹き飛ばす。
だが、魔獣たちは再発火して火を纏おうとする。
「火は纏わせないぞ!」
スティクォンは【現状維持】を発動して魔獣たちの今の状態を維持した。
これで先ほどの魔獣と同じ火を纏うことはできない。
「火を纏わないぞ?」
「どういうことだ?」
バーズたちが疑問に感じていると魔獣たちの後方からスティクォンが現れた。
「皆、遅れてごめん。 救助は上手くいったから加勢しに来たよ」
「助かったぜ」
「これで形成は逆転だな」
スポーグの言う通りスティクォンが加勢したことで形成は一気に逆転した。
スティクォンのスキルで魔獣たちは火を纏えずにいる。
挟撃されたことで魔獣たちは逃げ場を失い、そのまま全滅した。
「いやぁ、本当に助かったぜ」
「消しても消しても火を纏うからなかなか倒せなくて困っていたんだ」
バーズやスポーグたち獣人族、それにアールミスがやってきた。
「スティクォン?」
「?」
聞き覚えがある声がしたのでそちらを見る。
「あ、姉上?!」
そこにはスティクォンの姉であるリクルがいた。
「やっぱり、スティクォンですわ」
リクルはスティクォンの方へと歩いてくる。
スティクォンの隣にいるバーズが尋ねてきた。
「スティクォンさん、あの嬢ちゃんと知り合いか?」
「僕の実の姉だよ」
「へぇ、スティクォンさんの姉さんか」
「別嬪さんだな」
バーズたちに姉だと伝えるとそこにリクルが到着した。
「久しぶりね、スティクォン」
「姉上こそ元気そうで何よりです。 ところでなぜ姉上がここにいるのですか?」
「それは私の科白ですわ」
「僕はこの森に住むアルラウネが助けを求めてきたので救出しに来たのです。 姉上は?」
「私は・・・」
リクルが暗い顔をして話そうとしたとき、地面に影ができる。
そして、それは地面に降りてきた。
ズシイイイイイィン・・・
「「きゃぁっ!」」
『スティクォン、こっちは終わったぞ』
降りてきたのはシディアだった。
リクルともう一人のエルフが蒼褪めた表情で震えながらシディアを見ている。
「え?」
「さ、さっきのドラゴン?」
リクルたちを他所にスティクォンはシディアに話しかける。
「シディア、こっちも終わったよ」
『うむ、全員無事で何よりだ』
「ス、スティクォン、あのドラゴンはいったい・・・」
リクルは震えながらもスティクォンに問いかける。
「僕の仲間だよ」
「仲間?」
リクルが疑問を感じていると、シディアの背中からメルーアたちが降りてきた。
「スティクォン、無事でしたのね。 あら? そちらの方たちは?」
『ん? たしかに見かけぬ顔だな』
メルーアはスティクォンの隣にいるリクルを見て警戒し、シディアたちはリクルともう一人のエルフをまじまじと見る。
「こちらは僕の実の姉だよ」
「へぇ、スティクォンにお姉さんがいたのですね」
『ほう、スティクォンに姉がいるとはな』
スティクォンがリクルを紹介するとメルーアは安堵し、シディアたちは興味深そうにリクルを見た。
「スティクォンの姉でリクルですわ」
「サレス。 ハーフダークエルフです」
リクルとサレスが名を名乗る。
「僕は姉上と同じ人間族のスティクォンです」
「わたくしは魔族のメルーアですわ」
「同じく魔族でこちらに御座すメルーアお嬢様の執事をさせていただいておりますウィルアムと申します」
『ドラゴンのシディアだ』
スティクォンたち主要メンバーもそれぞれ名乗った。
「スティクォン、少しいいかしら?」
リクルは真剣な表情でスティクォンを見つめていた。




