136.救出
地上では火の魔獣たちと戦っている者たちがいたが、圧倒的な数に苦戦を強いられている。
「おい、あれはまずいぞ」
「スティクォンさん、俺たちは地上で戦っている奴らを援護に行く」
それだけいうとバーズやスポーグたち獣人族はシディアから飛び降りた。
「私も獣人族をサポートしに行くぞ」
少し遅れてアールミスが獣人族を追うようにシディアから飛び降りる。
「わたくしは引き続き【水魔法】で水を雨のように降らせますわ」
「メルーアさんのサポートに徹します」
「私は万が一ここを狙われることを想定して残ります」
「【風魔法】でサポートするわ」
メルーア、ウィルアム、アリアーサ、クーイはここに残り、森の鎮火に尽力する。
「では、僕、ビューウィ、ティクレさんは助けを求めてきたアルラウネとほかに生存者がいるならその者たちの救助に専念する」
「ええ、いいわよ」
「はい」
スティクォン、ビューウィ、ティクレもシディアから飛び降りた。
地上に降り立つとスティクォンはビューウィに問いかける。
「ビューウィ、生存者の居場所を確認できるか?」
「今やるわ」
ビューウィは目を閉じる。
「・・・そう、そこにいるのね」
ビューウィは目を開けると苦い顔をする。
「スティクォン、まずいわ。 アルラウネは火のど真ん中にいるわ。 火に囲まれ、魔力もほとんどない状態なのか自力で脱出するのは不可能だわ」
「僕が直接行くよ」
「私も援護するよ」
「2人とも待ちなさい」
スティクォンとティクレが行こうとするとビューウィが引き留めた。
「私も行くわ。 この燃えさかる森の中、私がいなければアルラウネを探すのは困難よ」
「だけど、この中に入ったらビューウィだってただではすまないよ?」
「それなら私の【風魔法】で守るから」
スティクォンはビューウィの事を心配するが、ティクレが魔法で守ると宣言した。
「ティクレ、大丈夫なのか?」
「これでも魔法には長けているから任せてよ」
「ありがとう。 期待しているわ」
「いくよ!」
ティクレは【風魔法】を発動すると風を前方に放つ。
これにより火が左右に割れて道ができた。
が、火は元に戻ろうとする。
「させるか!」
スティクォンは【現状維持】を発動すると火が閉じないように維持した。
閉じかけた道は塞がらないまま残っている。
「急ごう!」
スティクォン、ビューウィ、ティクレは風でできた道を走る。
ビューウィが指示した方向にティクレが【風魔法】で道を作り、スティクォンが【現状維持】で道を維持して進んでいく。
そして、ついに火の中心部まで辿り着いたが、周りを確認してもアルラウネの姿がどこにも見つからない。
「ビューウィ、どこら辺だ?」
「ちょっと待って・・・そこね」
ビューウィは今にも燃えてなくなってしまいそうな一輪の花を見つけた。
どうやら魔力がないのかアルラウネの姿を維持できていないようだ。
「スティクォン」
「任せてくれ」
スティクォンは【現状維持】を発動してアルラウネの生命力を維持した。
「今、僕のスキルで生命力を維持した。 これで死ぬことはない」
「あとはアルラウネをここから移動させるだけね」
ビューウィはアルラウネの周りの土を丁寧に退かす。
そして、綺麗に取り除くと赤ん坊を抱くような優しい手つきでアルラウネを持ち上げた。
「これでよし。 あとはここから離れるだけね」
「長居は無用だ。 急いで来た道を戻ろう」
「「「「「グルルルルルゥ・・・」」」」」
来た道を戻ろうとしたところで、魔獣たちがスティクォンたちを取り囲んでいた。
「囲まれた?!」
「一体どうすれば・・・」
この状況でビューウィがティクレに問いかける。
「ティクレ、アールミスみたいに【風魔法】で風の結界を張ることはできるかしら?」
「できるよ」
「全力で張ってちょうだい」
「わかったよ」
ティクレは【風魔法】で風の結界を張る。
「スティクォン、急いで風の結界とこの空間を維持して」
「ああ!」
スティクォンは【現状維持】を発動するとビューウィの言う通り風の結界と自分たちがいる空間を維持した。
その直後だ。
上空からすさまじい量の水が降ってきた。
水はティクレの風の結界に触れるも外側で弾かれて内側には一滴も入ってこない。
周りにいた魔獣たちはというと大量の水に流されていた。
「な、なんだ?」
「これはいったい・・・」
「私が分身体をシディアさんのところに送って状況を説明したの。 それで風の結界が見えたらそこにありったけの水を放つようメルーアに指示したわ」
ビューウィはスティクォンたちの疑問に平然と答える。
「できれば僕たちにも事前に伝えてほしかったんだけど」
「あら、ごめんなさい」
ビューウィは悪びれることもなく、いつも通りの調子で応対する。
そうこうしているうちに上空からの放水が終わった。
火は消火されたが、周りの木々からは燃えた臭いが充満していく。
そこに突然強烈な風が巻き起こり、臭いを吹き飛ばす。
しばらくしてスティクォンたちの近くにシディアが降り立った。
ティクレは風の結界を解除し、スティクォンも空間内の維持を解除する。
『スティクォン、ビューウィ、ティクレ、無事か?』
「ああ、ビューウィに助けを求めてきたアルラウネも無事保護した」
「この森には逃げ遅れた者はもういないわ」
「あとは魔獣たちを倒すだけだ」
スティクォンたちはアルラウネを無事に救出できたところで魔獣たちの事を考える。
「シディア、現在の状況はどうなっているんだ?」
『まず、獣人族たちは魔獣たちと今も戦っている。 また、端のほうでは未だに燃えているところがある。 それと先ほどのメルーアの【水魔法】でここらにいた魔獣たちは纏っていた火を消された上で大量の水に流されていったぞ』
現状を把握したスティクォンは皆に指示を出す。
「それなら僕はバーズさんたちの援護に行くよ。 ビューウィとティクレはシディアと一緒に行動してくれ。 シディアたちは未だに燃えているところに行って消火活動をお願い」
『うむ、いいだろう』
「わかったわ」
「そうさせてもらうよ」
シディアはビューウィとティクレを乗せると未だ燃えている方へと飛んでいく。
「さて、僕も加勢しに行かないと」
スティクォンはバーズやスポーグたち獣人族がいる方へと走り出した。




