135.リクル8 〔リクル視点〕
あれから何日が過ぎたでしょう。
私はハーフダークエルフのサレスと共に魔族の国を目指しています。
本来ならフーリシュ王国とエルフの国の境目を歩くところですが、西をぐるりと回るように移動していました。
どうやらサレスは私のことを心配してわざわざ遠回りに移動しているようです。
「サレス、今どこら辺ですか?」
「ここから東に行けばおそらく魔族の国に出るかと思いますが、もし、死の砂漠に出たら命はないでしょう」
「死の砂漠?」
聞きなれない場所に私は聞き返していました。
「エルフの国と魔族の国の境目にあるところです。 一歩足を踏み入れれば灼熱により生命力を奪われ、最悪死に至るそうです。 【水魔法】や【風魔法】を駆使して踏破を目指した者たちは皆帰らぬ人になったそうです」
「随分と物騒なところですわね」
「そこを通るにはここからだと中央を通らなければならないです。 ほかのエルフたちに見つかるので今回はその道は通りません。 もっと北上してから魔族の国に入国する予定です」
「正直助かりますわ」
サレスの気遣いに私は感謝します。
話しながら歩いていると突如開けた小さい空間に出ました。
ほかと違いまるで何かをくりぬいたような感じです。
「おかしいですね・・・たしかここに茸の家があったはずなんですけど・・・」
「茸の家?」
「ええ、少し変わったエルフたちがいるのですが、彼女たちが住んでいるのが茸の家なんです」
「そんなのどこにもありませんわね」
私たちは辺りを見ますが、それらしい家は見つかりません。
「ないものは仕方ありません。 先に進みましょう」
それから数日後───
さらに北上したところで私たちは異変に気付きます。
「森がざわついていますわね」
「それに焦げ臭いです」
サレスとそんな会話をしていると森の奥から突然動物たちが私たちの方へと走ってきます。
「何事ですか?!」
「こっちに来ます!」
私たちに襲い掛かると思いきや素通りして去っていきます。
動物たちが現れた方向を見て私たちは驚きました。
森が燃えていたのです。
「も、燃えている」
「なぜ、森が・・・」
「「「「「グルルルルルゥ・・・」」」」」
その原因はすぐにわかりました。
燃えている木々の中から火を纏った獣たちが現れたのです。
唸り声の数から少なくとも10匹以上はいるでしょう。
「な、何あれ?」
「あれは魔獣ですわ! なぜこんなところに!!」
私は剣を抜くとすぐに戦闘態勢に入りました。
サレスも理解したのか、いつでも魔法が使えるように準備しています。
「これが動物たちが逃げ出した原因ですか?」
「そのようですわね。 私は剣技が得意ですけどサレスは?」
「私は【風魔法】が使えます」
「【水魔法】は使えないの?」
私の問いにサレスは首を横に振ります。
【水魔法】を期待したのですが、使えないのであれば仕方がありません。
魔獣たちは私たちを見つけるなり襲い掛かってきました。
「来ますわよ! サレス、【風魔法】で火の衣を剥がしてください!」
「はい!」
サレスは【風魔法】を発動すると私の要望通り魔獣たちが纏っている火を吹き飛ばしました。
私はその一瞬に露出した部分を剣で斬っていきます。
「「「「「グギャアアアアアァーーーーーッ!!」」」」」
「よし! これで・・・!!」
そこで予想だにしないことが起こりました。
魔獣たちが再び火を纏ったことで傷口が焼かれ、無理矢理止血したのです。
「まずいわね・・・サレス! 気をつけて!」
手負いとなった魔獣たちがどれほど危険なのか、私はよく知っています。
「これならどう?」
サレスは再び【風魔法】を発動すると今度は風の刃で魔獣たちを攻撃します。
「グアァッ!!」
一番近くにいた魔獣に当たり、悲鳴を上げたあとそのまま絶命しました。
「はあぁっ!!」
続けざまに【風魔法】を発動するサレス。
しかし、魔獣たちは先ほどの仲間の死を学習したのか風を察知して素早く後退します。
それから揺らぎを見て風の刃を躱しました。
「躱された?!」
「知能が高い・・・厄介ですわ」
魔獣たちは危険を察知したのか、固まらず左右に分散しました。
「まずいですわ!」
「早くここから離れないと!」
私たちは後退しようとしますが、すでに魔獣たちが退路を塞いでいました。
「囲まれましたわ!!」
私たちの周りを魔獣たちが取り囲んだのです。
それから魔獣たちが纏う火が近くの木に引火し、徐々に私たちの周りの木々を燃やしました。
燃えさかる木々は熱と煙を発生させて私たちに襲い掛かります。
「げほっげほっげほっ・・・」
「煙がっ・・・」
このままでは2人とも死んでしまいます。
「サレス! 魔法で道を作ってください!」
「わかったわ!」
サレスは【風魔法】を発動すると燃えていない方に暴風を放ち道を作ります。
その隙に私たちは魔獣たちの包囲網を突破しました。
「どうするの?!」
「とりあえず距離を取りましょう!」
私たちは燃えていない方へと走りますがすぐにその足が止まります。
「あ・・・あれは・・・」
上空を見るとそこには全長20メートル超、赤眼の黒いドラゴンが羽搏いていました。
前方にドラゴン、後方に魔獣たち。
「無理だわ・・・」
「こんなの逃げられない・・・」
私は心の中で死を覚悟したところで頭上から何かが降ってきました。
(雨? いや、これは氷? なぜ氷が空から降ってきたの?)
私は素早く空を確認しました。
すると上空の雨粒が突如氷りつき、そのまま地面に振ってきたのです。
「助かった?」
「いえ、まだよ・・・?」
そこで私はある異変に気づきました。
よく見ると魔獣たちに氷が触れるも蒸発せずに当たっていたのです。
「どういうこと?」
「氷が火に触れれば融けて蒸発するはずです」
私は地面に落ちている氷を拾いました。
「冷たい。 それに融けない」
本来なら掌の温度で融けるはずの氷が冷たさはそのままに原形を留めていました。
そして、もう1つ気づいたことがあります。
それは上空にいるドラゴンが襲ってこないことです。
「もしかして、この氷ってあのドラゴンが降らせているのかしら?」
「わからないです。 でも、少なくとも私たちの敵ではないようです」
私たちは頷きあうと魔獣たちの攻撃に備えることにしました。




