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134.ラストール8 〔ラストール視点〕

イコーテムの謀反、それにデジャス辺境伯領が帝国に占領されたことは貴族たちの間に瞬く間に広まった。

そんななか、今日も今日とて悪い知らせがやってくる。

「陛下! 報告します! シターテ子爵がイコーテム公爵に服従しました!!」

「・・・わかった。 下がれ」

「失礼いたします!!」

報告に来た文官を下がらせると余は溜息を吐く。

「リックル男爵、ヘツラー男爵に続きシターテ子爵までもがイコーテムについたか」

「彼らは元々イコーテム公爵の派閥の者たちです。 自然の成り行きかと」

「問題は派閥に属していないほかの貴族たちだ。 彼らが余につくかイコーテムにつくか・・・」

「あるいは帝国に寝返るか・・・ですかな?」

宰相は余を見て、考えたくもない事をさらりと口にする。

デジャス辺境伯領が帝国に占領されたことで、貴族たちに第三の選択肢を与えてしまったからだ。

賢い者は身の振り方をすでに決めていることだろう。

1つだけ確実なことは時間が経つにつれ、フーリシュ王国の地図が描き変わっていくことだ。

南はイコーテムが、東は帝国の占領地として拡大していくだろう。

これで北と西の貴族たちまでもが掌を返して離反しようものなら、いよいよ王家は孤立無援状態になる。

「はぁ・・・どうしたものか・・・」

余に残された道は4つ。


1.イコーテムと帝国を同時に相手にする。

2.イコーテムと和解し、帝国を倒す。

3.帝国と和平を結び、イコーテムを倒す。

4.王家を捨てて逃げる。


1はあまりにも愚かな選択だ。

わざわざ二正面作戦をする理由がない。

だが、イコーテムも帝国も余の都合などいちいち考えていないだろう。

どちらかが先に余とぶつかって、疲弊しているところに残ったのが漁夫の利を狙ってうしろから攻めてくるのがオチだ。

理想は同時に攻めてきて三つ巴の状態になることだが、イコーテムと帝国が裏で密かに繋がっていた場合は目も当てられない。

それならば狙われるのを覚悟で1対1を2回する方がまだマシだ。

2はイコーテムを説得させる何かがあれば可能だろう。

あるいは身内を人質にしてイコーテムを無理矢理にでも付き従わせるかだ。

有効的ではあるが、残念ながらイコーテムからすでに宣戦布告されたことにより和解は難しいだろう。

3は帝国との早期会談が望めれば可能ではある。

しかし、帝国がフーリシュ王国に何を要求するかだ。

領土の一部を渡せというならともかく、余の首を差し出せとかいわれようものなら断固拒否する。

4は文字通り王を国を捨ててどこか安全なところへと逃げることだ。

余とて人の子、国や民などよりも自分が一番大事である。

仮に逃げたとして、逃げた先で生きていけるかが問題ではあるが。

「どうすべきだと思う?」

余は隣にいる宰相に話しかける。

宰相は顎に手を当てて少し考えてから意見を述べた。

「イコーテム公爵を説得して、味方につけた後に帝国と戦うのがよろしいかと」

「・・・それしかないか」

イコーテムの子である長男ロニー、長女リクル、次男スティクォン。

このうちリクルとスティクォンの二名は行方不明。

ロニーは第四魔法兵団に異動させ、現在はデジャス辺境伯領に送っている。

イコーテムを説得させるにはロニーしかない。

ただ、ロニーが生きていればの話だが・・・

「成功すると思うか?」

「こればかりはやってみないとわかりませんな」

余の質問に宰相は渋い顔をしている。

「そうだな。 まずはイコーテムの息子であるロニーが無事であればの話ではあるが」

この時の余は第四魔法兵団が無事に戻ってくる事を祈る事しかできなかった。




1週間後───

文官から第四魔法兵団が戻ってきたという報告を受ける。

謁見の間で待っていると扉が開いて第四魔法兵団団長が入ってきた。

中央まで来ると膝を突いて口上を述べる。

「第四魔法兵団ただいま戻りました」

「ご苦労。 状況は聞いている。 デジャス辺境伯及び第四騎士団については残念ではあるが、お前たち第四魔法兵団だけでも無事に戻ってきてくれて良かった」

「ご心配をおかけしました」

労ったところで本題に入る。

「先日、第四魔法兵団に配属したロニーは無事か?」

「新入りなら無事です」

「今すぐここに連れてきてくれ」

「サー! イエッサー!!」

団長は余に一礼して謁見の間を出て行く。

それからしばらくしてロニーを連れて戻ってきた。

挨拶もそこそこに余は本題を切り出す。

「イコーテム・アバラスを止めよ」

「・・・は?」

ロニーは素っ頓狂な声をあげた。

「えっと・・・父上に何かあったのですか?」

余は素直に話すことにした。

理由を聞いたロニーは天を仰いだあと、余に話しかける。

「無理だっ! 国王陛下、あなたは何もわかっていないっ! 父上の・・・イコーテム・アバラスの恐ろしさをっ!!」

余とてイコーテムのことは重々承知している。

「無理でもなんでもやらなければこのフーリシュ王国が(ほろ)ぶのだぞ?」

「それは国王陛下、あなたが自分の身可愛さにいっているだけじゃないのかっ! イコーテム・アバラスがどれほど危険な人物か国王ならば知っていて当然の事だろうっ!!」

図星を突かれ、余は苦い顔をした。

「貴様! 陛下に向かってなんて口の利き方をするんだ! 答えは『サー!』だといったはずだぞ!!」

隣にいた団長がロニーの頭を地面に押し付けた。

「ぐっ! ほかの事ならともかく怒りで暴走している父上を止めるなんて無謀なこと俺はしたくないぞっ!!」

「口答えするなっ! 命令を拒否するならば俺自ら制裁を下すぞっ!!」

「ふっ・・・ざけるなよっ!!」

ロニーは【風魔法】を発動して自らを巻き込んで竜巻を作り出す。

団長は竜巻に巻き込まれて上空へと吹っ飛んで天井にぶつかったあと、弾かれて余の方へと落下して地面にたたきつけられる。

その隙にロニーは謁見の間を出て逃走した。

「ロニーを捕まえろっ! ただし、殺すなっ!!」

余はロニーの捕縛命令を下す。

だが、ロニーを捕まえることはできなかった。

元・宮廷魔導師団だけあり、王城の構造を熟知していたのだろう。

まんまと脱出されてしまった。

ロニーを利用できなかった以上、あとは自力で何とかするしかない。

そして、余のところに悪い知らせが入る。

ついにイコーテムが大軍を率いて攻めてきた。


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