131.マルチブルグに帰国
晩餐会から3日後───
スティクォンたちはマルチブルグに帰ることになった。
「キーラ、招待してくれてありがとう。 楽しかったよ」
「我としても充実した日々であったぞ、スティクォン」
スティクォンとキーラは握手する。
馬車止めのところにはスティクォン、メルーア、ウィルアム、シディア、キーラ、それにプラムスたち魔族がいた。
ファリーたちや馬、荷車は前日にシディアに頼んで先にマルチブルグに帰ってもらった。
「大使館の準備ができ次第連絡しよう」
「こちらも急いで準備するよ」
手を離すとスティクォンたちはシディアの背中に乗った。
「それじゃ僕たちはマルチブルグに帰るよ」
「また会おう」
別れの挨拶を済ますとシディアは翼を羽搏かせると空中に浮かび南西へと飛んでいった。
帰路に就く中、スティクォンたちの緊張が解ける。
「ふぅ・・・なんとかなったな」
「ええ、本当に」
「国に戻りましたら色々と動かなければなりませんからな」
「今のうちに休んでおこう」
スティクォンたちはマルチブルグにつくまでの間、しばしの休憩を取る。
マルチブルグに戻るとリルたちが出迎えてくれた。
「スティクォンさん、お帰りなさい」
「ただいま。 留守中何かあったかな?」
「特に問題は起きてないです」
「それは良かった。 こっちは大変だったよ」
スティクォンは疲れた顔で話をしようとするとうしろから声が聞こえた。
「ああ! やっと見つけた!!」
声がしたほうを見るとそこには背恰好がビューウィとは微妙に違う全身緑色で一糸纏わぬ姿のアルラウネがいた。
「ア、アルラウネ?!」
「あら? あなたはたしかアーネルたちを教えてくれたアルラウネね」
「お願いっ! 助けてっ! このままじゃ森が燃えてなくなっちゃうっ!!」
アルラウネは鬼気迫る勢いでスティクォンたちに助けを求めた。
「ちょっと、落ち着きなさい。 たしかここから北西にある森だったわよね?」
「そうよっ! 今、森では火の魔獣が暴れていて、偶々通りかかった人族たちが抑えているけど、それももう限界なのっ! このままじゃ全員死んじゃうっ!!」
アルラウネから状況を聞いてスティクォンたちはびっくりした。
かつてマムモたちが森の中は危険で住み難くなったといっていたが、それが現実に起きたのだ。
「っ! もう・・・げん・・・か・・・い・・・お・・・ねが・・・い・・・たす・・・け・・・」
それだけいうとアルラウネの姿が霞のように消えていった。
「消えたっ?!」
「どうやら魔力を使い果たしたようね」
アルラウネは危険を承知でビューウィを頼ってここまで分身体を送ってきたのだろう。
「助けに行かないと!」
「スティクォン、待ちなさい。 相手は火の魔獣よ。 策もなく突っ込めば死ぬ・・・ことはないわね」
ビューウィの言う通りスティクォンのスキルで生命力を現状維持しているので死ぬことはない。
「まずは誰が向かうのか検討いたしましょう」
「ウィルアムさんの言う通りだな。 まずは僕、それに【水魔法】を使えるメルーア、補佐としてウィルアムさん、戦闘が起こるかもしれないから獣人族の皆さんかな?」
バーズ、スポーグ、それといつもの虎人族と鷹人族が頷く。
そこにビューウィとクーイたちエルフ3人娘も手を挙げる。
「助けを求められたのですもの。 私も行くわ」
「私も行きます」
「魔法で援護するよ」
「【風魔法】で皆の身を守るくらいはできるからな」
「あとは大気中の水分を利用できるアリアーサ様も連れていきましょう」
それからスティクォンたちは大急ぎで準備をする。
10分後───
シディアのところに準備を整えたスティクォンたちがいた。
1人だけ現状を把握していない者がいたが・・・
「スティクォンさん、ここに集まって何かするのですか?」
「これからここにいる皆で北西にある森に行く。 シディアに乗ってくれ」
簡潔に説明するとスティクォンたちはシディアの背中に乗った。
「皆しっかり掴まったあと目を閉じて」
スティクォンの言葉通りメルーアたちはシディアに掴まり、それから目を閉じる。
スティクォンは【現状維持】を発動して全員がシディアの背中から飛ばされないように維持した。
「シディア、準備できたぞ。 場所はここから北西、アーネルたちをスカウトした森だ」
『では、急いで行くとしよう』
シディアは翼を羽搏かせると空中に浮かび北西へ超スピードで飛んだ。
「「「「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!!!!」」」」
超スピード初体験の者たちの悲鳴が木霊する。
だが、それも一瞬のこと。
『着いたぞ』
シディアが到着したことを告げると皆目を開ける。
するとそこには森が火に包まれて燃えていた。
「大変ですわ! 今すぐ消さないと!!」
『待て、メルーア』
メルーアは【水魔法】を発動しようとするがシディアがすぐに止めた。
「シディア、どうして止めますの? 今すぐ消火しないと火が燃え移りますわよ!」
『水をそのまま放水したら消火はできても森に住む者たちが水に流されてしまうぞ』
シディアは水の勢いが強ければ水に流され、最悪死ぬかもしれないことを示唆する。
メルーアもそれに気づいたのか落ち着きを取り戻す。
「では、どうすればよろしいのですの?」
『勢いに任せて放水するのではなく雨を降らすように放つのだ』
「わかりましたわ」
メルーアは【水魔法】を発動するとシディアの言った通り雨のように水を降り注いだ。
しかし、火は雨を蒸発させるも勢いは衰えず森を燃やし続けていた。
「一向に鎮火しませんわ」
『アリアーサ、メルーアが降らせている雨を氷らせろ』
「わ、わかりました」
シディアからの指示を受けて、アリアーサは【水神】を発動すると雨を氷らせていく。
だが、氷は火に触れると水に戻り蒸発する。
「これでは焼け石に水ですわね」
「なら、これでどうだ」
スティクォンは【現状維持】を発動して氷の温度と原形を留めるように維持した。
これにより氷は溶けずに森に降り注いだ。
その結果、火の勢いを殺して拡散を防ぐことに成功する。
火の勢いが弱まったことで森の状態が少しずつ見えてきた。
「あれは・・・」
スティクォンたちが見たのは多くの火の魔獣と相対する者たちであった。




