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130.食事会

案内された食堂にはマルチブルグでよく食べられる料理がずらっと並んでいた。

「スティクォン、料理できていますよ」

料理を作ったハーニとクーイがすでに食堂内で待機していた。

その周りには手伝った魔族の料理人たちがスティクォンたちを出迎えてくれる。

「ほぅ、とても良い香りが漂ってくる」

「この香ばしい匂いは一体なんだ?」

「食欲をそそられる」

「ぅぅぅ・・・早く食べたい」

キーラたちが料理を見てそれぞれ感想を述べる。

「遠慮せずに召し上がってください」

「うむ、いただくとしよう」

キーラの一言で食事会が始まった。

最初に注目されたのは円型の生地にトマトソースとチーズをのせて焼いたピザだ。

「これはどうやって食べるのだ?」

「手で掴んでそのまま食べるんだよ。 熱いから気を付けてください」

スティクォンがピザを一切れ手で取るのを見てキーラたちも手に取って口に運ぶ。

「むぐむぐ・・・うむ、美味い」

「あ、(あつ)っ! でも、これは!!」

「とても美味しいです!!」

「このパンみたいな生地、ペースト状にして塗ったトマト、それとこの白いのはチーズか?」

「それぞれが邪魔せずに調和されて一つの品として完成されている」

キーラたちは手に持っているのを完食するとすぐに次のピザに手を出した。

「チーズといえばワインのつまみくらいにしか認識がなかったな」

「普通はいかにワインと合うかが論点ですからね」

「この組み合わせは卑怯ですよ」

そういいながらも二切れ目もあっという間に完食する。

「これ程の物を我々だけで食べるのは勿体ない。 お前たちも食べるがよい」

キーラは食堂にいる者たちを見て料理を勧めた。

それを聞いた者たちが我先にと一斉に料理のある机に群がる。

それぞれがパンを手に取り一口噛り付いた。

「うおっ! このパン、柔らかくてふわふわして美味いぞっ!!」

「普通に作ると硬くて苦くて不味くなるのに、このパンはそれが全然ないわっ!!」

「俺たちだってこのようなパンを作るのに苦労しているのにこの娘たちすごすぎだろっ!!」

それから用意されたバターを塗ってハムやレタス、トマトなどを挟んだり、ジャムや蜂蜜を塗ってから好きな果物をのせてもう一口齧る。

料理人たちは皆幸せそうな顔になった。

「これ、やばいぞ」

「こんな贅沢知ったらいつものが食えなくなってしまう」

「でも、止められないわ」

テーブルに置かれた料理が次々と皆の胃袋に収まっていく。

気がつけば用意されたすべての料理を完食していた。

「正直、これほどの料理が出てくるとは予想していなかったぞ」

「料理自体素朴だが味は最高だ」

そこにハーニとクーイがアイスクリームを持ってやってきた。

「皆さん、食後のデザートです」

持ってきた物を皆で手分けして渡していく。

「ほぅ、氷菓子か」

「はい。 アイスクリームです」

「お好みでジャムや果物を入れて召し上がってください」

「まずはそのまま頂こう」

キーラたちはスプーンでアイスクリームを掬って食べる。

「これまた美味いな」

「牛乳、卵の濃厚な味が口いっぱいに広がっていく」

「今までのでも十分やばい(美味い)のにここにきてこんなのを出してくるとは・・・」

「マルチブルグの食レベル高すぎだろ」

プラムスたちもあまりの美味しさに脱帽していた。

「マルチブルグって、こんなに美味いのを毎日食えるのか・・・おい、フォーン。 マルチブルグの使節団に俺を追加してくれないか?」

「何をいうんだ、ディフス! お前はこの国(魔族の国)の防衛の要だろうが! 寝言は寝てからいえ!!」

「なら、私が行きましょう」

「あ! ウィード! 抜け駆けは許さんぞ!!」

ディフス、フォーン、ウィードが使節団について口論していた。

見かねたキーラがすぐに釘を刺す。

「ディフス、フォーン、ウィード、お前たちにはそれぞれ重要な役職を与えている。 マルチブルグに向かわせる訳にはいかぬ」

「「「う゛っ!」」」

「そういう魔王様もマルチブルグに行くのはお控えください」

苦言を呈するキーラにプラムスが突っ込む。

「耳が痛いことをいうな、プラムス。 それに我は仕事を終えて一休みの間に行っただけだ。 文句はあるまい」

「そもそも一国の王がお供もなしに簡単に外遊しに行かないでください」

余計な事をしたとキーラは苦い顔をする。

キーラたちが話し合っている中、スティクォンはハーニとクーイを労う。

「ハーニ、クーイさん、美味しかったよ」

「皆さんの口に合って良かったです」

「本当ですね」

ハーニは純粋に、クーイはキーラの機嫌を害わずにホッとする。

「僕が余計なことをいわなければこんなことにはならなかったんだけど・・・」

「スティクォンの役に立てたならそれで良いです」

「頼まれたからには期待に応えませんとね」

ハーニもクーイも自分ができる最大限のことをしたと主張していると、プラムスの小言から逃げてきたキーラが礼をいってきた。

「見事であった。 スティクォンたちに先を越されていなければ誘っているところだ」

「「ありがとうございます」」

「それで頼みがある。 もし、良ければだが、ここにいる料理人たちに今作った料理のレシピを公開できる範囲で構わないので教えてはもらえないだろうか? もちろん、礼はするぞ」

キーラの依頼を聞いてクーイはスティクォンを見る。

「スティクォンさん、どうしましょう?」

「クーイさんの裁量に任せるよ」

「それが困るんです!」

クーイとしてはキーラの不興を買うのを恐れていた。

「うーん、そうだな・・・キーラは今食べた料理で何が気に入ったのかな?」

「全部だといいたいところだが、それでは困るだろう。 この中からならパンだな。 ほかの料理は努力すれば身に着けられるだろうが、パンのふんわりした感覚は再現が難しいだろう」

キーラの言葉に料理人たちが頷いた。

「スティクォンさん」

「それくらいなら教えてもいいですよ」

このあと、クーイは料理人たちにパンの作り方を教える。

といっても、小麦粉と水のほかに酵母と塩を入れるかどうかの違いだけであることに料理人たちだけでなく、見学していたキーラたちも驚いていた。

これがのちに魔族の国、ひいては大陸中に広がるとはこの時のスティクォンたちは想像していなかった。


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