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13.思わぬ来客

スティクォンたちが次の工程について話をしようとしたところで突然影ができる。

何事かと上空を見るとそこには巨大な何かが翼を広げて飛んでいた。

太陽が真上にあるせいかその何かがわかるのはスティクォンたちがいるところに降りてからだ。

その強風で目も開けられず、飛ばされそうになるのを必死に堪える。

『ほう、こんなところに矮小な者()がいるとはな』

風の勢いが収まった頃、スティクォンたちはようやく目を開けてその何かを見た。

「え? ド、ドラゴン?」

「ま、まさか・・・本物ですの?」

「長く生きておりますが初めて見ましたな」

スティクォンがいったように、そこにはドラゴンがいた。

全長20メートルを優に超え、その目は赤く輝き、鱗は黒色だ。

スティクォンたちは突然のドラゴンの来訪に驚くしかなかった。

『こんな辺鄙なところで何をしているのだ?』

ドラゴンがスティクォンたちに質問する。

「ぼ、僕たちは人が住む場所から追放されて安住の地を求めてここ(死の砂漠)にやってきました」

『ふむ、そうか・・・』

「し、失礼ですが、ここはあなたが住む場所でしたか?」

ここがドラゴンの塒ならスティクォンたちは勝手に住み着いた害悪として殺されるだろう。

しかし、返ってきた答えは意外なものだった。

『いや、ここを通って別の場所に移動しようとしている最中だ。 ここは生物がまったくいないのでいてもつまらぬからな』

それを聞いてスティクォンたちはホッとする。

どうやらドラゴンの逆鱗に触れなかったようだ。

『それにしてもここにこんな場所があるとは真驚きよ。 前にここを通った時は何もなかったのにな』

するとドラゴンは目の前にある巨木を見る。

ドラゴンがどのくらいの頻度でここを通るのか知らないが1ヵ月以上前であることは確実だ。

「えっと・・・それはこの死の砂漠を開拓したからです」

『ほう・・・安住を求めるにしてももっと食料が豊富な場所に行くのが普通だがな』

ドラゴンはスティクォンたちに感心すると同時に興味が湧いた。

『うむ・・・お前たち、面白いな。 気に入ったぞ。 我もここに住むとしよう』

ドラゴンの一言にスティクォンたちはまた驚いた。

「も、申し訳ないのだがここは開拓したばかりで、食料などはこれから農作業などで作っていくんだけど・・・」

食料がなくて暴れられても困るので、素直に話してここから離れてもらうことにする。

『そうなのか?』

「はい、なので食料を求めてきたのであれば、申し訳ないがあなたを満足させることはできません」

それを聞いたドラゴンは考える。

『ふむ、それならまずは農作業が得意な者が必要だな』

「え゛?」

『彼奴らはどこにいたか・・・たしかここから東だったかな?』

ドラゴンが思考に耽っているとスティクォンたちが話し始める。

「農作業が得意な人ってメルーアの生家のウィンアーク伯爵領にいるの?」

「いえ、そんな話聞いたことがありません」

「・・・もしかすると彼らのことですかな」

スティクォンとメルーアには心当たりがなかったが、ウィルアムにはそれに近い人物に心当たりがあるようだ。

「爺?」

「ウィルアムさん、知っているのか?」

「ウィンアーク伯爵領の・・・魔族の国の東にドワーフの国があります。 その中には農業を生業にしている亜人種がいるとか・・・」

「亜人種?」

「はい。 たしかその種族名はホビットでしたかな?」

ウィルアムがその名を口にするとそれを聞いたドラゴンが突然大声を上げる。

『そう、それだ! そうそうホビットだ! 彼奴らの農作業技術はとても効率的だ!!』

ドラゴンの言葉にメルーアが喜びを露わにした。

「ではここにホビットを招くのですね? これで食べない生活からおさらばですわ」

「メルーアお嬢様、落ち着いてください。 ホビットを招くにしてもこの死の砂漠の環境には堪えられません」

「そ、そうでしたわ・・・」

がっかりするメルーアだが、そこでドラゴンが質問してくる。

『今の会話からお前たちは食べ物なしで生きているみたいだが、どうやって生きているのだ?』

「それはここにいるスティクォンのスキルですわ」

『スティクォン?』

メルーアに指さされるスティクォン。

ドラゴンは赤い瞳でスティクォンをジッと見る。

『そんなにすごいスキルを持っているのか?』

「スティクォンは【現状維持】というすごいスキルを持っていますの」

『【現状維持】? うむ、聞いたことがないスキルだな。 それで空腹を抑えているのか?』

「は、はい」

ドラゴンはスティクォンのスキル【現状維持】に感心する。

『ならばそのスキルを最大限に活用すればなんとかなるだろう。 そうと決まればスカウトしに行くぞ』

「え? スカウト?」

『そうだ。 我が見たところここにいる全員が農業に疎い、いやそこのウィルアムという者は知識だけはありそうだ。 だが我らだけでは手に負えんからな。 ならば本職の者を連れてくればよい』

ドラゴンは至極真っ当な意見を述べる。

『善は急げだ。 さぁ、我の背中に乗るがよい』

スティクォンたちは『どうする?』という目でアイコンタクトをとる。

ここで下手に逆らうとこのドラゴンが何をするかわからない。

「そ、それじゃ、よろしくお願いします。 えっと・・・」

『シディアだ』

「え?」

『我の名はシディアだ。 敬称など不要、気軽に呼ぶがよい。 スティクォン、メルーア、ウィルアム』

「こちらこそよろしく」

スティクォンたちはシディアの広い背中に乗る。

『振り落とされないようにしっかり掴まっているのだぞ』

シディアは翼を羽搏かせると空中に浮かび東へ飛んで行った。


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