129.交渉
キーラから交易を持ちかけられるスティクォン。
「交易か」
「そうだ。 それでこちらとしてはやはり酒だな。 ワインとブランデーは是非とも輸入したい」
キーラは早速酒を所望する。
「昨日の晩餐会で頂戴いたしましたが、素晴らしいお味でした」
「今まで飲んできた中でも群を抜いてます」
「正直、あの酒が死の砂漠で造られたなんて未だに信じられません」
「魔王様が求めるのも頷けます」
キーラだけでなくうしろに控えていたプラムスたちも同意するように頷く。
「それと今朝スティクォンたちから貰ったパンやチーズなどの乳製品を食したがこれも美味であった。 これらも輸入したいものだ」
「うーん・・・今のところ生産と自分たちの消費でほぼとんとんなんだよな。 今回のように贈呈品に送るくらいなら捻出できるけど定期的にとなるとちょっと難しいかな・・・」
「そうですな。 特に今魔王様が仰られた品々はマルチブルグでも人気が高く、ほかよりも生産に注力しております。 ですが、国内での消費は同等かそれ以上になる事もあります」
スティクォンの意見にウィルアムも同意し、補足した。
「確約はできないけど、生産を増やして輸入する方向で検討してみるよ」
「期待しているぞ」
キーラの言葉にスティクォンは苦笑いする。
そこでティクレが手を挙げた。
「魔王様、発言よろしいでしょうか?」
「構わんぞ」
「ありがとうございます。 こちらからも輸入してもらいたい物があります」
「いってみろ」
ティクレの言葉にキーラが応じる。
「魔石を輸入してほしいのです」
「魔石?」
「はい。 私はマルチブルグで魔道具を開発しているのですが、稼働させるための魔石が不足しております。 魔王様もご存じだとお思いますが、マルチブルグ近郊には魔物や魔獣が存在しません。 なので、魔石の輸入を検討していただけないでしょうか?」
「たしかに魔道具の核たる魔石は我の国でも需要が高い。 だが、輸入に回せるほどの量があるかといわれれば難しいところだ」
キーラは国内の状況を把握した上で冷静に応える。
「もし、魔石を輸入していただけるのであれば、先ほど魔王様がご所望した酒や乳製品の生産量を増やすことをお約束いたします」
ティクレの言葉にスティクォンたちだけでなく、キーラたちも驚いていた。
「それは誠か?」
「はい」
キーラの問いにティクレは目を合わせて答える。
「ふっ、はっはっはっはっは・・・面白い! よかろう! 魔石の輸入に応じようではないか!!」
「ありがとうございます」
「ほかにあれば何でも聞こう」
アールミスが弱弱しく手を挙げる。
「それなら魔物や魔獣の素材が欲しいぜ・・・です」
「魔物や魔獣を討伐した際の余剰分になるが、それでも構わないか?」
「はい。 魔物や魔獣の素材が貴重なのは重々承知している・・・います」
「ディフス、国防の予算を増額する。 国内での魔物や魔獣の被害が及んでいるところに優先的に向かわせて討伐しろ」
「はっ!!」
キーラはディフスへ魔物や魔獣の討伐を命令する。
「ほかには何かあるか?」
スティクォンたちはその場で考えるが、それ以上は思いつかないのか沈黙が続いた。
「今のところこれ以上はないようだな」
「交易についてはその都度話し合うということで問題ないかな」
「それでよかろう」
話が一段落ついたところで用意されたお茶を飲んでいるとキーラが話しかけてきた。
「そういえば、スティクォンたちから貰った品はどれも素晴らしい物ばかりだな」
「よかった。 もし、品物が気に入らないなら料理とかを振舞えればと思っていたんだ」
スティクォンの言葉にキーラたちが喰いつく。
「ほぅ、それは興味あるな。 マルチブルグの料理を是非食してみたいものだ」
「期待されてるところ悪いけど、そんな大したものじゃないよ?」
「それは食してから判断することだ。 おい」
「すぐにスティクォン様のお連れの方たちに要請してまいります」
「え? あ、ちょっと・・・」
スティクォンが呼び止めようとするが、それよりも早くプラムスがキーラに一礼してから退室した。
「今からなら昼に間に合うはずだ。 楽しみだな」
「あはははははっ・・・はぁっ・・・」
余計なことを喋ったとスティクォンは後悔した。
10分後───
プラムスが部屋に戻ってきた。
「魔王様、要請に応じてくださるようで早速昼食の準備に取り掛かってくれております。 ただ、【氷魔法】を使える者を貸してほしいとのことですが、いかがいたしましょう?」
「すぐに【氷魔法】を使える者を向かわせろ。 こちらが無理強いをさせているのだ、それくらいは協力するべきだ」
「魔王様、私が向かいます」
「ウィードか。 なら、すぐにでも出向いて助力しろ」
「はっ!!」
ウィードは一礼すると部屋から退室した。
「さて、昼食ができるまではまだ間がある。 スティクォンの連れの者たちは部屋で閉じ込もっていて退屈しているだろう。 それまでは城内を案内するとしよう」
「ありがとうございます。 マルチブルグに城を建てる際の参考にさせてもらうよ」
スティクォンたちは一旦客間に戻る。
そこにはハーニとクーイはおらず、ファリーたちは暇を持て余していた。
「あ! スティクォンさん、お帰りなさい」
「これからキーラに城内を案内してもらうんだけど、皆も一緒にどうかな?」
「いきます!」
「私も見て回りたいわ」
ファリーとシャンティがすぐに賛成する。
マムモたちも暇を持て余していたのか賛同するとキーラの案内で城内を見て回ることになった。
エントランスから始まり、中庭、騎士訓練所、魔法訓練所と見て回る。
「ここはこういう仕組みになっているんですね」
「この空間、調和がとれているわね」
ファリーは建築構造、シャンティは調度品を中心に批評する。
この状況についていけているのはウィルアムとキーラの2人だけだ。
「ほぅ、なかなかに目利きが効くようだな」
「彼女たちが持っているスキルのおかげです」
「ここまで優秀な者は我の部下にもいない。 是非とも欲しい人材だ」
ある程度城内を見たところでウィードがやってきてキーラに報告する。
「魔王様、お食事の用意ができました」
「では、行くとするか」
スティクォンたちはキーラの案内で食堂へと向かうのであった。




