128.国交に向けての話し合い
握手をした手を離すとスティクォンから話を切り出した。
「キーラに会ったら話したいことがあったんだ」
「話?」
「昨日、晩餐会が終わったあと皆で話し合ったんだけど、キーラの申し出を受けようと思う」
スティクォンが国交を承諾したことにキーラは素直に喜んだ。
「おお、それはありがたい」
「それで具体的な話になるのだけど、僕たちの国には政治に詳しい人材がいないんだ」
マルチブルクはできたばかりの国だ。
政ができるのはスティクォン、メルーア、ウィルアムの3人だけで、ビューウィとアリアーサは現在ウィルアムから政治のイロハを学んでいる。
ほかにも優秀な人材を発掘するのが目下の課題だ。
「スティクォンたちの事情は理解している。 堅苦しいやりとりは正直好かん。 あくまでも持ちつ持たれつな関係でいたい」
キーラの言葉を聞いてスティクォンは内心ホッとしている。
「とはいえ、お互いが合意した事を書面に残しておかねばな。 万が一、トラブルになった場合は口論になりかねん」
「僕もキーラの意見に賛成だ」
キーラが部屋に控えている文官たちに目をやる。
それを察した文官たちが一礼すると早速作業に取り掛かった。
「では、国交について話し合おう」
「その前に紹介するよ。 僕は先ほど自己紹介したから、まずは宰相のウィルアム」
「宰相のウィルアムでございます」
ウィルアムが立ち上がり深々と一礼する。
「次に外務大臣のビューウィ」
「ビューウィです」
ビューウィも立ち上がり頭を下げる。
「それと今のところは役職はないですが、主に技術を担当しているティクレとアールミス」
「ティ、ティクレです」
「名はアールミス・・・です」
ティクレとアールミスは慌てて立って緊張しながらも頭を下げる。
「同じく役職はないですが、主に生産を担当しているメルーア」
「メルーアですわ」
メルーアは優雅に立つとカーテシーをする。
「うむ。 では、こちらも紹介しよう」
キーラが目をやるとうしろに控えていた4人が挨拶する。
「宰相のプラムスです」
「防衛大臣のディフスです」
「外務大臣のフォーンです」
「魔法大臣のウィードです」
「これで全員紹介したな。 皆座るがよい」
自己紹介が終わり、全員椅子に座る。
「それでまず何について決めようか?」
「国交の期間かな。 僕たちはまだ出会って日が浅い。 お互い信頼を得るには長い年月がかかるだろう。 そこでまずは試しに1年で様子見をしてはどうだろうか?」
「少し短いような気もするがそれでよかろう」
スティクォンの提案にキーラは同意する。
「次にお互いの平和維持についてだが、何かあるか?」
「何かといわれると僕たちの国は砂漠のど真ん中にあるのはキーラも知っているよね?」
「無論だ」
「メルーアの話ではこの砂漠は人を寄せ付けないと聞くけど、本当はキーラみたいに飛んで来れる魔族がたくさんいるとか? だとすると、僕たちもある程度防衛に力を注ぐ必要があるんだけど」
スティクォンの問いかけにキーラのうしろにいるプラムスたちが応じる。
「スティクォン様、我々魔族は死の砂漠に足を踏み入れたら最後、生きて帰ってこれないでしょう」
「我々が武力で攻め込もうにもあの場所自体が天然の要塞です」
「それだけあの死の砂漠は危険な場所なのです」
「はっきりいいますと死の砂漠を平然と横断できる魔王様が異常なだけです」
話を纏めるとマルチブルグがある砂漠に攻め込むバカはいないということになる。
「我からしてみればスティクォンたちがあの砂漠で生活しているのが不思議なくらいだ」
「えっと・・・それは・・・そのぉ・・・」
スティクォンとしては自分に関わることなのであまり喋りたくない。
「スティクォン、無理しなくてよい。 いえないことはわかっておる」
「そういってもらえると助かるよ」
キーラはスティクォンの心情を察してか無理矢理聞き出すことはしなかった。
「次に使節団だけど、先ほどもいったように僕たちの国は政治に詳しい人材がいない。 というか、今人材の育成について検討中なんだ。 それに外部からの客は想定していなかったので、使節団を受け入れる大使館もない。 戻ったらドワーフたちに頼んで急いで建ててもらう予定だ」
「お互いの国に使節団を派遣するにしても常駐先は必要か。 我のほうは王城にもっとも近い一等地に大使館を用意しよう」
「使節団の派遣は人材の育成が終わってからでいいかな?」
「それでよかろう。 我も国交は久しくてな。 今までお飾りだった外務省を先日、本格的に再始動させたばかりだ」
使節団については準備期間を設ける方向で話が纏まった。
が、そこで外務大臣のフォーンが手を挙げる。
「スティクォン様、一つお聞きしたいことがあります」
「なんでしょう?」
フォーンがスティクォンに質問する。
「スティクォン様たちは何かしらの方法で魔族の国とマルチブルグを行ったり来たりできるのですよね? ですが、我々には行き来する方法がありません。 どのような方法で我々の使節団をマルチブルグに送るのですか?」
「それについてはこちらで何とかしますのであまり心配しないでください」
「何とかするといわれましても死の砂漠ですよ? 先ほども申し上げましたけど、普通なら足を踏み入れられないほどの危険な場所なんですよ? それを・・・」
フォーンがなおも食い下がろうとするとそこでキーラが助け舟を出す。
「フォーン、気にすることはない。 シディアが何とかするだろう」
「魔王様、シディアというのは?」
「我の古き友だ。 我と同等の力を持ち合わせている。 お前たちも見ただろう、来客用の馬車止めのところにいたあの黒龍を」
「あ、あれですか?」
「あいつに余計なちょっかいは出すなよ。 もし、暴れられたらこの国が一瞬でなくなるからな」
それを聞いてプラムスたちの顔が蒼褪めた。
「けど、フォーンさんの懸念も一理ある。 どちらかの国に何かあった場合、支援要請するのは難しいか・・・」
「その時は我かシディアが動けば問題あるまい」
キーラは問題が起こるなど微塵も感じていないようだ。
「それでほかには何かあるかな?」
「一番肝心なことがあるだろう」
「肝心なこと?」
スティクォンが疑問に感じているとキーラが答える。
「それは交易だ」




