126.晩餐会の終わり
キーラの一言に会場が静まりかえる。
「ここにいる者たちはここより南西にあるお前たちが死の砂漠と言っている場所から来た者たちだ。 国の名は多種族共生国『マルチブルク』。 今宵の宴に我が直々に招待した」
貴族たちは声を上げそうになるが、キーラの視線に気づいたのかすんでのところで堪える。
「彼らは我の客人だ。 とはいえ、それを聞いてこのなかには不満を感じる者もいるだろう」
実際ここにいる大半の貴族たちは招待されたとはいえ、形式に則って呼ばれたにすぎない。
しかし、スティクォンたちはキーラ自らが直々に招待したのだ。
不満を感じないはずがない。
キーラは手に持っているワインを掲げる。
「このワインは彼らから我への贈り物だ。 皆にも我と同じ至福の時間を味わってもらおうと思って用意した」
それを聞いて貴族たちは今手にしているワインを驚いた顔で見ている。
何者も受け入れず、何物も芽吹かないといわれた死の砂漠に人が住み、葡萄を育て、ワインを造ったなど誰が想像できただろうか。
「彼らは人が住めぬ地を開拓し、育つはずもない植物を育て、国として発展させた。 その取り組みは素晴らしく賞賛に値する。 故に我は彼らを招待したのだ」
キーラの発言に貴族たちは皆俯く。
決して怠慢という訳ではない。
王であるキーラに認められようと日々努力している。
なかには努力を怠っている者もいるにはいるが、それは少数でしかない。
そんな中キーラに認められたスティクォンたちが羨ましいのだ。
「彼らに手を出すのであれば我に手を出すのと同義としれ」
貴族たちはスティクォンたちに対して敬意を払うように頭を下げた。
「陰気な話はこの辺にして宴もわずかだ。 皆残された時間を楽しんでもらいたい」
キーラが語り終わると玉座に座りワインを一口口に含んだ。
それを皮切りに止まっていた時間が動き出したように会場はにぎやかさを取り戻した。
ウィンアーク伯爵はスティクォンたちに頭を下げる。
「すまない。 私が大声を出したばかりに迷惑をかけてしまったようだな」
「いえ、僕たちは気にしていませんので」
とはいえ、スティクォンたちとしては注目されて居心地が悪い。
「私はこれで失礼する。 と、その前にメルーアに聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「私のところに戻ってくる気はないか?」
ウィンアーク伯爵の問いにメルーアはまっすぐとその目を見て答える。
「はい。 今のわたくしが戻る場所はマルチブルグですから」
「そうか・・・メルーア、身体には気をつけるのだぞ」
それだけいうとウィンアーク伯爵は会場の出口に向けて歩き出す。
その背中はどこか寂しさを感じた。
「メルーア・・・」
「これでいいのですわ。 わたくしにはわたくしの生きる道があるのですから」
それからしばらくしてキーラ主催の晩餐会は終了した。
宴も終わり客間へと戻るスティクォンたち。
そこではファリーたちが談笑していた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「向こうはどうだったの?」
「大変だったよ。 貴族からは奇異な目で見られたり、メルーアのお姉さんたちからは嫌がらせを受けたり、メルーアのお父さんからは拐したといわれるし・・・」
ビューウィの質問にスティクォンは疲れた顔で答える。
「ああ、それとキーラから国交をしないかと打診が来た」
「え?!」
「スティクォンさん、それは本当か?!」
あまりのことに驚くティクレとアールミス。
「ええ、本当のことよ。 私もびっくりしたわ」
「マジかよ・・・」
「スティクォンさん、大物すぎる・・・」
クーイの言葉を聞いてティクレとアールミスの顔が引き攣った。
「それで国交の件だけど、今この場にいる皆の意見を聞きたい」
「わたくしは賛成ですわ」
「私もです」
メルーアとウィルアムはすぐに賛成した。
「私も賛成です」
「私も」
「私もだ」
クーイたちエルフ3人娘も賛成する。
「仲良くできるなら別に構わないわよ」
ビューウィも賛成を表明する。
「スティクォンさんが良ければいいのでは?」
「そういう難しい事はちょっと」
「まぁ、スティクォンさんに任せておけば問題ないだろ」
「だな」
ファリーやハーニたち魔物は政治的な部分がわからず、バーズやスポーグたち獣人は信頼からスティクォンに丸投げした。
「あとはシディアの意見も聞いたほうがいいかな?」
「シディア様ならスティクォン様の好きなようにすればいいと仰るでしょう」
「ああ・・・たしかにいいそうだなぁ・・・」
前にシディアと話した際に自分の好きなようにやってみろといわれたのを思い出す。
「うーん、とりあえずキーラとは国交をする方向で話をしてみるよ。 まずはお試し期間ということで1年でどうかな?」
「お互いに益がある限り関係は続きますわ」
「本来なら2~10年ほどですが、キーラ様からの申し出ですし、初めてということで承諾してくださるでしょう。 何かあれば私がサポートいたします」
「ウィルアムさん、ありがとう」
話が纏まったところでビューウィが話しかけてきた。
「それでこれからどうするのかしら?」
「普通の貴族なら王都の貴族街にある自分の館か貴族専用の宿で一泊してから帰路につくけど、僕たちの場合は招待客だしこのまま城で一泊することになるかな?」
「そうなりますな」
スティクォンの考えにウィルアムが同意する。
「何かあればキーラから声をかけてくるだろうからそれまではここで待つことにしよう」
スティクォンたちはしばらくの間、客間でくつろぐことにした。
このあと、キーラに仕える執事がやってきて『明日、話がしたい』と伝言を受けたスティクォンはその場で了承した。
また、執事はスティクォンたちを来客用の寝室に案内する。
部屋に着くとスティクォンたちは精神的に疲れていたのかすぐに床に就くのであった。




