表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/158

126.晩餐会の終わり

キーラの一言に会場が静まりかえる。

ここにいる者(スティクォン)たちはここより南西にあるお前たちが死の砂漠と言っている場所から来た者たちだ。 国の名は多種族共生国『マルチブルク』。 今宵の宴に我が直々に招待した」

貴族たちは声を上げそうになるが、キーラの視線に気づいたのかすんでのところで堪える。

「彼らは我の客人だ。 とはいえ、それを聞いてこのなかには不満を感じる者もいるだろう」

実際ここにいる大半の貴族たちは招待されたとはいえ、形式に則って呼ばれたにすぎない。

しかし、スティクォンたちはキーラ自らが直々に招待したのだ。

不満を感じないはずがない。

キーラは手に持っているワインを掲げる。

「このワインは彼らから我への贈り物だ。 皆にも我と同じ至福の時間を味わってもらおうと思って用意した」

それを聞いて貴族たちは今手にしているワインを驚いた顔で見ている。

何者も受け入れず、何物も芽吹かないといわれた死の砂漠に人が住み、葡萄(ぶどう)を育て、ワインを造ったなど誰が想像できただろうか。

「彼らは人が住めぬ地を開拓し、育つはずもない植物を育て、国として発展させた。 その取り組みは素晴らしく賞賛に値する。 故に我は彼らを招待したのだ」

キーラの発言に貴族たちは皆俯く。

決して怠慢という訳ではない。

王であるキーラに認められようと日々努力している。

なかには努力を怠っている者もいるにはいるが、それは少数でしかない。

そんな中キーラに認められたスティクォンたちが羨ましいのだ。

「彼らに手を出すのであれば我に手を出すのと同義としれ」

貴族たちはスティクォンたちに対して敬意を払うように頭を下げた。

「陰気な話はこの辺にして宴もわずかだ。 皆残された時間を楽しんでもらいたい」

キーラが語り終わると玉座に座りワインを一口口に含んだ。

それを皮切りに止まっていた時間が動き出したように会場はにぎやかさを取り戻した。

ウィンアーク伯爵はスティクォンたちに頭を下げる。

「すまない。 私が大声を出したばかりに迷惑をかけてしまったようだな」

「いえ、僕たちは気にしていませんので」

とはいえ、スティクォンたちとしては注目されて居心地が悪い。

「私はこれで失礼する。 と、その前にメルーアに聞きたいことがある」

「なんでしょう?」

私のところ(ウィンアーク)に戻ってくる気はないか?」

ウィンアーク伯爵の問いにメルーアはまっすぐとその目を見て答える。

「はい。 今のわたくしが戻る場所はマルチブルグですから」

「そうか・・・メルーア、身体には気をつけるのだぞ」

それだけいうとウィンアーク伯爵は会場の出口に向けて歩き出す。

その背中はどこか寂しさを感じた。

「メルーア・・・」

「これでいいのですわ。 わたくしにはわたくしの生きる道があるのですから」

それからしばらくしてキーラ主催の晩餐会は終了した。

宴も終わり客間へと戻るスティクォンたち。

そこではファリーたちが談笑していた。

「ただいま」

「お帰りなさい」

向こう(会場)はどうだったの?」

「大変だったよ。 貴族からは奇異な目で見られたり、メルーアのお姉さんたちからは嫌がらせを受けたり、メルーアのお父さんからは(かどわ)したといわれるし・・・」

ビューウィの質問にスティクォンは疲れた顔で答える。

「ああ、それとキーラから国交をしないかと打診が来た」

「え?!」

「スティクォンさん、それは本当か?!」

あまりのことに驚くティクレとアールミス。

「ええ、本当のことよ。 私もびっくりしたわ」

「マジかよ・・・」

「スティクォンさん、大物すぎる・・・」

クーイの言葉を聞いてティクレとアールミスの顔が引き攣った。

「それで国交の件だけど、今この場にいる皆の意見を聞きたい」

「わたくしは賛成ですわ」

「私もです」

メルーアとウィルアムはすぐに賛成した。

「私も賛成です」

「私も」

「私もだ」

クーイたちエルフ3人娘も賛成する。

「仲良くできるなら別に構わないわよ」

ビューウィも賛成を表明する。

「スティクォンさんが良ければいいのでは?」

「そういう難しい事はちょっと」

「まぁ、スティクォンさんに任せておけば問題ないだろ」

「だな」

ファリーやハーニたち魔物は政治的な部分がわからず、バーズやスポーグたち獣人は信頼からスティクォンに丸投げした。

「あとはシディアの意見も聞いたほうがいいかな?」

「シディア様ならスティクォン様の好きなようにすればいいと仰るでしょう」

「ああ・・・たしかにいいそうだなぁ・・・」

前にシディアと話した際に自分の好きなようにやってみろといわれたのを思い出す。

「うーん、とりあえずキーラとは国交をする方向で話をしてみるよ。 まずはお試し期間ということで1年でどうかな?」

「お互いに益がある限り関係は続きますわ」

「本来なら2~10年ほどですが、キーラ様からの申し出ですし、初めてということで承諾してくださるでしょう。 何かあれば私がサポートいたします」

「ウィルアムさん、ありがとう」

話が纏まったところでビューウィが話しかけてきた。

「それでこれからどうするのかしら?」

「普通の貴族なら王都の貴族街にある自分の館か貴族専用の宿で一泊してから帰路につくけど、僕たちの場合は招待客だしこのまま城で一泊することになるかな?」

「そうなりますな」

スティクォンの考えにウィルアムが同意する。

「何かあればキーラから声をかけてくるだろうからそれまではここ(客間)で待つことにしよう」

スティクォンたちはしばらくの間、客間でくつろぐことにした。

このあと、キーラに仕える執事がやってきて『明日、話がしたい』と伝言を受けたスティクォンはその場で了承した。

また、執事はスティクォンたちを来客用の寝室に案内する。

部屋に着くとスティクォンたちは精神的に疲れていたのかすぐに床に就くのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

「君を愛することはない」と言いますが、そもそも政略結婚に愛なんて不要ですわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

婚約破棄? それならとっくの昔に言い渡されておりますわよ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ