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123.晩餐会

太陽が西に沈み夜が訪れた。

コンコンコン・・・

スティクォンたちがいる部屋の扉がノックされる。

『失礼いたします。 魔王様から晩餐会の準備が整ったのでお連れするよう命を受けて参りました』

「わかりました」

スティクォンは襟を正すと緊張からかつい本音が出る。

「いよいよか・・・」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですわ」

「いつも通りの対応で問題ございませんよ」

メルーアとウィルアムがスティクォンの緊張をほぐす。

「うん、大丈夫。 行こう!」

部屋を出るとここ(客間)まで案内してくれた魔族が立っていた。

「皆様を会場へお連れ致します」

「会場に行く前に1つお願いがあるのですが、部屋に待機している者たちにも何か食事を用意してもらえませんか?」

「お連れ様についてですが、すでに魔王様が別の者に食事を用意するよう指示を与えていましたのでご安心ください」

「ありがとうございます」

魔族の案内によりスティクォンたちは会場へと足を運ぶ。

到着すると解放された扉から中を覗く。

そこには多くの貴族たちが酒を片手に賑わっている。

ある者は用意された食事を楽しみ、また、ある者は親しい者たちとの談笑をしていた。

スティクォンたちが足を踏み入れると皆が注目し、奇異な目を向けてくる。

『なんだ? あの者たちは?』

『魔族でもない者がなぜここにいる?』

『あれは魔物ではないか? 衛兵たちは何をしているのだ?』

あちこちから聞こえる不審な声。

普通なら怖気づくところだが、スティクォンたちは臆することなく堂々と部屋の中を歩いていく。

突然現れたイレギュラーな存在に誰も近づいて話そうとはしなかった。

だが、その均衡を崩す者たちが現れる。

その者たちはワイングラスを片手にスティクォンたちの方へ優雅に歩いてきた。

メルーアの姉でありウィンアーク伯爵家の長女ルーブと次女イヴェルである。

「誰かと思えばメルーアと一緒にいた者たちじゃない」

「ここはあなたたちがいていい場所ではないわ。 早々に立ち去りなさい」

「そういう訳には参りませんわ」

メルーアが前に出てルーブとイヴェルに対峙する。

「メルーア?! なぜここに?!」

「それよりもそのドレスは先ほど引き裂いたはずだわ!!」

「たしかにイヴェルお姉様に破られましたけどこの通りですわ」

メルーアは自らのドレスを指さした。

「なら、もう1度公衆の面前で辱めを受けるがいいわ!!」

イヴェルは逆上すると先ほどみたいにメルーアの胸元に手を伸ばしドレスを引き裂こうとした。

「?!」

しかし、スティクォンの【現状維持】によって形状を維持されたドレスは破けることはなかった。

「イヴェルお姉様! ドレスを2度も引き裂かれるのは御免こうむりますわ!!」

「メルーア!!」

「調子に乗るんじゃないわよ!!」

ルーブはメルーアに向けて手に持っていたワインを掛けようとした。

ガシッ!!

すんでのところでルーブのうしろにいた者が腕を掴んだ。

「誰よ?! 私の邪魔をするのは!!」

振り向いたルーブとイヴェルだが、その人物を見て顔を蒼褪めさせた。

「我の客人たちに対して何をしようとした?」

ルーブを止めた人物、それはキーラだ。

「ま、魔王陛下・・・」

「な、なぜここに・・・」

「我がここにいては何か都合が悪いのか?」

キーラはその鋭い眼光でルーブとイヴェルを睨みつける。

その目の奥に怒りの感情が込められているのを察してルーブとイヴェルは恐怖から身体をガタガタと震わせていた。

「い、いえ、何も悪いことなどありませんわ」

「そ、そうですわ」

「そうか。 では、改めて問おう。 我の客人たちに対して何をしようとした?」

ルーブの腕を握っている手に力を込める。

()ぅっ! そ、それは・・・」

「それは?」

「い、いくら魔王陛下とはいえ、プライベートな事までお答えすることはできません」

ルーブの言葉にキーラは目を更に細めた。

「まぁ、いいだろう。 貴様たちの蛮行で宴を滅茶苦茶にされては堪らんからな。 せっかく今宵の宴にと我直々に用意したワインが無駄になるところだったぞ」

「え、ええ、このワインとても美味ですわ」

「さ、さすが魔王陛下。 このような極上なワイン今まで飲んだことがありませんわ」

「そうであろう。 何しろこのワインはそこにいるメルーアたちからの贈り物だからな」

「「!!」」

ルーブとイヴェルは褒めたワインが実はメルーアの贈り物だと知って顔が引きつった。

「ま、魔王陛下に進言します! このワインは早々に破棄するべきですわ!!」

「そ、そうです! 誰が検品したのか知りませんが、もし、毒でも混入していたら大変なことになりますわ!!」

「ほぅ、我直々に調べて問題ないと判断したのに貴様たちは我を信用ならないと?」

それを聞いたルーブとイヴェルは目を見開いて口をわなわなさせていた。

「どうした? 顔色が悪いぞ?」

「い、いえ、だ、大丈夫ですわ」

「お、お気になさらず」

「そうか。 我はこれから客人と話がある。 邪魔だからさっさと我の前から消え失せろ」

キーラはルーブの手を開放する。

「「し、失礼いたします!!」」

ルーブとイヴェルはキーラに対してカーテシーをするとその場(会場)から去ろうとした。

その背中にキーラは語り掛ける。

「そうそう、この城で起きたことなら我はなんでも知っている。 貴様たちが先ほどメルーアに手を出したこともな」

「「!!」」

ルーブとイヴェルは立ち止まると白い顔でキーラを見る。

「今回は見逃してやる。 次はないぞ」

「「は、はい!!」」

ルーブとイヴェルは今度こそ一目散に去っていった。

それからメルーアを見てキーラが問いかける。

「メルーア、大丈夫か?」

「魔王様、助かりました」

「無事ならそれでよい。 それと我のことはキーラと呼び捨てで構わない」

キーラは魔王呼びを嫌ってか名前で呼ぶように伝えた。

「ですが、この場では・・・」

「うむ、仕方ない。 無理強いさせる訳にもいかぬからな」

「お心遣い感謝します」

「暗い話はここまでにして今宵は宴を存分に楽しむがよい」

キーラが近くにいたウェイターに目をやる。

ウェイターはすぐにスティクォンたちのところにやってきて皆にワインを配る。

スティクォンたちはワイングラスを傾けると一口飲むのであった。


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