122.姉たちの嫌がらせ
メルーアの姉でありウィンアーク伯爵家の長女ルーブと次女イヴェルはメルーアに対して嫌味を言った。
「家を飛び出して行方を晦ましたからてっきりどこかでくたばったのかと思いましたわ」
「ええ、てっきりどこかで野垂れ死んだとばかりに思ってたけどまさか生きていたとはね」
「・・・」
実の妹に対して酷い物言いにスティクォンが1歩前に出ようとするもウィルアムが止めた。
「それでメルーア、あなたがなぜここにいるのかしら?」
「まさかメルーアも晩餐会に出席するとかいわないでしょうね?」
「わたくしは魔王様から今宵の晩餐会に招待されました」
それを聞いたルーブとイヴェルは面白くないとメルーアのところまで歩み寄る。
「嘘を吐くならもう少し真面なのにしなさい」
「嘘ではありませんわ」
「まぁ、どちらでもいいわ。 メルーア、あなたは晩餐会に出られないわ」
そういうなりイヴェルはメルーアの胸元に手を伸ばすとあろうことかドレスを引き裂いた。
ビリリリリリィッ!!
「きゃあああああーーーーーっ!!」
ドレスが引き裂かれて胸が露出する。
メルーアは慌てて両手で胸元を隠すとその場にしゃがんでルーブとイヴェルを睨んだ。
「あらあら、ごめんなさい。 手元が滑ったわ」
「そんな恰好では晩餐会は無理ね」
「魔王陛下の前で恥をかかなくてよかったじゃない」
「そうそう、あなたは晩餐会が終わるまでどこかで大人しくしていなさい」
ルーブとイヴェルは高笑いするとその場をあとにした。
ウィルアムはすぐに着ている上着を脱いでメルーアにかける。
スティクォンたちは心配そうにメルーアに声をかけた。
「メルーア、大丈夫か?」
「心配いりませんわ。 この程度どうということはありませんわ」
「でも、ドレスが破けてますよ」
「アーネル、シャンティ、晩餐会まで時間はあまりないがなんとかなりそうか?」
アーネルとシャンティは余裕の笑みを見せながら応じる。
「問題ないわ。 私の力作を傷つけた報いを受けてもらおうかしら」
「その通りね。 あの魔族たちの悔しがる顔を見せてあげるわ」
表面上は穏やかなでも内心では怒りに満ちているアーネルとシャンティ。
「まずは客間に行こう。 すまないが急いで向かってくれ」
「はい。 こちらです」
魔族の案内でスティクォンたちはメルーアを庇いながら客間へと向かう。
客間はいくつかあり、それぞれ男女に分かれて部屋に入った。
アーネルとシャンティはすぐにメルーアのドレスを補修にとりかかる。
隣室ではスティクォンたち男性陣がメルーアのことを心配していた。
「大丈夫かな・・・」
「あの姉ちゃん盛大にやらかしてくれたからな」
「あんな性格悪いのが身内とはメルーアさんも可哀そうだぜ」
それぞれが不安を口にするなかウィルアムがいつも通り落ち着いて話す。
「アーネル様とシャンティ様の腕はたしかでございます。 心配しなくても大丈夫でございましょう」
「それはわかってる。 けど・・・」
「ウィルアムさんはそれでいいのかよ? メルーアさんは主人だろ?」
「その主人を虚仮にされて悔しくないのかよ?」
ウィルアムは冷静に応える。
「皆様の言う通り悔しいでございます。 ですが、ここでメルーアお嬢様の意図を汲み取らなければそれこそ従者失格でございます」
「ウィルアムさん・・・」
「悪ぃ、一番悔しいのは主人をバカにされたウィルアムさんなのにその気持ちも考えないで・・・」
「感情的になっちまってすまねぇ・・・」
スティクォンたちが謝罪するとウィルアムは気にすることなくむしろ笑顔になる。
「いえ、メルーアお嬢様のことを心配していただきありがとうございます。 皆様のそのお気持ちだけでこのウィルアム、救われます」
30分後───
コンコンコン・・・
しばらくしてスティクォンたちがいる部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「誰ですか?」
『メルーアですわ』
ウィルアムが扉を開けるとそこにはメルーアたち女性陣がいた。
「失礼しますわ」
そういうなりメルーアは堂々と部屋に入ってきた。
そのあとにファリーたちも部屋の中に入る。
「スティクォン、どうかしら?」
補修されたドレスを見せるメルーア。
「ちゃんと補修されたね」
「もう! そこは気が利く言葉を聞きたかったですわ!!」
メルーアは頬を膨らませてスティクォンに文句を言った。
スティクォンも気づいたのかすぐに謝る。
「ご、ごめん・・・」
「まぁ、いいですわ」
スティクォンの謝罪にメルーアは許すと留飲を下げた。
「すげぇぜ。 完璧に戻ってやがる」
「普通なら別のに着替えているところなのによ」
皆がメルーアのドレスを見ている中、スティクォンはアーネルとシャンティに礼をいう。
「アーネル、シャンティ、ありがとう」
「この程度、大したことはないわ」
「ええ、余裕だったわ」
先ほどイヴェルによって破られたドレスもアーネルとシャンティの手にかかれば補修など造作もなかった。
パンッ! パンッ!
部屋が騒がしくなったところでウィルアムが手を叩いて自分に注目させる。
「さて、準備もできたところで今宵の晩餐会についてですが、スティクォン様、メルーアお嬢様、私、あとそれぞれの護衛2名ずつを考えております」
「それなら僕とウィルアムさんには男性の護衛をメルーアには女性の護衛をそれぞれ2名ずつつけよう」
「それで問題ありませんわ」
ウィルアムの案に賛成するスティクォンとメルーア。
話し合いの結果、スティクォンにはバーズとスポーグが、メルーアにはハーニとクーイが、ウィルアムには虎人族と鷹人族がそれぞれ護衛につくことになった。
「残りの皆には悪いけどここで待機をお願いするよ。 キーラのことだから皆を無下にはしないだろう」
「わかりました」
「私たちのことは気にせず楽しんできなさい」
ファリーたちは快く応じる。
「あ! そうだ! また嫌がらせにあわないようにしないと・・・」
そういうとスティクォンは【現状維持】を発動してメルーア、ハーニ、クーイのドレスの形状を維持した。
これにより先ほどのようにドレスを破かれることはないだろう。
「これでよし! メルーアたちのドレスの状態を維持したから」
「スティクォン、ありがとうですわ」
準備が整ったところでスティクォンたちは晩餐会開始まで部屋で待つことにした。




