120.門前でのトラブル
スティクォンたちはキーラの住む城へと移動していた。
先頭は馬に騎乗したバーズとスポーグ。
そのうしろを走る一番目の馬車にはメルーア、ウィルアム、ファリー、ドーグが、二番目の馬車にはクーイ、ティクレ、アールミスが、三番目・四番目の馬車にはキーラへの贈呈品が載っている。
それぞれの馬車の横を馬に騎乗した獣人族の護衛たちが走り、一団の最後尾にはスティクォン、ハーニ、ビューウィ、マムモ、アーネル、シャンティを乗せて低速飛行で飛んでいるシディアがいた。
程なくして巨大な外壁に到着する。
そこに外壁の門を守る門兵が警告してきた。
「止まれ! 怪しい奴らめ! ここは魔王様が治める領域だ! 何者だか知らぬが悪いことは言わぬ。 ここから立ち去るがよい!!」
馬車よりウィルアムが出てきて門兵に事情を説明する。
「突然の来訪、誠に申し訳ございません。 私たちは多種族共生国『マルチブルク』から来た者です。 キーラマカ・デモンロード魔王陛下より本日行われる晩餐会の招待を受けて参りました」
ウィルアムは懐からキーラが渡してきた招待状を門兵に渡す。
「・・・たしかに魔王様の封蝋だが、これをどこで手に入れた? 場合によっては身柄を拘束させてもらうぞ」
「こちらは魔王陛下より直々に頂いたものです」
「魔王様が直々に? 嘘をいうな! どこの国だか知らぬが魔王様を語る不届き者め! 全員牢にぶち込んでやる!!」
門兵は懐から笛を出すと鳴らした。
ピイイイイイィーーーーーっ!!
その音を聞いて門から多くの衛兵が現れた。
「こいつらを一人残らず捕まえろ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
衛兵たちがスティクォンたちを捕まえようと動こうとした時だ。
「何事だ? 騒々しい」
門の奥から男性の声が聞こえてきた。
その声を聞いて衛兵たちはすぐに門の左右に分かれて直立不動する。
姿を現したのはキーラだ。
「魔王様! なぜこのようなところに・・・」
「招待客が見えたので我直々に迎えに来たのだ」
キーラは門兵の問いに答えるとウィルアムたちに歩み寄った。
「シディア、それにウィルアム、よくぞ来てくれた」
「魔王陛下、お久しぶりでございます」
『うむ』
ウィルアムが頭を下げようとするのをキーラは手で制した。
「我が招待したのだから気を楽にするがよい。 それでスティクォンとメルーアはどうした?」
「少々お待ちください」
すると状況を察したのかシディアの背中からスティクォンが、馬車の中からメルーアが降り立つとキーラのところまで歩いた。
「スティクォン、メルーア、久しぶりだな」
「キーラ、久しぶり」
「招待いただきありがとうございます」
スティクォンとメルーアはキーラに挨拶する。
「息災で何よりだ」
「キーラに会ったら伝えたいことがあったんだ。 僕たちの国だけど多種族共生国『マルチブルク』と名乗ることにしたよ」
「そうかそうか、国名が決まったか。 それは良かったな」
キーラは我が事のようにスティクォンたちのことを喜んだ。
それからウィルアムに向き直ると質問する。
「ところでウィルアムよ。 ここで何があったんだ?」
「実は・・・」
ウィルアムが答えようとしたところで門兵が遮った。
「魔王様、この者たちはいったい・・・」
キーラは質問の邪魔をされたことに怒りを感じたのか門兵に鋭い眼光を向けた。
あまりの圧力に門兵は言葉が詰まる。
「この者たちは我の客人だ。 我が直接招待状を送った」
その言葉を聞いて門兵の顔が蒼褪めた。
「そ、それでは、こ、これは、ほ、本物っ?!」
門兵は手元にある招待状を見て震えだす。
「ん? 3日前に防衛大臣を通してこの者たちが来ることを通達したのだが聞いていないのか?」
「は、はい!!」
キーラが門兵や衛兵たちを見渡すと皆知らないと肯いていた。
「詳しい話を聞きたいところだが、これ以上我の客人を放置するわけにはいかんのでな。 今は不問とする」
「ははぁっ!! 寛大なお言葉ありがとうございますっ!!!」
キーラはスティクォンたちに状況を説明する。
「どうやら我の手違いで面倒事になったようだ。 許せ」
「別に気にしていませんよ」
「あとで伝達を怠った者には責任を取らせるとして、まずは多種族共生国『マルチブルク』から来た者たちよ。 歓迎する。 ところで馬車が多いようだがそんなに人を連れてきたのか?」
キーラの疑問にスティクォンが答える。
「前2つはそうだけど、あとはキーラへの贈り物を載せている」
「ほぅ、我に贈り物とな?」
「気に入るかはわからないけど・・・」
「スティクォンたちのことは信用しているが毒物や危険物があっては問題なのでな。 どれ、我の【探知魔法】で調べてみるか」
そういうとキーラは【探知魔法】を発動してすべての馬車を確認した。
「ふむ、毒物や危険物はなさそうだな。 よかろう、すべての馬車の通行を許可する。 では、我についてくるがよい。 シディア、悪いが上空から入ってくれ」
『壁を破壊して進むわけにもいかぬからな』
キーラは背を向けると歩き出した。
そのうしろをスティクォンたちがついていく。
シディアはキーラの言う通り空から中に入っていった。
外壁の門を潜るとそこには整備された城下町があり、その先には大きな城が建っている。
「はぁ・・・すごく綺麗な街並みだな」
「ここに住む者たちの努力の賜物だな。 各々が自主的に取り組んだ結果だ」
町中にいる魔族たちはスティクォンたちを不審な目で見ていたが、隣にいるキーラを見た途端、皆頭を垂れる。
「僕たちの国は未だに発展途中だから参考にさせてもらうよ」
「国造りに役立つなら好きにするがよい」
他愛ない会話をしながら歩いていると城門に辿り着いた。
城の周りは堀になっていて、堀の中は透き通るような水で満たされている。
跳ね橋が降ろされており、キーラに気づいた門兵が最敬礼で出迎えた。
「ここが我が城だ」
城門の隙間から見える城はスティクォンの知るフーリシュ王国の王都フーズベルグにある城よりも立派だった。
「立派な城だな」
「ゆっくりと見せてやりたいところだが、まずは落ち着ける場所まで案内しよう」
キーラの案内でスティクォンたちは城門を通過して入城するのであった。




