12.土地を作ろう
メルーアの発言にスティクォンは疑問を口にする。
「メルーア、どうやってこの砂漠で土地を作るんだ?」
「それはすでに考えてありますわ」
メルーアは【土魔法】を発動するとそこから大量の土がサラサラな砂の上に放出される。
「これは【土魔法】?」
「はい、まずは【土魔法】で砂の上に土を被せます」
ある程度、砂の上に土を被せると今度は【水魔法】を発動して大量の水を土にかける。
すると水を含んだ土が重みで沈んでいく。
沈んだところに再び【土魔法】で土を被せる。
あとはこれを繰り返すだけだ。
「なるほど、これならしっかりとした土地ができる」
メルーアはこれを繰り返すこと200回、ついに土が沈まなくなった。
スティクォンは土の上に立つと歩いたりジャンプしてみる。
「すごい、本物の土地と変わらない」
「ふぅ、やりましたわ」
「これで問題なく次の工程に進めますな」
「いいえ、まだですわ」
スティクォンとウィルアムは建物について考えていたが、メルーアはそうではなかった。
「これで終わりじゃないのか?」
「この狭さでは建物はできても、食用植物を育てるには狭すぎてとても生活できませんわ」
そう、今回メルーアが開拓した土地は1平方キロメートルである。
家を建て、貯水池を作り、畑を作り、外壁を作ればもうそれ以上は作れない狭さだ。
最初の1筆はメルーアが土地を開拓できるかどうかの確認だったらしい。
「メルーア、どのくらいの広さにするんだ?」
「最低でも今の10倍、できれば100倍はほしいわね」
メルーアの考えでは最低でもこの10倍の面積を開拓する必要があると考えていた。
「そ、そんなに?!」
「あればあるほど色々な施設を作ったり農作物ができますわ。 その分維持も大変ですけどね」
メルーアはそういうと今度は3面同時に開拓し始めた。
しばらくしてメルーアが4筆を開拓した頃合いをみて、スティクォンが話しかける。
「メルーア、どれだけ開拓するかわからないが、目印をつけるべきではないか?」
「・・・それもそうですわね」
スティクォンの意見を聞きメルーアは少し考えてから同意する。
メルーアは出来上がった4筆の土地の中心に何かを埋めると魔力を開放した。
するとそこから芽が出てきたのだ。
「!!」
スティクォンは目の前の光景に絶句する。
こんな植物がない場所から芽が出てくるなんて信じられない光景だ。
しばらくすると芽は大きくなり幹になり枝を出す。
やがて立派な木になったのだが、メルーアは加減を間違えたためかそのまま木が大きく成長しすぎた。
「これは・・・目印にしてはちょっと・・・」
「そうですな」
「あう、すみません。 加減を間違えました」
その木は高さ500メートル以上、幹の直径は50メートルを超えるほどで、一言でいえば巨木だ。
さすがに目印にしては大きすぎる。
しかし、高さ以上に枝がたくさん伸びたことにより日除けになり、また中心部であることが一目瞭然なので悪いことばかりではない。
「まぁ、これはこれで役に立つからいいけど、メルーアの魔法はすごいですね」
「わたくしのスキルは【地母神】ですからね」
「【地母神】?」
「はい、これは基本の四大元素のうち【水魔法】と【土魔法】、それとこれらを合体させた魔法で【木魔法】の3つが内包されたスキルですわ」
「へえ・・・」
スティクォンからしたらとても便利なスキルだ。
「これだけ有能なスキルならとても重宝されそうですね」
「・・・えぇ・・・」
メルーアの歯切れの悪い声にスティクォンは首を傾げた。
「どうしたの?」
「スティクォン様、それ以上はお聞きにならないでいただけないでしょうか?」
以外にもウィルアムが止めに入る。
「爺、よいのです」
「しかし、メルーアお嬢様・・・」
「よいのです。 スティクォン、わたくしはこのスキルで命を狙われることになりました」
スティクォンはメルーアの一言で即座に理解する。
メルーアのスキルは有能すぎた。
故に姉の嫉妬を買ったメルーアは逃げるために家を出たのだ。
「すみません」
「いえ、作業の続きを行いますわ」
それだけ言うとメルーアは開拓を再開した。
スティクォンの【現状維持】のおかげでメルーアは【土魔法】と【水魔法】を駆使して次々と土地を開拓していく。
1筆1平方キロメートルが開拓により4筆になり、7筆になり、10筆になり、13筆になり、16筆になり、・・・
出来上がった土地はスティクォンとウィルアムが問題ないか確認していく。
問題があれば、メルーアがすぐに梃入れする。
また、1平方キロメートル毎4筆の中心に巨木から取り出した木の根を植えて、【木魔法】で立派な木に育てることでどれくらい開拓したかを目安にした。
これで現在縦横何筆開拓したかがわかる。
そして、メルーアはついに縦100キロ×横100キロの10000筆を開拓するのに成功した。
その広さは10000平方キロメートル、スティクォンがいたフーリシュ王国の王都フーズベルグがまるまる16入る広さだ。
作業期間は1ヵ月弱で時々、開拓済みの土地に土や水を追加したことで当初よりも少し遅れたらしい。
メルーアの努力により死の砂漠の中心部に新たな土地が誕生した。
「スティクォン! 爺! わたくし、やりましたわ!!」
「メルーア、おめでとう」
「メルーアお嬢様、おめでとうございます」
メルーアは目標通りにできたことに達成感を感じていた。
そんなメルーアをスティクォンとウィルアムが手放しに褒める。
「これで今度こそ次の工程に進めるね」
だが、そこに珍客が来るなどスティクォンたちは予想もしていなかった。