119.いざ、魔王城へ
「さて、あと残された問題は一つ・・・マルチブルグの国旗をどうするかだな」
「たしかに必要ですわね」
「国を象徴するものだけに簡単には決められませんな」
ファリーが素直に質問する。
「国旗って何ですか?」
「国旗っていうのはその国を表す象徴だよ。 エルフの国では全体的に緑を基調として中央に木のシルエットが刺繍されている」
「まぁ、国の顔ってやつだな。 ちなみに獣の国は赤い生地に獣の横顔だ」
ティクレとスポーグが自分たちの故郷の旗がどういうのか教える。
「それでマルチブルグの国旗は何にするんですか?」
「そうだな・・・」
スティクォンは紙とペンを持つと悩みながらもイメージしたのを描いた。
そこには上段2/3が青、下段1/3が緑、青の中央に太陽、その周りに黄色い星がいくつも散りばめられている。
「こんなのはどうかな? 青は『平和』、緑は『自然』、太陽は『命』、星は僕たち『多種族』を表している」
スティクォンの説明を受けてメルーアたちは1つ頷いた。
「わたくしたちにぴったりですわ」
「そうですな」
「みんなが仲良くしているのが伝わってきます」
「これでいこうぜ!」
特に不満も代案なく皆が称賛する。
「それじゃ、今後はこの絵柄をマルチブルグの国旗にします」
満場一致で絵柄が決まるとスティクォンはアーネルとシャンティに話しかける。
「シャンティさんはこの絵を綺麗に描き直してもらいます。 アーネルさんはシャンティさんが描き直してくれたのを基に編んでもらいます。 負担ばかりかけるけどお願いします」
「見る人を魅了するほどの絵柄にしてみせるわ」
「立派な物に仕上げてみせるわ」
アーネルとシャンティは快く引き受けた。
「さて、最低限必要なことは決めた。 あと問題なのは礼儀作法だけど・・・」
スティクォン、メルーア、ウィルアムについては問題ないが、ここにいるほとんどの者が礼儀作法を知らない。
どうしようかと考えているとウィルアムが気楽に話しかけてくる。
「スティクォン様、そこは気にしなくてもよいでしょう」
「ウィルアムさん?」
「爺、どういうことかしら?」
スティクォンもだがメルーアも疑問に思いウィルアムに質問する。
「私たちは招待客なのです。 相手に対して不快にさせないように礼節をわきまえていれば問題ないでしょう」
「たしかにそうだな。 キーラだってこちらの事情は知っているだろうし」
「ええ、変な言動や行動をしなければあのお方なら黙認してくれますわ」
「ほかの皆様はなるべく私語を慎んでもらい、私たち3人だけ言葉遣いに注意すればよろしいのです」
ウィルアムの説明で納得するスティクォンとメルーア。
「今ウィルアムさんの説明があった通り、向こうでは誰が聞いてるかわからないから話をするときは注意してください。 話は以上です。 それでは皆準備をお願いします」
「「「「「はい!!」」」」」
話が終わり、スティクォンたちはキーラ主催の晩餐会に出席するための準備を開始する。
スティクォンはシディアにマルチブルグとキーラの住む場所との間を往復するようお願いしたところ快く引き受けてくれた。
ただ、同行者と贈呈品が多く、一回では運びきれないので何回かに分けて運搬することになった。
ほかにも、スティクォンは【現状維持】で向こうで移動手段として使う馬たちが乱心しないよう心穏やかな状態を維持したり、持っていく飲食物すべての鮮度・温度の状態を保つように維持した。
ファリーは【製造神】で馬に引いてもらう荷車や贈呈品を入れる箱などを作った。
アーネルとシャンティだが、ファリーたち主要メンバーには礼服やドレスを、護衛である獣人族たちには動きやすい軍服や執事服、メイド服などを作った。
それぞれの服と国旗も含めて宣言通りたったの1週間で全員分を用意したことに皆驚いたのはいうまでもない。
こうして各々が必要な準備を進めていくのであった。
晩餐会当日───
早朝、スティクォンたちが出発の準備をしていた。
すでに大半の者は前日に先行して向かった。
第一陣はウィルアム、バーズ、スポーグ、ドーグ、護衛の男性獣人族たちで、馬や荷車といった移動手段に使うモノと一緒だ。
第二陣はメルーア、クーイ、ティクレ、アールミス、護衛の女性獣人族たちで、贈呈品の半分と衣服を持って向かった。
そして、今日出発の第三陣はスティクォン、ファリー、ハーニ、ビューウィ、マムモ、アーネル、シャンティと残りの贈呈品を持って向かう予定だ。
スティクォンたちは見送りに来てくれたリルとクレアに話しかける。
「リル、クレア、悪いけど僕たちがいない間の留守を頼むよ」
「わかりました! スティクォンさん!」
「ファリーちゃん、気をつけてね」
「うん! リルちゃん、クレアちゃん、行ってくるから!」
そこに遅れてドレラ、アリアーサも見送りにやってきた。
「お土産待ってる」
「ここは私に任せてください! あと、ティエスさんとソレーユさんからの伝言で『私たちのことは気にせず楽しんできてください』、『帰ってきたら向こうでの出来事を聞かせてくださいね』といってました」
「わかった。 ありがとう。 それじゃ、行ってくるよ」
スティクォンたちはシディアの背中に乗ると北東へと飛んで行く。
それから2時間が経過すると前方に立派な城が見えてきた。
「あれがキーラがいる城か」
そのまま直行するかと思いきや城から1~2キロ離れたところでシディアの飛行が止まる。
地上を見るとそこにはメルーアたちが上空を見上げて手を振っていた。
「ここですわ!!」
シディアはメルーアたちの近くに着陸する。
「お待たせ。 準備はできているようだね」
メルーアたちはすでに礼服に着替えていた。
「スティクォン様、荷物は我々が荷車に積みますので、その間に礼服に着替えてください」
「わかりました。 それではお願いします」
スティクォンたちが礼服に着替えている間に獣人族たちがウィルアムの指示に従い荷物を荷車に積んでいく。
しばらくして着替え終えると荷物はすべて積み終わっていた。
「スティクォン様、準備が整いました」
「ウィルアムさん、ありがとう。 それでは、行きましょう」
スティクォンの号令の下、皆でキーラがいる城へと向かうのであった。




