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116.文字の普及

文字の普及を始めて1週間が経過した。

マルチブルグに住む者たちの胸元には名札がつけられ、左腕には腕章があった。

どちらも本人の名前入りだ。

アーネル、ティクレ、アールミス、ドーグの4人はマルチブルグに住んでいる人々に会ってその場で名札と腕章を作り、身に着けてもらった。

文字を知らない者たちは名札と腕章を受け取ると見たこともない記号(文字)を不思議そうに眺める。

時を同じくしてマルチブルグ南西の畑には区画ごとに育てている野菜や果物の絵が描かれた大きな看板が設置された。

絵の下には大きな文字で育てている作物の名前が書かれている。

これらはすべてマムモ、シャンティ、クーイの3人で作り上げていったものだ。

だが、絵を見てその区画で何を育てているのかはわかっても下に書いてある文字まで見る者はあまりいなかった。

スティクォンとウィルアムも文字表を作成して読めない人に無料で配布している。

質問者には個別で対応もした。

こうして文字の普及活動をしているが国中に広まるにはまだまだ時間がかかるだろう。


それから更に1週間が経過した。

文字を知らない者たちは最初こそ戸惑ったものの知っている者たちから教えてもらうことで文字を理解し少しずつ受け入れていった。

そのおかげか文字だけでなく簡単な単語なら読める者が少しずつ現れる。

特に子供たちは順応が非常に高く成長は目を見張るほどだ。

この頃になるとスティクォンのところに文字を読むだけでなく書けるようになりたいという者が現れ始めた。

スティクォンはすぐに宰相であるウィルアムと内務大臣であるアリアーサの2人を呼んだ。

「ウィルアムさん、アリアーサさん、お忙しいところすみません」

「スティクォンさん、何の用ですか?」

「2人にちょっと相談したいことがありまして」

「相談ですか?」

スティクォンは文字の書き方を習得したい人たちがいることを伝える。

「はい。 実は文字を読めるだけでなく書けるようになりたいという人たちが増えまして、教える場を設けたいと考えています」

「良い兆候ですな」

ウィルアムは国の識字率が上がることに賛成する。

メルーアとシディアのスパルタ教育によりつい最近なんとか文字の読み書きをマスターしたばかりのアリアーサも同意した。

「最初は意味が分からない記号(文字)でしたけど、理解すると口で説明するよりも文字で説明したほうが楽になりましたからね。 私も賛成です」

口頭で伝えると聞き取れなかったり聞き間違えることがたまにある。

そういうのを防ぐという意味では文字は重宝されるだろう。

「それじゃ、早速・・・」

「スティクォン様、お待ちください。 実行に移すには紙やペンといった道具が必要になるでしょう」

「ああ、それが必要か・・・」

ウィルアムに指摘されてスティクォンは道具の存在をすっかり忘れていた。

「最悪木の棒を使って地面に書くという手段もあるけど、あとで復習することを考えるとやはり道具があったほうがいいだろう」

「そうですな」

スティクォンの意見にウィルアムが賛同する。

「とはいえ、どうしたものかな・・・」

先日ティクレとアールミスが木から紙を作ることには成功しているが、量産体制にはまだまだ程遠いと報告を受けていた。

量産体制が確立するまではなるべく温存したいところだ。

「紙は量産されるまでは引き続き外部から購入するとして、ペンとインクはここでも作れるかな?」

「ペンは主に鳥の羽を使います。 ガチョウや白鳥などをここ(マルチブルグ)で増産するのがよろしいでしょう。 インクに関しましてはメルーアお嬢様、マムモ様、アリアーサ様のご助力があれば可能かと愚考します」

ウィルアムの説明によるとメルーアが【水魔法】で水を作り、マムモが【色染神】で水に色を付け、最後にアリアーサの【水神】で水に適度な粘度を加えればインクができるそうだ。

「道具は追々増やすとして、教える場を設けることにしましょう」

「畏まりました」

「・・・」

ウィルアムは了承するもアリアーサは黙ったままだった。

「アリアーサさん?」

「スティクォンさん、それって文字を書くことだけ教えるんですか?」

「え?」

アリアーサは自分が思っていることを話し始めた。

「例えばですけど、メルーアさんみたいに魔法が使いたいとか、クーイさんみたいに料理がしたいとか、アーネルさんやシャンティさんみたいに服を作りたいとか、その・・・色々できたらいいなぁって」

「「・・・」」

アリアーサの意外な言葉にスティクォンとウィルアムが驚いた顔をする。

「えっと・・・変なことを言ってごめんなさい」

「いやいや、すごく貴重な意見だ。 アリアーサさんの言う通り文字を書くことだけでなく、数字や計算を教えたり、貨幣や物の売買について教えたり、日常生活に役立つ(必要な)知識を身に付けたり、礼儀作法を身に付けたり、武器や魔法といった技術的なものを身に付ける場があってもいいんじゃないか」

「左様でございますな」

スティクォンとウィルアムはアリアーサの意見に賛成する。

「スティクォン様、学校を作ることを提案いたします」

「そうだね。 校舎についてはファリーたちドワーフに頼んで建ててもらおう」

「それがよろしいかと。 教師につきましては各分野の専門家にご助力していただくよう手配しておきます」

「さすがウィルアムさん、助かります」

スティクォンとウィルアムは学校に必要な物事を煮詰める。

「それにしてもアリアーサさんは今内務について勉強している最中なのによく思い付きましたね」

「メルーアさんみたいになんとなくあると便利かなっていうのが頭に思い浮かんでそのまま口に出してしまいました」

「ほっほっほ、メルーアお嬢様もよく思い付きで言葉にしますからな」

メルーアはよく自分の意見を言葉にするが、スティクォンと出会う前までは無理なことや無茶なことは決していわなかった。

「では、改めて・・・マルチブルグに学校を作って教える場を設けることにしましょう」

「畏まりました」

「はい」

こうしてマルチブルグに学校を作ることになった。


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