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114.リクル7 〔リクル視点〕

「リクル、付き合わせて申し訳ないです。 寄り道をしなければ今頃は魔族の国に着いていたのですが・・・」

「私は気にしていませんわ。 それにあなたがいてとても助かっていますから」

私は今1人の女性エルフとともに魔族の国を目指しています。

なぜ、私がエルフと旅をしているのか。

それは私がエルフの国に到着した時まで遡ります。


「・・・んん、ここは?」

「気が付いたみたいですね」

目を開けるとそこには女性エルフが私を覗き込むように見ていました。

見た目の年齢は18~20歳くらいで肌の色が黒いことからダークエルフだと思われます。

「気を失う前の事は思い出せますか?」

「私は・・・たしか・・・」

考え込んでいるとしばらくして気を失う前の事を思い出しました。

「思い出したわ! 私は毒を受けてこのままでは殺されるから必死になってエルフの国に逃げようとしていたのですわ」

「どうやら思い出したようですね」

「えっと・・・あなたが気を失った私を介抱してくれたのですか?」

「・・・ええ、そうですよ」

私の問いにエルフはぶっきらぼうに答えます。

「ありがとうございます」

「礼を言われるほどのことではないです」

上半身を起こすとかけられた布団がずれ落ちて私の乳房が露になります。

「!!」

私は慌てて布団を手に取ると胸元を隠しました。

「あなたが何者なのかわからないので身に着けているものすべてを剥ぎ取りました」

「当然といえば当然です。 あなたたちエルフから見たら私は招かれざる客なのですから」

そう、私はエルフの国に無断で侵入したのだから危険視されても仕方ありません。

「あなたは何をしにエルフの国にきたのですか?」

「私は帝国の軍隊から逃げるためにエルフの国を目指していました」

私は自分が追われた理由をエルフに打ち明けます。

王国から獣の国へ逃げたこと。

獣の国で帝国の軍隊に襲われたこと。

生きるためにエルフの国にきたこと。

すべての話を聞き終えたエルフが素っ気なく応じます。

「・・・嘘はついていないようですね」

「私の話を信じてくれるのですか?」

「あなたが気を失ってからしばらくしてほかの人間族たちがエルフの領域に踏み込んできましたから」

「!」

帝国の軍隊がここ(エルフの国)まで来たことに戦慄を覚えます。

「警告すると深追いせずに引き返していきましたけどね」

「・・・」

エルフたちが私の身柄を帝国に渡さなかったことに内心ホッとします。

「それと長老からの伝言です。 『エルフの国から去りなさい』とのことです」

「わかりました。 ただ、この恰好で外に追い出されるのは困るので衣服だけでも返してもらえませんか?」

「いいでしょう。 ただし、少しでも変な動きを見せたら命の保証はありません」

それだけいうとエルフは部屋から出ていきます。

しばらくして私の服を持って戻ってくるとエルフは無言で服を布団の上に置きました。

私は起き上がると着替え始めます。

沈黙の中エルフが話しかけてきました。

「あなたに聞きたいことがあります」

「私に答えられることならお答えします」

「あなたはなぜ故郷を捨てたのですか?」

「・・・私の故郷(王国)はもうダメかもしれないと判断したからです」

実際にスティクォンがいなくなってから王国は徐々に衰退しています。

「私にはお父様と兄様、それと追放処分を受けた弟がいます。 私はそんな家族を捨てて逃げたのです」

逃げた。

(そう、私は家族を、故郷を、国を捨てて逃げた)

私が一人罪悪感に苛まれているとエルフが更に質問してきます。

「行く当てはあるのですか?」

私は被りを振ります。

「今のところは行く当てはないわ。 仮に行くとしたら魔族の国かしら。 そこにも居場所がないなら着の身着のままに旅を続けるかな」

「・・・」

回答を聞いてエルフは再び沈黙します。

着替え終わると私はエルフに頭を下げます。

「助けてくれてありがとう。 それとお世話になりました」

扉に向かって歩く私にエルフは意を決して話しかけてきました。

「私もあなたの旅に連れて行ってくれませんか?」

「え?」

突然のことに私は驚きました。

「連れて行ってくれませんか?」

「私は構わないけど、あなたはいいの?」

私の質問にエルフは首を縦に振りました。

「ここに私の居場所はもうないから」

訳ありなのかエルフはそれ以上語ろうとはしません。

「・・・」

「迷惑ですか?」

「いえ、迷惑ではないわよ」

「決まりですね。 すぐに用意しますので玄関で待っていてください」

エルフはそれだけいうと部屋から出て行きました。

それから玄関で待つこと5分が経過するとエルフが荷物を2つ持って戻ってきます。

「お待たせしました」

2つの荷物のうちの1つを私の足元に置きました。

よく見るとそれは私のマジックバックです。

「あとこれも」

差し出されたのは布と私がいつも愛用している剣です。

受け取ると早速剣を腰に差します。

布を広げるとそれはフード付きのマントでした。

私はマントを羽織りフードで顔を隠します。

「それでは行きましょう。 えっと・・・」

「そういえば自己紹介がまだだったわね。 私は人間族のリクル」

「サレス。 ハーフダークエルフです」

「ハーフダークエルフ?」

聞きなれない種族に私は首を傾げます。

「実父がエルフで実母がダークエルフです。 2人とももういません」

私の疑問にサレスが簡潔に答えました。

そこで先ほどのサレスの言葉を理解します。

両親がいなくなり身寄りのないサレスにはエルフの国には居場所がないのでしょう。

「つまらない話をしました。 行きましょう」

私たちは荷物を持つと家を出ました。

サレスは一度だけ家を見てすぐに前を向きます。

「リクル、少し寄りたいところがあります」

「別に構わないわよ」

こうして私はサレスとともに新たな旅に出ることになりました。


あれから数日が経過しました。

鬱蒼(うっそう)としている森の中を歩いていると開けた場所に出ました。

そこには2つの石の灯篭があります。

「ここは?」

「実父と実母が眠る墓です」

それを聞いて私は後悔しています。

(墓参りか・・・私も旅に出る前にお母様に挨拶をしておけばよかったわ)

サレスは一度だけ拝むと私に向き直ります。

「もういいの?」

「ええ。 さぁ、行きましょう」

私とサレスは魔族の国を目指して歩き出しました。


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