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110.標準文字は何にする?

文字が読めないという新たな問題に頭を悩ませるスティクォン。

そこでふと疑問を抱いた。

「シディアとバーズさんは僕が書いた文字(人間族の文字)を読めるんですよね?」

スティクォンの質問にシディアとバーズは紙から目を離して答える。

『これくらい簡単だ』

「獣人族は人間族と交流しているからな。 文字くらいはなんとか読めるぜ。 ただ、書くのは苦手だけどな」

シディアは堂々と、バーズは頭を掻きながら答える。

ウィルアムを見ると同じ質問をした。

「ウィルアムさんは僕が書いた文字(人間族の文字)を読めてましたよね?」

「はい。 私がお仕えしていたウィンアーク伯爵家では多くの書物を保有されております。 その中には人間族の文字で書かれた物もございます。 いざと言う時のために識字できるよう独習いたしました」

「そうなんだ」

ウィルアムの回答にスティクォンは納得する。

「それでウィルアムさんに質問だけど、マルチブルグの標準文字は何にするべきかな?」

「人間族の文字で問題ないでしょう」

「でも、ここ(マルチブルグ)にいる人間族は僕だけですよ?」

「スティクォン様はこの国(マルチブルグ)の王なのです。 王らしく振舞えばよいのです」

ウィルアムは優しい眼差しで頷く。

「それならこの国の標準文字は人間族の文字とします。 ウィルアムさん、申し訳ないけど今すぐマルチブルグにいる人たち全員に文字が読めるか確認してもらえないかな?」

「畏まりました。 それでどのように確認いたしますか?」

「そうだな・・・あ! これならすぐに確認できるかもしれない。 ウィルアムさん、ちょっと待ってて」

それだけいうとスティクォンは一度その場を離れた。


10分後───

スティクォンは複数の紙とペンを持って戻ってきた。

「ウィルアムさん、これをみんなに見せてください」

ウィルアムはその紙に目を通す。

そこには人間族の文字でこう書かれていた。

『あなたは文字を読めますか? また、あなたは文字を書けますか? それをウィルアムさんに伝えてください』

ウィルアムは一読すると頷いた。

「これなら読める方と書ける方を判別できますな。 それでこちらの未記入の紙は?」

「読み書きが両方できる人の名前を書いてもらいます。 読むだけならできる人は多いと思いますので」

「わかりました。 では、早速調査いたします」

ウィルアムは一礼するとその場をあとにした。

「ふぅ・・・さてと」

スティクォンはビューウィとアリアーサを見る。

するとシディアが懇切丁寧に文字を教えていた。

しかし、2人とも難しい顔をして紙とにらめっこしている。

「この文字って難しいわね」

「私には無理です!」

文字を理解しようとするビューウィに対してアリアーサは早くも匙を投げた。

「シディア、ごめん。 僕がいない間2人に文字を教えてくれていたんだね」

『このくらいどうということはない』

シディアは別段気にすることはなく対応していた。

「スティクォンさん! こんなの読めないですよ!!」

アリアーサがムスッとした顔で抗議する。

「アリアーサさん、落ち着いて」

「できないものはできないです!!」

アリアーサは癇癪を起して駄々を捏ねる。

「困ったな・・・」

どうにか宥めようとするスティクォン。

そこでふとある事を思いつく。

スティクォンは紙にある単語を書いてアリアーサに見せた。

「アリアーサさん、これは何て読むでしょう?」

「わからないです!!」

「じゃぁ、ヒントを出しましょう。 アリアーサさんが今一番大好きな食べ物です」

「食べ物?」

アリアーサは腕を組んで考え込む。

しばらくして辿り着いたのか答えを口にする。

「も、もしかして『アイスクリーム』ですか?!」

「正解です」

アリアーサの顔が綻ぶ。

そして文字をまじまじと見たあと、スティクォンに話しかけた。

「スティクォンさん! それ(紙とペン)貸してください!」

言うが早いかアリアーサはスティクォンが持っている紙とペンを奪い取ると何かを書いた。

「どうです? どうです?」

たどたどしい文字ではあるがそこには『アイスクリーム』と書かれていた。

「あ、合ってる・・・」

「ふっふっふっ、私だってやればできる子なんですよ」

頬を引きつらせて正解であることを告げるスティクォン。

それに対して勝ち誇るアリアーサ。

『やるではないか、スティクォン』

「なるほど、そういう覚え方があるのね」

「アリアーサの姉ちゃん、食い意地が張ってるぜ」

シディアたちは思い思いの感想を述べる。

「ははは・・・だけどこれは使えるかもしれない」

スティクォンは気持ちを切り替えて今後どのように文字を普及させようか検討する。

「みんなに文字を読んでもらうにはなるべく目に付くところがいいだろうな。 そうすると個人の名前が書かれた名札、野菜や果物などの作物の絵と文字が書かれた立て看板、あとは料理が描かれた絵とその料理の名称かな?」

『最初としてはそこらへんが妥当だろう』

「身近なものだし覚えるのには最適だな」

スティクォンの案にシディアとバーズが賛同した。


4時間後───

太陽が西の地平線に沈む頃、ウィルアムが戻ってきた。

「ただいま戻りました」

「ウィルアムさん、お疲れ様です。 結果はどうでした?」

「ホビット族、ドワーフ族、魔物の方々は読み書きできません。 獣人族、海人族の方々は読めるけど書けません。 エルフ族の方々は読み書きできます」

「予想通りかな。 それで明日以降の事なんですが・・・」

スティクォンは自分が考えた案をウィルアムに説明する。

話を聞き終えたウィルアムが一つ頷く。

「それは良い考えですな」

「絵についてはシャンティにお願いするとして、名札については読み書きできる人を集めて手伝ってもらう予定です」

「それがよろしいかと。 あとは学問に興味がある者たちには学ぶ場を設けて識字できるようにいたしましょう」

「あ、それいいですね。 採用です。 全員が全員興味があるかと言われれば『ある』とは言い切れないですから」

ウィルアムの提案に賛同する。

「では、これから識字できる方々に話をしてまいります」

「ありがとう、ウィルアムさん。 助かるよ」

ウィルアムは一礼するとその場をあとにする。

「さて、明日から忙しくなるぞ」

スティクォンは頬を叩いて気を引き締めるのであった。


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