108.紙と羊と
スティクォンの指名により宰相ウィルアム、財務大臣シディア、防衛大臣バーズ、外務大臣ビューウィ、内務大臣アリアーサが決定した。
「今のところはこれだけかな・・・あとは必要に応じて役職を増やせばいいのかな?」
「そうですな」
ウィルアムが同意するように頷いた。
「あとは役職に選ばれた者たちは定期的に集まって会議というか報告会をするとして、議事録なんかも残す必要があるね」
「そうなると紙が必要ですな」
「紙か・・・そういえばないな・・・」
スティクォンは両腕を組んでどうしたものかと唸っていた。
今までは衣食住だけで事足りていたが、国として発展させるのであればこれからは消費品や需要品、奢侈品なども作っていく必要がある。
どうしても作れない物については外部から購入するとして、それ以外は自分たちの手で作っていくことになるだろう。
「純白な紙は貴重ですから購入となるとそれなりの値になります」
「別に高価な紙じゃなくても羊皮紙とかで十分ですよ。 バーズさん、羊の数って問題ないですか?」
「ああ、問題ないぜ」
「それなら羊皮紙用に羊を何頭か手配してもらえますか?」
「ああ、わかっ・・・」
バーズが答えようとするが、それよりも早くクレアが遮った。
「スティクォンさん、羊さんをどうするんですか?」
「クレア?」
クレアは不安そうな顔でスティクォンを見る。
「もしかして殺しちゃうんですか?」
「えっと・・・」
核心を突く言葉にスティクォンは口ごもる。
「そうなんですか? ぅぅぅ・・・そ、そんなの・・・そんなの嫌です! スティクォンさん! お願いです! 羊さんを殺さないで!!」
クレアを見ると目が潤んで今にも涙が溢れだそうとしていた。
「クレアちゃん」
「クレアちゃん」
リルとファリーは心配そうにクレアを見ている。
スティクォンはどうやって説明しようか考えているとシディアがクレアに話しかけた。
『クレアよ、この世界は弱肉強食だ。 我は生きるためにこれまで多くの者たちを殺め喰らってきた。 その中にはお前が弱愛する羊も含まれている』
「!!」
シディアの思いもよらない言葉にクレアは目を見開き両手で口を覆った。
『溺愛しすぎるのが悪いとはいわない。 ただ、生きていくためには何かしらの犠牲が必要だ』
「・・・」
クレアはどう答えていいのかわからず俯いてしまう。
「シディア、自分を卑下にして悪役に徹することはないよ。 それに僕だって羊を食べたことがある」
「そうだぜ、シディア様。 俺たちだって生きるために動物を殺して食べてるからよ」
「それをいうならわたくしも同じく食したことがありますわ」
スティクォンの言葉に続くようにメルーアやバーズたちも次々と告白していく。
『余計なことを・・・』
「今のシディアには言われたくないよ。 それに今まで一致団結して頑張ってきたのにここで仲違いになってほしくないからね」
『ふん』
計略を簡単に見破られたのが面白くないのだろう、シディアは顔を背けてしまった。
「あの・・・我儘なことを言ってごめんなさい!」
シディアが拗ねているところにクレアが謝ってきた。
「クレアは悪くないよ」
「そうそう、気にするなって」
「でも・・・」
申し訳なさそうにしているクレアを見かねたバーズが何か思いついたのかスティクォンに話しかける。
「ああ・・・スティクォンさん、そういえばさっきのだけど間違って報告しちまった。 羊の数だけどまだ十分な数が揃っていないから今は無理だぜ」
バーズの意図を察したスティクォンもすぐに応じた。
「え・・・あ、ああ、そ、そうか、それなら仕方ないな。 当分の間はロストアーク伯爵領に行って購入することにしよう。 それでいいですよね、ウィルアムさん?」
「はい。 問題ございません。 上質な紙となると値が張りますが、資金にはまだ若干の余裕がございます」
「それなら紙についてはロストアーク伯爵領で購入することにします」
スティクォンの決定にクレアが頭を下げた。
「スティクォンさん! ありがとうございます!!」
「一時しのぎなんでいつまで続けられるかわからないけど・・・」
「それでも考える時間を作ってくれたのに感謝しています」
クレアとしては今すぐ血を見ずに済んでホッとしているのか胸をなでおろしていた。
(とはいえ、いつかは決断しないといけないだろうなぁ・・・)
暗い気分になるスティクォンにティクレが話しかけてきた。
「紙の件だけど、私に任せてくれないか?」
「え? ティクレ、もしかして紙を作れるのか?」
「【技術神】で調べたけど木から紙を作ることができるらしい。 ただ、どの木が紙に適しているのかわからないし、作ったことがないからどれくらい時間がかかるのかわからないけど・・・」
そういうとティクレは指で頬をかいていた。
「時間はかかってもいいから作れるのであればお願いするよ」
「わかった。 私とアールミスで作って見せるよ」
「え゛? 私もか? あははははは・・・はぁ、しょうがない、手伝ったやるぜ」
突然巻き添えを食らうアールミス。
だが、その顔は別に嫌がっていなかった。
「さてと・・・」
ぐうううううぅ・・・
スティクォンが何かを言おうとすると誰かのお腹の音が鳴った。
「はははははっ、そういえば食事がまだだったね。 難しい話はここまでにして朝食にしよう」
話を切り上げるとスティクォンたちは急いで朝食の準備をした。
2時間後───
朝食を終えると皆自分の仕事に戻っていく。
そんな中スティクォンの周りにはウィルアムとシディア、それと虎人族と鷹人族を始めとした数名の獣人たちが集まっていた。
「それではスティクォン様、これから紙を購入しに向かいます」
「ウィルアムさん、気を付けてください。 それと獣人の皆さん、ウィルアムさんの護衛をお願いします」
「スティクォンさん、任せてくれよ」
ウィルアムと獣人たちがシディアの背中に乗ると北にあるロストアーク伯爵領へ向かって飛び立った。
しばらくしてシディアの姿が見えなくなる。
「さてと・・・僕もこの国をどのようにしていくか考えないとな・・・」
スティクォンは背伸びをするとこれからのことを考えるのであった。




