106.国王 スティクォン
「みんな、これから国としてやっていく上で何か決めておくべきことはあるかな?」
「スティクォン様、まずは国や民をまとめる王が必要ですな」
スティクォンの質問にウィルアムがいち早く答える。
「王様か・・・暫定的にだけど決めておいたほうがよさそうだな。 誰か王様をやりたいという人はいないか? もしくはこの人なら王様として問題ないという人がいるなら推してくれ」
突然の事に誰が適任なのかわからず皆スティクォンを見ていた。
「どうしたんだ? 自薦でも他薦でもかまわないから」
「うーん・・・スティクォンさんじゃ、ダメなんですか?」
リルの言葉に皆が肯いた。
虚を突かれたのかスティクォンは驚いた顔をする。
「え? ぼ、僕?」
「はい。 私たちを助けてくれたのはスティクォンさんじゃないですか」
「今までスティクォンさんがみんなを率先して引っ張ってくれていたし」
「スティクォンさんが適任だと思います」
リル、ファリー、クレアを筆頭に多くの者がスティクォンを推す声を上げていた。
それを受けてスティクォンはおろおろしている。
「み、みんな、落ち着いて。 僕はそういう器じゃ・・・」
「そんなことはありませんわ」
「そうですな。 私もスティクォン様なら問題ないと愚考いたします」
「メルーア、ウィルアムさんまで・・・」
なんとかしようとするもシディアが遮った。
『あきらめろ、スティクォン。 お前ならここをより良い国へと発展させてくれるだろう』
「シディアまで・・・」
「皆さん、スティクォンがわたくしたちの王に相応しいと賛同される方は拍手をお願いしますわ」
メルーアの言葉にこの場に集まったすべての者が拍手喝采した。
「決まりですわね」
「スティクォン様、国王就任心からお喜び申し上げます」
「スティクォンさん、頑張ってください」
「ははははは・・・」
皆からの祝福にスティクォンは顔を引くつかせ空笑いするしかなかった。
それから急遽祝いの席を設け、その日は夜深くまで祝宴は続いた。
翌日───
太陽が東の地平線から顔を出した頃、マルチブルク南西の人工海にはここに住むほとんどの者が酒に酔い潰れて寝ていた。
そんな中いち早く目を覚ましたスティクォン。
「はぁ・・・どうしたものかな・・・」
『スティクォンの思う通りに国を作るがよい』
声がしたほうを振り返るとそこにはシディアがスティクォンのことを見ていた。
「シディア、起きていたのか」
『この程度の酒の量では我が酔い潰れるなどありえんからな』
シディアの周りには樽が10以上転がっていた。
「相変わらず酒に強いな」
『まだまだ飲み足りぬがな』
そういうと自然と笑い合う。
しばらくするとスティクォンが暗い顔になった。
『不安か?』
「正直僕が王なんて務まるのかなって思って・・・」
スティクォンは王として祭り上げられたことについて不安を口にする。
『難しく考えることはない。 今まで通りの生活をしていれば何も問題はない』
「けど・・・」
尚も不安を抱えるスティクォンにシディアが語りだす。
『スティクォン、国とはどのように作られるか知っているか?』
「いや、知らない」
『国とは人が集まってできるものだ。 人が住んでいない場所など国とはよべない』
「・・・」
『スティクォン、メルーア、ウィルアム、お前たち3人がこの地を作った。 いわばお前たちがこの国の歴史そのものといっても過言ではない』
「ははは・・・歴史とは大袈裟だよ。 僕たちは国を作ろうとした訳ではない。 ただ、生きていくために安住の地を求めていただけなんだけどね」
『そのおかげで我はスティクォンたちと出会えたのだからな』
「そうだな・・・シディアに会ってリルたちをスカウトして徐々に発展していったんだよな」
スティクォンは今までのことを振り返る。
1年にも満たしていないが色々な出来事があった。
農作業のためにリルたちを、味の改革のためにハーニたちを、衣服を作るためにアーネルたちを、塩を手に入れるためにティエスたちを、酒を手に入れるためにクーイたちを、畜産業のためにバーズたちをスカウトしてきた。
「シディア、僕は良き王になれるだろうか?」
『知らん。 これからこの国をどうするかによって良王にも悪王にもなるだろう』
「手厳しいな」
苦笑いするスティクォンにシディアが優しく言葉をかけた。
『堂々としていればよい。 何かあれば愚痴くらいは聞いてやるぞ。 我にできることなら手伝ってやるし、道を踏み外したらなら無理やりにでも戻してやる』
「シディア」
『少し語りすぎたようだな』
周りを見るとメルーアたちが首を振りながら起き上がる。
「・・・ぅーん、良い朝ですわ。 ん? スティクォン、どうしましたの?」
寝起きなのに皆顔は生き生きとして光り輝いているように見えた。
(こんなんじゃダメだよな)
暗い気持ちになっていたスティクォンは自分の頬を叩くと息を吸い込んだ。
それから意を決すると声を上げた。
「みんな、聞いてくれ」
メルーアたちが何事かと一斉にスティクォンのほうへと注目した。
「昨日から僕が王でいいのかずっと考えていた」
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
皆スティクォンの独白を黙って聞いている。
「正直いうと僕が王に相応しいか未だにわからない。 けど、僕はマルチブルクをもっともっとよくしていきたい。 そう考えている」
「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」
スティクォンは俯き、たどたどしく言葉を紡いでいく。
「至らない点もたくさんあるだろうが、これからも僕を支えてほしい」
「もちろんですわ」
「お仕えいたします」
メルーアやウィルアムを皮切りに応援する声が方々から聞こえてきた。
(みんな・・・ありがとう)
迷いが吹っ切れたスティクォンは顔を上げて堂々と発言する。
「僕はマルチブルクの王になることをここに宣言する」
この瞬間人工海に大きな歓声が沸き上がった。
かくしてマルチブルクの最初にして最後の王、スティクォン王がここに誕生した瞬間であった。




