表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/157

106.国王 スティクォン

「みんな、これから国としてやっていく上で何か決めておくべきことはあるかな?」

「スティクォン様、まずは国や民をまとめる王が必要ですな」

スティクォンの質問にウィルアムがいち早く答える。

「王様か・・・暫定的にだけど決めておいたほうがよさそうだな。 誰か王様をやりたいという人はいないか? もしくはこの人なら王様として問題ないという人がいるなら推してくれ」

突然の事に誰が適任なのかわからず皆スティクォンを見ていた。

「どうしたんだ? 自薦でも他薦でもかまわないから」

「うーん・・・スティクォンさんじゃ、ダメなんですか?」

リルの言葉に皆が肯いた。

虚を突かれたのかスティクォンは驚いた顔をする。

「え? ぼ、僕?」

「はい。 私たちを助けてくれたのはスティクォンさんじゃないですか」

「今までスティクォンさんがみんなを率先して引っ張ってくれていたし」

「スティクォンさんが適任だと思います」

リル、ファリー、クレアを筆頭に多くの者がスティクォンを推す声を上げていた。

それを受けてスティクォンはおろおろしている。

「み、みんな、落ち着いて。 僕はそういう器じゃ・・・」

「そんなことはありませんわ」

「そうですな。 私もスティクォン様なら問題ないと愚考いたします」

「メルーア、ウィルアムさんまで・・・」

なんとかしようとするもシディアが遮った。

『あきらめろ、スティクォン。 お前ならここ(マルチブルク)をより良い国へと発展させてくれるだろう』

「シディアまで・・・」

「皆さん、スティクォンがわたくしたちの王に相応しいと賛同される方は拍手をお願いしますわ」

メルーアの言葉にこの場に集まったすべての者が拍手喝采した。

「決まりですわね」

「スティクォン様、国王就任心からお喜び申し上げます」

「スティクォンさん、頑張ってください」

「ははははは・・・」

皆からの祝福にスティクォンは顔を引くつかせ空笑いするしかなかった。

それから急遽祝いの席を設け、その日は夜深くまで祝宴は続いた。


翌日───

太陽が東の地平線から顔を出した頃、マルチブルク南西の人工海にはここに住むほとんどの者が酒に酔い潰れて寝ていた。

そんな中いち早く目を覚ましたスティクォン。

「はぁ・・・どうしたものかな・・・」

『スティクォンの思う通りに国を作るがよい』

声がしたほうを振り返るとそこにはシディアがスティクォンのことを見ていた。

「シディア、起きていたのか」

『この程度の酒の量では我が酔い潰れるなどありえんからな』

シディアの周りには樽が10以上転がっていた。

「相変わらず酒に強いな」

『まだまだ飲み足りぬがな』

そういうと自然と笑い合う。

しばらくするとスティクォンが暗い顔になった。

『不安か?』

「正直僕が王なんて務まるのかなって思って・・・」

スティクォンは王として祭り上げられたことについて不安を口にする。

『難しく考えることはない。 今まで通りの生活をしていれば何も問題はない』

「けど・・・」

尚も不安を抱えるスティクォンにシディアが語りだす。

『スティクォン、国とはどのように作られるか知っているか?』

「いや、知らない」

『国とは人が集まってできるものだ。 人が住んでいない場所など国とはよべない』

「・・・」

『スティクォン、メルーア、ウィルアム、お前たち3人がこの地を作った。 いわばお前たちがこの国(マルチブルク)の歴史そのものといっても過言ではない』

「ははは・・・歴史とは大袈裟だよ。 僕たちは国を作ろうとした訳ではない。 ただ、生きていくために安住の地を求めていただけなんだけどね」

『そのおかげで我はスティクォンたちと出会えたのだからな』

「そうだな・・・シディアに会ってリルたちをスカウトして徐々に発展していったんだよな」

スティクォンは今までのことを振り返る。

1年にも満たしていないが色々な出来事があった。

農作業のためにリルたちを、味の改革のためにハーニたちを、衣服を作るためにアーネルたちを、塩を手に入れるためにティエスたちを、酒を手に入れるためにクーイたちを、畜産業のためにバーズたちをスカウトしてきた。

「シディア、僕は良き王になれるだろうか?」

『知らん。 これからこの国をどうするかによって良王にも悪王にもなるだろう』

「手厳しいな」

苦笑いするスティクォンにシディアが優しく言葉をかけた。

『堂々としていればよい。 何かあれば愚痴くらいは聞いてやるぞ。 我にできることなら手伝ってやるし、道を踏み外したらなら無理やりにでも戻してやる』

「シディア」

『少し語りすぎたようだな』

周りを見るとメルーアたちが首を振りながら起き上がる。

「・・・ぅーん、良い朝ですわ。 ん? スティクォン、どうしましたの?」

寝起きなのに皆顔は生き生きとして光り輝いているように見えた。

(こんなんじゃダメだよな)

暗い気持ちになっていたスティクォンは自分の頬を叩くと息を吸い込んだ。

それから意を決すると声を上げた。

「みんな、聞いてくれ」

メルーアたちが何事かと一斉にスティクォンのほうへと注目した。

「昨日から僕が王でいいのかずっと考えていた」

「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」

皆スティクォンの独白を黙って聞いている。

「正直いうと僕が王に相応しいか未だにわからない。 けど、僕はマルチブルクをもっともっとよくしていきたい。 そう考えている」

「「「「「「「「「「・・・」」」」」」」」」」

スティクォンは俯き、たどたどしく言葉を紡いでいく。

「至らない点もたくさんあるだろうが、これからも僕を支えてほしい」

「もちろんですわ」

「お仕えいたします」

メルーアやウィルアムを皮切りに応援する声が方々から聞こえてきた。

(みんな・・・ありがとう)

迷いが吹っ切れたスティクォンは顔を上げて堂々と発言する。

「僕はマルチブルクの王になることをここに宣言する」

この瞬間人工海に大きな歓声が沸き上がった。

かくしてマルチブルクの最初にして最後の王、スティクォン王がここに誕生した瞬間であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

「君を愛することはない」と言いますが、そもそも政略結婚に愛なんて不要ですわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

婚約破棄? それならとっくの昔に言い渡されておりますわよ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ