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103.魔王と観光 〔メルーア視点〕

わたくしたちは魔王様を連れて南東の人工海へと向かっています。

「キーラさん、もうすぐ人工海に到着します」

「うむ、わかった。 それと我のことは呼び捨てで構わん。 我もスティクォンと呼び捨てにするのでな」

「わかりました。 キーラ」

スティクォンが魔王様を呼び捨てにした瞬間、わたくしの心臓が止まったような感じがしました。

(し、心臓に悪いですわ)

わたくしは内心穏やかではありません。

傍に控えている爺も額から汗が流れていて気が気でないのでしょう。

そうこうしているうちに人工海に到着すると魔王様が驚いた顔で海を眺めています。

砂浜には仕事休みの者たちが楽しんでいました。

「凄いな」

魔王様は波打ち際まで歩くと指先で海水に触れてその指を舐めました。

「ちゃんと塩辛い」

「本物の海を参考にして作りました」

「ここまで忠実に作るとはな」

「ここでは魚人族が魚や貝、海藻を養殖しています」

スティクォンが説明しているとティエスとソレーユが海上に姿を現しました。

「スティクォンさん、今日はどうしました?」

「少し休憩しに来たってところかな」

「そうなんですか。 それならゆっくりしていってください」

それだけいうとティエスとソレーユは海中へと戻っていきました。

「ほぅ、マーメイドにセイレーンか。 こんな場所(死の砂漠)で見られるとはな」

ありえない環境にいるティエス(マーメイド)ソレーユ(セイレーン)を見て魔王様はくつくつと笑っております。

「キーラの言う通り彼女たちはマーメイドとセイレーンです」

「本来海にいる種族を見られるとは面白いものよ。 いつまでもこの海を見ていたいがほかの場所も見たい。 スティクォン、次に案内してくれ」

「わかりました」

満足した魔王様を引き連れて次は南西の畑へと向かいます。

「海が凄かっただけに次も期待してしまいそうだ」

「次の畑は普通に野菜や果物を育てているだけですから」

「だからこそどうなっているのか楽しみなのだ」

「そうですか・・・と、見えてきました」

畑に到着すると魔王様は目を輝かせていました。

「想像以上だ」

すると魔王様はホビットたちに指示を出しているリルのところに行き声をかけます。

「そこの娘よ、この葡萄(ぶどう)の実を1つ貰ってもいいかな?」

「はい。 どうぞ」

リルは葡萄の実を1粒取ると魔王様に渡します。

「感謝する」

それから魔王様は頂いた葡萄の実を食べると目を見開いて驚嘆しました。

「うむ、美味い。 今まで食べてきた葡萄の中で一番美味いぞ」

「それは良かったです。 みんなと頑張って作りましたから」

「こんなに美味いのを馳走してくれて感謝するぞ」

魔王様はリルに礼を言うとわたくしたちのところに戻ってきました。

「素晴らしい葡萄であった。 ほかの野菜や果物もこれと同じように美味いのか?」

「ええ、元は食べられるだけマシだったんですけど、品種改良したことで味が向上しました」

「ここに住んでいる者たちがとても羨ましいぞ」

言葉とは裏腹に魔王様の顔は穏やかで嬉しそうに見えます。

「では、次へ行きましょう」

「次はどこに連れてってくれるのかな?」

「それは着いてからのお楽しみということで」

「期待するとしよう」

わたくしたちは北西の住宅地へと移動します。

色々ある加工場の中からスティクォンが案内したのはワインの加工場でした。

「ここはワインを造る加工場です」

「おお、こんなところでワインを造っているのか」

「ちょっと待ってください」

スティクォンはその場を離れてしばらくして1つのグラスを持って戻ってきました。

「こちらは造りたてのワインです」

「ほぅ、どれ」

グラスを受け取った魔王様はまずグラスを太陽の光にあてて色を確認します。

次にスワリングして(グラスを回して)香りを楽しんだあと、一口含むと舌で転がしながらワインを堪能します。

「うむ、美味い。 先ほどの葡萄をワインにするとこんな味になるのか。 熟成させればもっと味が深くなるだろうな」

「一番熟成させているのでもまだ半年にも満たないものですから」

「はっはっは、気にしなくてもよい。 今のままでも十分味わえる」

魔王様は満足したのか鷹揚に頷きます。

「そういってもらえると助かります。 ワイン以外にもパンや乳製品の加工場がありますけど見に行きますか?」

「それもよいが北東にある人工山が気になるからそちらを案内してくれ」

「わかりました」

魔王様の一存でわたくしたちは北東の人工山へと向かいます。

歩いていると魔王様が山頂を指さしながら質問してきました。

「あの山の空にある雲だが雪らしきものを降らせているように見えるが?」

「ええ、キーラの言う通りシディアの要望で本物の雪を降らせてます」

「ぷっ! あっはっはっはっはっはっ! シディアめ、面白いことを思いつくではないか」

余程おかしかったのでしょう、腹を抱えて笑っています。

「どうします? 山頂の雪を見に行きますか?」

「どちらかといえば遠くから眺めたい」

「それなら温泉に浸かりながら見るというのはどうでしょうか?」

「妙案だな。 では、温泉に案内してもらおう」

スティクォンの提案で急遽行き先が温泉へと変更されました。

歩いていくと程なくして目的地である温泉に到着します。

「着きました」

「男湯と女湯に分かれているのだな。 では、スティクォン、参ろうか」

そういうなり魔王様はスティクォンの肩に手を回すと男湯の暖簾をくぐっていきました。

「スティクォン・・・」

魔王様と二人きりとなったことにより何が起きるかわからず、気が気でなりません。

「メルーアお嬢様」

爺も察したのでしょう、わたくしに一礼するとスティクォンたちを追うように男湯の暖簾をくぐっていきました。

「爺、頼みましたよ」

わたくしはというといつもなら温泉に入るのですが、今はスティクォンが心配でそんな気分になれません。


それから40分が経過してスティクォンたちが戻ってきました。

(良かった・・・無事に戻ってきて)

内心ホッとしていると魔王様が温泉について感想を述べました。

「良い湯であった。 温泉も素晴らしかったがここから見る山の雪景色も格別だったぞ」

「満足そうで何よりです」

「十分楽しんだしシディアのところに戻るとしよう」

上機嫌な魔王様はわたくしたちを連れてシディアがいる巨木へと戻ることにしました。


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