101.魔王来訪 〔メルーア視点〕
死の砂漠の中心部に来て数ヵ月が経ちました。
これまで色々な種族の助力により、一歩また一歩と発展したことで今では衣食住に困らない生活を送っています。
「今日も良い天気ですわ」
「左様ですな」
爺が用意してくれた朝食を頂いたわたくしは食後のお茶を楽しんでいます。
「メルーアお嬢様、本日のご予定は?」
「いつも通り南西の畑に行ってリルたちの手伝いですわ」
「畏まりました」
それからわたくしは部屋に戻り準備を終えると爺を引き連れて南西の畑へと向かいます。
「今日は何を手伝おうかしら・・・!!」
魔力を感じたわたくしは歩みを止めてすぐに北東の方角を見ます。
(何?! この凄まじい魔力は! こちらに近づいてきますわ!!)
嫌な汗が頬を流れていくのがわかります。
「メルーアお嬢様」
爺も気づいたのでしょう。
わたくしと同じく北東を見ています。
「爺!!」
「お供致します」
わたくしが中心である巨木へと走り出すと爺も何も言わずについてきます。
到着までの間にわたくしは魔力の持ち主について考えます。
(これ程の魔力を持っているなんていったい何者・・・!!)
そこまで考えて1人だけ該当する人物を思い出しました。
「ま、まさか!」
そうこうしているうちに巨木へ到着すると同時に強大な魔力の持ち主も到着したようです。
「ほう・・・こんなところにこんな場所があるとはな」
上空から声が聞こえてきたので視線を上に向けるとそこには漆黒の服を身に纏った1人の男性が浮かんでいます。
男性は地上を見渡すと狙いを定めたのかゆっくりと地上に降りてきて、わたくしたちの目の前に着地しました。
「あああああぁ・・・」
その顔を見たわたくしはすぐにその場に膝をつき首を垂れました。
うしろに控えている爺もわたくしと同じように膝をついていることでしょう。
(な、なぜ、あのお方がここに・・・)
疑問は尽きませんが今はこの事態に対応せねばなりません。
「ま、魔王様、御自らこのようなところに遠路はるばるご足労頂き恐悦至極に存じます」
「ほぅ、我のことを知っているようだな。 女、名は何という?」
「はっ! メルーアと申します」
「メルーアだと?」
わたくしの名を聞いた途端一瞬ではありますが魔王様の威圧感が膨れ上がりました。
(わ、わたくしの名に何か問題があるのかしら?)
焦るわたくしに魔王様が質問してきました。
「メルーアといったな? 聞きたいことがある。 お前はウィンアーク伯爵の娘に相違ないか?」
「し、失礼ながらわたくしはウィンアークの家名を捨てました。 今はただのメルーアでございます」
「捨てただと? ふっ、はっはっはっはっは・・・」
何が面白いのかわかりませんが魔王様は高らかに笑いました。
「ふぅっ、お前の身の上話だというのに笑ってしまった。 すまないな」
「い、いえ、お気になさらず」
「それでなぜお前はこの地にいる?」
わたくしは正直に話すかどうか迷いました。
「なんと申せばよいのでしょう・・・成り行きでしょうか」
「ふむ、成り行きか」
魔王様はそれ以上は踏み込んではきませんでした。
「この地はお前が1人で作ったのか?」
「いえ、ここに住む者たちと共に作り上げたものでございます」
「そうか・・・」
心なしか魔王様の言葉には愉悦を含んでいるように感じました。
「それにしてもあいつも面白いことを考える。 人が住めぬ地を開拓するとはな。 故に・・・腹立たしいものだ」
先ほどまでの楽し気な雰囲気から一変怒気へと変わりました。
あまりの圧にわたくしは委縮するばかりです。
わたくしたちが許可なくこの地を勝手に開拓したことに対して魔王様はご立腹されたのでしょう。
魔王様がその気になればスティクォンのスキルを解除することは可能なはずです。
そうなればわたくしたちは死の砂漠の気候に耐え切れず全員死に絶え、この地は一瞬にして消滅するでしょう。
(やだ・・・せっかくスティクォンと一緒に築き上げてきたこの場所がなくなるなんて・・・)
それに魔王様は気になる言葉を発していました。
(あいつというのがもしスティクォンのことを指していたら・・・スティクォンが殺される! やだ・・・それだけは絶対に嫌ですわ!!)
わたくしは頭を深々と下げて魔王様に訴えました。
「魔王様! わたくしはどうなってもかまいません! どうか、どうかこの地を、ここに住む者たちに御慈悲をお与えください!!」
しばしの間沈黙が支配します。
「何か勘違いをしていないか? 我は別にお前たちに手を出すつもりはないぞ」
「え?」
予想外の言葉に思わず顔を上げてしまいました。
「どうやら誤解を招いてしまったようだな。 少しばかり我の話をきいてもらいたい」
わたくしは何も言わずに頷きます。
「メルーア、お前は我の4095番目の嫁になり、この地の緑化計画をしてもらうはずだった」
「よ、嫁っ?!」
あまりのことにわたくしは素っ頓狂な声を出してしまいました。
「ん? 聞いていないのか?」
「は、初耳ですわ」
「ふむ・・・なるほど、ウィンアーク伯爵は時が来るまではこの事を伏せていたのだな。 だが、なぜお前が家を出ることになったのかは謎ではあるがな」
そこまで聞いてわたくしは過去の襲撃事件に納得しました。
(なるほど、お姉様たちのどちらかがわたくしと魔王様との婚姻に関する情報を手に入れて、そうはさせまいとわたくしを消そうとしたのですわ)
1人納得するわたくしをよそに魔王様は話を続けます。
「お前が行方不明と聞いたときは頭を悩ませたものだ。 だが・・・」
魔王様は周りを見て笑みをこぼします。
「お前がウィンアークを捨てたのは正解だ。 お前は我が予想していた以上の成果を見せてくれたのだからな。 もし、我の嫁として計画を進めていたらこうはならなかっただろう。 それに・・・」
魔王様は愉快そうに続けます。
「お前たちに手を出そうものならあいつが黙っていないだろう」
「あいつ?」
「ふっ、噂をすれば来たか」
突然わたくしたちがいる地面を影が覆い尽くします。
上空を見るとそこには翼を羽搏かせて地上を見下ろすシディアがいました。




