100.リルたちの休日 〔リル視点〕
「ぅんん・・・」
私は右手で目を擦りながら上半身を起こすと薄目を開けて窓のほうを見ます。
太陽が昇り始めたのか東のほうがほんの少しだけ明るいです。
「朝か・・・」
周りを見ると私の両隣ではファリーちゃんとクレアちゃんがすやすやと寝息を立てています。
「2人ともまだ寝てるし起こしたら悪いよね」
私は枕元にある3つのぬいぐるみの1つを引き寄せます。
「おはよう、ピヨちゃん。 今日も良い天気だね」
ピヨちゃんと呼んだぬいぐるみは全長30センチでまんまる体型、愛くるしい目、ちょこんと尖った嘴、申し訳程度についてる羽、全体の色は黄色で統一されており、一言でいえば雛さんです。
北東の牧場を見に行った時に初めて雛さんを見て、あまりの可愛いさにシャンティさんに頼んで作ってもらいました。
デフォルメされた雛さんはとても可愛いくて気に入ってます。
「今日も可愛いね♪」
私はピヨちゃんをぎゅっと抱きしめます。
ふわふわした起毛に触れるととても気持ち良い手触りで、抱きしめれば力に応じて程よい弾力を返してきます。
ピヨちゃんと触れ合っているとファリーちゃんとクレアちゃんの声が聞こえてきました。
「ふぁぁぁ・・・」
「ぉはよぅ・・・」
「ファリーちゃん、クレアちゃん、おはよう」
目を覚ましてしばらくすると2人とも枕元にあるぬいぐるみを引き寄せます。
「ヒーちゃん、おはよう」
「メーちゃん、おはよう」
ファリーちゃんが抱きしめているのがヒーちゃんというお馬さんで、クレアちゃんが抱きしめているのがメーちゃんという羊さんです。
満足した私たちはピヨちゃんたちを枕元に戻すとベッドから起き上がって普段着に着替えます。
寝室を出るとキッチンに向かい朝食を作り、できあがったのを持ってリビングへと移動して席に着きました。
「「「いただきます」」」
食事を堪能しながら今日の予定を聞いてみました。
「ところでファリーちゃん、クレアちゃん、今日の予定は?」
「今日は1日空いてるよ」
「奇遇だね。 私も同じだよ」
普段の仕事はみんな違うことをしています。
私はホビット族のみんなと一緒に農業やパン作りを、ファリーちゃんとクレアちゃんはドワーフのみんなと一緒に建設やワイン造りをしています。
しかし、働き詰めは良くないとスティクォンさんから適度に休むように言われました。
それからみんなと話し合って何日かに1日は休めるように調整したのです。
「じゃあ、みんなで北東の牧場に行かない?」
「いいね」
「行こう」
「それじゃ食べ終わったら出かけよう」
「「おー」」
私たちは手短に食事を済ませると食器を片付けてから家を出ました。
行先はこの地の北東にある牧場です。
「動物さんに会えるの楽しみだな」
「私も鳥さんに会えるの楽しみ」
雑談をしながら歩いていると程なくして牧場に到着しました。
そこにはのどかな景色が広がっています。
「それじゃ最初にどこから行くか一斉に言わない?」
「うん」
「わかった」
「「「せーの・・・」」」
私たちはそれぞれ好きな動物さんや鳥さんの名前を言います。
「雛さん」
「お馬さん」
「羊さん」
「「「ぷ・・・あははははは・・・」」」
こうなるのではとある程度予測はしていましたが、予想通りで私たちは笑ってしまいます。
ただ、このままいくと意地の張り合いで最後には喧嘩になってしまうかもしれないので、その前に私は早々におりることにしました。
「私はあとでいいから」
「私も最初じゃなくてもいいかな」
話し合いの結果、最初に羊さんがいる場所へとやってきました。
そこでは見た目はちょっと怖い狼の獣人のお兄さんであるバーズさんが羊たちのお世話をしています。
「ん? よう、クレアちゃん、それにリルちゃんにファリーちゃんも」
「羊さんを見に来ました」
するとクレアちゃんの言葉に反応したのか、羊さんたちが押し寄せてきて私たちを揉みくちゃにします。
「うわあぁ♪」
「柔らかい♪」
「もふもふ♪」
「クレアちゃんが来ると羊たちはいつもこうだもんな」
バーズさんが頭を掻きながら苦笑いしています。
それからしばらくの間私たちは羊さんたちのもこもこした毛を堪能しました。
「みんな、ごめんね。 もっと遊びたいけどほかにも行きたいところがあるから」
クレアちゃんの言葉に羊さんたちは悲しそうに鳴くも素直に道を開けてくれました。
その場から離れるとクレアちゃんが手を振ります。
「また遊びに来るから」
羊さんたちは一鳴きして私たちを見送ってくれました。
「クレアちゃん、すごいな。 どうだい、ここで羊飼いとして働かないか?」
「ぅぅぅ、どうしよう・・・すごく魅力的なお誘いなんだけど」
本当に悩むクレアちゃん。
「うーん・・・ごめんなさい!!」
悩んだ末にクレアちゃんはバーズさんに頭を下げました。
「そんな畏まって謝らなくてもいいって。 時間が空いているときにでもまた顔出してやってくれ」
「はい!」
「それより次はどこ行くんだ?」
「お馬さんのところへ行こうと思います」
「そうか、俺はほかに仕事があるから気をつけろよ」
バーズさんとはここでお別れです。
次にファリーちゃんの希望でお馬さんがいるところにやってきました。
ですが、私たちとの距離がありすぎます。
「2人とも見てて」
ファリーちゃんは口笛を吹くとお馬さんたちがすごい勢いでやってきます。
目の前までやってくると私たちの目の前で完全に止まりました。
「ファリーちゃん! すごい!!」
「それほどでもないよ」
それから私たちはしばらくの間お馬さんの毛並みを手でなでなでしました。
「お馬さんも可愛いね♪」
「ねぇ♪」
「さて、堪能したし、最後に雛さん見に行こう」
「ファリーちゃん、もういいの?」
「うん! ほら、行こう!」
ファリーちゃんに背中を押されながら私たちは雛さんがいる養鶏場へと向かいました。
到着すると鶏さんがいる場所を素通りして、奥にある部屋に入るとそこには産まれたばかりの雛さんたちが大量にいてピヨピヨと鳴いています。
「か、可愛い♪」
そこからの記憶は曖昧で気が付けばかなりの時間雛さんを手に取って目出ていたそうです。
「楽しかった♪」
「またみんなで来ようね」
「「うん♪」」
私たちは最後に乳加工場へ行ってアイスクリームを食べて休日を満喫しました。




