1.スキル授与
上空に大きく表示された文字、それは・・・『【現状維持】』だ。
この世界では生まれた子に神がスキルを与える。
しかし、12歳になるまでは自分にはどんなスキルが備わっているかわからない。
それは『親が子を捨てることなかれ』という神の警告であり、同時に慈悲でもある。
しかし、時にそれは残酷な結果を齎す。
蓋を開けるまでその子が金の卵か普通の卵かがわからないのだから・・・
フーリシュ王国 王都フーズベルグ 聖教会───
その日、今日までに12歳を迎えた王国中にいる多くの貴族の子息子女が集められた。
それに伴い、親たちである貴族も息子や娘のスキル授与式が心配で一緒に同伴している。
そんな中、堂々と立ち振る舞う者たちがいた。
それはアバラス公爵家だ。
今年12歳を迎えた公爵家の次男スティクォンもその1人である。
「スティクォン、お前もついに今日この日を迎える。 兄や姉のような立派なスキルが神より与えられたことを願っているぞ」
「はい、父上。 必ずやご期待に応えます」
公爵である実父イコーテムの期待に応えたい。
実兄ロニーの【賢聖】や実姉リクルの【剣聖】のような立派なスキルが自分にも備わっていてほしい。
スティクォンはそれを胸に秘め、今か今かと待ち望む。
聖教会の奥から年老いた教皇がやってきて壇上に立つ。
「これよりスキル授与の儀を行います。 名前を呼ばれたら壇上まで上がってください」
若き神官が宣言した。
基本的には階級の低い騎士爵の子息子女から始まり、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、侯爵、そして最後に公爵の子息子女と執り行われる。
なぜこのような順番かといえば大昔の上級貴族の見栄だ。
下級貴族や平民よりも上級貴族が優れているというのを世間に知らしめる。
そうすることで自分たちが優秀でより上位の存在であることを下々に理解させるのだ。
教皇の目の前には大きな水晶玉がある。
それは神晶と呼ばれる水晶玉で遥か昔から存在しており、その起源は誰も知らない未知の神具だ。
神晶に触れた者は生まれたときに神が与えたスキルを知ることができる。
これは12歳を迎えた子供であれば誰もが知ることができ、それは王族だろうが貴族だろうが商人であろうが平民であろうが貧民であろうが善人であろうが悪人であろうが誰もが平等なのだ。
かつて王族や貴族が自分たち以外には神晶は不要と声を大きくした者たちがいたが、そのあまりの傲慢ぶりに神が怒り天よりの雷を落としたとされている。
以降神の怒りを買わないように誰もが平等にスキルを知ることができるようになった。
因みに最近では15年前に異を唱えたバカ貴族が、大勢の目の前で落雷に撃たれ死亡したことが記録に新しい。
「騎士爵家 ドーマン、壇上へ」
若き神官が名を口にすると、呼ばれた騎士爵の男の子が壇上に上がる。
「ドーマンよ、神晶に手で触れなさい」
教皇の言うように男の子が神晶に触れると淡い光のあとに上空には大きな文字が光って表示される。
『【剣客】』
上空を見た教皇がそれを読み上げる。
「ドーマン、君のスキルは【剣客】だ」
「やったぁ!」
壇上の男の子は大喜びだ。
「スキルの説明は・・・問題なさそうじゃのぅ」
教皇はそれ以上は口にしなかった。
「ありがとうございます!!」
男の子は壇上から降りて親の元へと戻っていく。
それを見守っていた父親である貴族が大いに褒めていた。
男の子が神から授かったのは普通のスキルではあるが、これがあるかないかでは天と地ほどの差がある。
過去にスキルを持たない玄人剣士がスキルを持つ素人剣士と戦ったデータがあるのだが、ほぼ互角の戦いを繰り広げたらしい。
なのでスキルのあるなしは大いに関わってくる。
壇上では呼ばれた子息子女が神晶により次々と自分のスキルが公表されていく。
その反応は様々でスキルの内容を知った者たちはその場で一喜一憂している。
いや、子供たちだけでなくその親も同じような反応をしていた。
有能なスキルを手に入れた場合はほかの貴族からもどよめきが起きる。
騎士爵の子息子女から始まったスキル授与も、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、侯爵まで恙なく終わると、最後に公爵の子息子女だ。
今年の公爵はスティクォン1人だけである。
「公爵家 スティクォン、壇上へ」
若き神官がスティクォンの名を口にする
ついにスティクォンの番が回ってきた。
「スティクォン、行ってこい」
「はい、父上」
スティクォンは公爵家として恥じないように堂々とした足取りで壇上まで歩いていく。
神晶の目の前までくると教皇が話しかけてくる。
「スティクォンよ、神晶に手で触れなさい」
教皇が言ったあとにスティクォンは神晶に触れた。
淡い光のあとに上空に光の文字が浮かんだ文字は・・・
『【現状維持】』
(【現状維持】?)
スティクォンは上空に浮かび上がった文字を何度も見直す。
いくら目を瞬きしても上空の【現状維持】の文字は変わらなかった。
上空を見た教皇がなんともいえないような顔になる。
「スティクォン、君のスキルはその・・・」
「教皇様、僕のスキルはいったい何なのですか?」
今までの子息子女たちと違い、教皇は歯切れが悪い。
「スティクォン、落ち着いて聞きなさい。 君のスキルは【現状維持】だ」
「現状・・・維持?」
スティクォンは前代未聞のスキルに思わず聞き返してしまった。