表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/143

1.スキル授与

上空に大きく表示された文字、それは・・・『【現状維持】』だ。






この世界では生まれた子に神がスキルを与える。

しかし、12歳になるまでは自分にはどんなスキルが備わっているかわからない。

それは『親が子を捨てることなかれ』という神の警告であり、同時に慈悲でもある。

しかし、時にそれは残酷な結果を齎す。

蓋を開ける(12歳になる)までその子が金の卵か普通の卵かがわからないのだから・・・


フーリシュ王国 王都フーズベルグ 聖教会───

その日、今日までに12歳を迎えた王国中にいる多くの貴族の子息子女が集められた。

それに伴い、親たちである貴族も息子や娘のスキル授与式が心配で一緒に同伴している。

そんな中、堂々と立ち振る舞う者たちがいた。

それはアバラス公爵家だ。

今年12歳を迎えた公爵家の次男スティクォンもその1人である。

「スティクォン、お前もついに今日この日を迎える。 兄や姉のような立派なスキルが神より与えられたことを願っているぞ」

「はい、父上。 必ずやご期待に応えます」

公爵である実父イコーテムの期待に応えたい。

実兄ロニーの【賢聖】や実姉リクルの【剣聖】のような立派なスキルが自分にも備わっていてほしい。

スティクォンはそれを胸に秘め、今か今かと待ち望む。


聖教会の奥から年老いた教皇がやってきて壇上に立つ。

「これよりスキル授与の儀を行います。 名前を呼ばれたら壇上まで上がってください」

若き神官が宣言した。

基本的には階級の低い騎士爵の子息子女から始まり、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、侯爵、そして最後に公爵の子息子女と執り行われる。

なぜこのような順番かといえば大昔の上級貴族の見栄だ。

下級貴族や平民よりも上級貴族が優れているというのを世間に知らしめる。

そうすることで自分たちが優秀でより上位の存在であることを下々に理解させるのだ。


教皇の目の前には大きな水晶玉がある。

それは神晶と呼ばれる水晶玉で遥か昔から存在しており、その起源は誰も知らない未知の神具だ。

神晶に触れた者は生まれたときに神が与えたスキルを知ることができる。

これは12歳を迎えた子供であれば誰もが知ることができ、それは王族だろうが貴族だろうが商人であろうが平民であろうが貧民であろうが善人であろうが悪人であろうが誰もが平等なのだ。

かつて王族や貴族が自分たち以外には神晶は不要と声を大きくした者たちがいたが、そのあまりの傲慢ぶりに神が怒り天よりの雷を落としたとされている。

以降神の怒りを買わないように誰もが平等にスキルを知ることができるようになった。

因みに最近では15年前に異を唱えたバカ貴族が、大勢の目の前で落雷に撃たれ死亡したことが記録に新しい。


「騎士爵家 ドーマン、壇上へ」

若き神官が名を口にすると、呼ばれた騎士爵の男の子が壇上に上がる。

「ドーマンよ、神晶に手で触れなさい」

教皇の言うように男の子が神晶に触れると淡い光のあとに上空には大きな文字が光って表示される。


『【剣客】』


上空を見た教皇がそれを読み上げる。

「ドーマン、君のスキルは【剣客】だ」

「やったぁ!」

壇上の男の子は大喜びだ。

「スキルの説明は・・・問題なさそうじゃのぅ」

教皇はそれ以上は口にしなかった。

「ありがとうございます!!」

男の子は壇上から降りて親の元へと戻っていく。

それを見守っていた父親である貴族が大いに褒めていた。

男の子が神から授かったのは普通のスキルではあるが、これ(スキル)があるかないかでは天と地ほどの差(実力差)がある。

過去にスキルを持たない玄人剣士がスキルを持つ素人剣士と戦ったデータがあるのだが、ほぼ互角の戦いを繰り広げたらしい。

なのでスキルのあるなしは大いに関わってくる。

壇上では呼ばれた子息子女が神晶により次々と自分のスキルが公表されていく。

その反応は様々でスキルの内容を知った者たちはその場で一喜一憂している。

いや、子供たちだけでなくその親も同じような反応をしていた。

有能なスキルを手に入れた場合はほかの貴族からもどよめきが起きる。

騎士爵の子息子女から始まったスキル授与も、男爵、子爵、伯爵、辺境伯、侯爵まで恙なく終わると、最後に公爵の子息子女だ。

今年の公爵はスティクォン1人だけである。

「公爵家 スティクォン、壇上へ」

若き神官がスティクォンの名を口にする

ついにスティクォンの番が回ってきた。

「スティクォン、行ってこい」

「はい、父上」

スティクォンは公爵家として恥じないように堂々とした足取りで壇上まで歩いていく。

神晶の目の前までくると教皇が話しかけてくる。

「スティクォンよ、神晶に手で触れなさい」

教皇が言ったあとにスティクォンは神晶に触れた。

淡い光のあとに上空に光の文字が浮かんだ文字は・・・


『【現状維持】』


(【現状維持】?)

スティクォンは上空に浮かび上がった文字を何度も見直す。

いくら目を瞬きしても上空の【現状維持】の文字は変わらなかった。

上空を見た教皇がなんともいえないような顔になる。

「スティクォン、君のスキルはその・・・」

「教皇様、僕のスキルはいったい何なのですか?」

今までの子息子女たちと違い、教皇は歯切れが悪い。

「スティクォン、落ち着いて聞きなさい。 君のスキルは【現状維持】だ」

「現状・・・維持?」

スティクォンは前代未聞のスキルに思わず聞き返してしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幻世の作品一覧

【完結済】

スキル【ずらす】で無双する
全 394 エピソード  1 ~ 100 エピソード  101 ~ 200 エピソード  201 ~ 300 エピソード  301 ~ 394 エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【連載中】

追放された公爵子息の悠々自適な生活 ~スキル【現状維持】でまったりスローライフを送ります~
1 ~ 100 エピソード  101 ~ エピソード
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕


【短編】

怪獣が異世界転生!! ~敗北者をナメるなよ!! 勇者も魔王もドラゴンもみんな潰して異世界崩壊!!!~
ジャンル:パニック〔SF〕 ※異世界転生

「お前をパーティーから追放する」と言われたので了承したら、リーダーから人脈が芋蔓式に離れていくのだが・・・
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

潔癖症の私が死んで異世界転生したら ~無理です! こんな不衛生な場所で生きていくなんて私にはできません!!~
ジャンル:ヒューマンドラマ〔文芸〕 ※異世界転生

王太子殿下から婚約破棄された上に悪役令嬢扱いされた公爵令嬢はクーデターを起こすことにしました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

敗北した女勇者は魔王に翻弄される ~くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだ!!~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

目の前で王太子殿下が侯爵令嬢に婚約破棄を言い渡すイベントが発生しました ~婚約破棄の原因は聖女であるわたし?!~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

パーティーから追放された俺に待ち受けていたのは勧誘の嵐だった ~戻ってこいといわれてもギルドの規定で無理だ、あきらめろ~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

君が18歳になったら
ジャンル:現実世界〔恋愛〕

追放した者たちは依存症だった件
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

高給取りと言われた受付嬢たちは新任のギルドマスターによって解雇されました ~新しく導入した魔道具が不具合を起こして対応できなくなったので戻ってこいと言われましたがお断りします~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

ダンジョン奥深くで追放された荷物持ちは隠し持っていた脱出アイテムを使って外に出ます ~追放した者たちは外に出ようとするも、未だにダンジョン内を彷徨い続けていた~
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕

王立学園の卒業パーティーで王太子殿下から改めて婚約宣言される悪役令嬢 ~王太子殿下から婚約破棄されたい公爵令嬢VS王太子殿下と結婚したくない男爵令嬢~
ジャンル:異世界〔恋愛〕 ※異世界転生

婚約破棄された公爵令嬢は遠国の皇太子から求婚されたので受けることにしました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

異世界にきて魔女としてエンジョイしたいのに王子殿下を助けたことで聖女に祭り上げられました
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転生

隣国の夜会で第一皇女は初対面の王太子殿下から婚約者と間違えられて婚約破棄を言い渡されました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

追放された聖女は遠国でその国の聖女と間違えられてお帰りなさいと温かく歓迎された
ジャンル:異世界〔恋愛〕

聖女として召喚されたのは殺し屋でした
ジャンル:ハイファンタジー〔ファンタジー〕 ※異世界転移

異世界から召喚された聖女?
ジャンル:異世界〔恋愛〕

この家にわたくしの居場所はないわ
ジャンル:異世界〔恋愛〕

闇の聖女は砂漠の国に売られました
ジャンル:異世界〔恋愛〕

― 新着の感想 ―
いい導入で先に期待。 「スキル授与の儀」とあるけど文脈上スキルは生まれつき持ってるように読めます。 物語の根幹にかかわる設定だと思いますが、日本語上、 ・ スキル授与の儀:12歳まではスキルなし、儀…
[良い点] ブクマさせていただきました! 現状維持が何を意味するのかが気になりました [一言] 応援しています!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ