雑草はなぜ、どこにでも無数に生えてくるのか。
煩わしいほどに生えてくる草、雑草。
コンクリートのちょっとしたヒビの間や、砂が多少積もっているだけの場所にも生えてくる。
なぜこれほどまでに逞しくしぶとく生えてくるのか、その実態を解説していきます。
我々が普段から目にする雑草は、アスファルトや道端が多いのではないでしょうか。これらは、自然界には存在しません。自然界に無い場所に適応して生えているのが、雑草なのです。
ちなみに、「雑草」という草はありません。ほぼ全ての草には名前がつけられており、雰囲気で勝手に「雑草」とまとめて呼んでいるだけなのです。
そして雑草の定義は曖昧です。
日本では、栽培目的の植物ではない草としており、雑多な草、といった程度。
しかしアメリカでは、人類の活動と幸福・繁栄に対して、逆らったり妨害する植物。つまり、敵とすら思える邪魔な草、としている。
とはいえ雑草と呼ばれる植物には、ある1つの生物学的特徴が存在する。
雑草に共通する特徴。それは、「弱い」である。
いやいやいや、と思った方は多いと思います。雑草が弱いだなんておかしい。わずかな隙間でも生えたり抜いても抜いても生えてくるあの雑草が弱いだなどと。むしろむちゃくちゃ強いじゃないかと。
なのでここからは、「弱い」を証明するための話を1つずつしていきます。
植物に関するとある論文では、無数にある植物の生存戦略は、すごく大きく分ければ3種類しかないと書かれている。
そしてその理論の名前を「C-S-R三角形」と呼ぶ。
植物の生存戦略は、Cタイプ、Sタイプ、Rタイプの3タイプであるとしている。
実際に植物がどこに分類されているのかは、「環境の厳しさ」と「環境変化の激しさ」を基準にしている。
まず、環境が良くて変化も少ない場所、つまりは森林などの穏やかな場所で生き残るのはCタイプである。
主に生存能力が強い植物がこれに当たる。
環境的には1番良いが、それ故に競合相手が多い。日光を浴びるために上に延びやすい植物などが該当する。
次いで、環境が厳しいままで変化の少ない場所、つまりは砂漠や氷雪地などの劣悪な場所で生き残るのはSタイプである。
主にストレス耐性が高い植物がこれに当たる。植物にとってのストレスとは、乾燥や日照不足、低温状態などだ。
環境は劣悪だがそれ故に、生き延びられる植物にとっては楽園となる。他の植物とは争う必要もない。それどころか勝手にバタバタと倒れていく。
砂漠のサボテンがわかりやすい例だろう。
さて、ここで話をCタイプに戻そう。
Cタイプとは、植物にはとても良い環境である。けれどそれは植物に限った話ではなく、動物にとっても良い環境であるのだ。
そこに目をつけた動物がいる。
それは、人間だ。
元々森林だった場所は人間にとっても生きやすい。なので木を切り、草を刈り、アスファルトを敷くなどして急激に環境を変化させている。
これが、環境は良いが変化が激しい場所、つまりは都会などを指しているRタイプである。
そしてここに分類されるものが、雑草となる。
雑草の特徴はいくつかあるが、その内の1つに「短命」がある。
短命ということはつまり世代交代が早いということであり、世代交代が早いということはつまり進化が早いということである。
人間が日々変化させていく環境。けれど雑草は、早い進化でそれに対応するようにして生き延びている。
また、発芽にも戦略が組み込まれている。
種子は必ずしも一定のタイミングで一斉に発芽するわけではない。
風や動物の影響で種子が土の中に入り込んだ場合、休眠状態となる。それらが掘り起こされるなどして地表に出てくると、光を浴びて種子が目覚めて発芽が開始する。
人間が雑草を抜くと、その根や土に付いてきた種子が地表に出てきて目覚めるためにまた雑草が生えるというパターンが多い。
さらに、雑草は種子を広範囲にばらまく。
種子は広範囲に存在していてさらに休眠という特性を持っているため、どこかでは生き延びて全滅をしない工夫を凝らしている。
これは、Cタイプの植物にもSタイプの植物にも勝てないからこそ得た特徴だ。
弱いなりに現代まで生き延びてきた生存戦略だ。
そもそも元はと言えば、雑草が生えるのに適した土地を作り出してそこに住んでいるのは人間なのである。
それまでは巨木などが支配していた森を切り開いて競合相手を減らしたのは、他ならぬ我々人間なのである。
雑草は実は、強くも逞しくもない。
人間が雑草の生存を助けているからこそ、彼らは近場に生えているのです。