赴くままに
村を後にし、森を抜けて、草原を三人で歩いています。
途中、リオデの奢りで宿屋に泊まらせてもらいました。
すごく感謝しています。
さて、その翌日のこと─
「あの、リオデさん」
「なんだ?」
「その、ホロウスまであとどれくらいですか?」
「うーん、頑張れば今日中に着けるんじゃないか」
(あ、曖昧だなあ…)
そう思いつつも、素直についていくしかありません。
リーリエの方はと言うと、私と一緒に手を繋ぎながら黙りこくっています。
「そうだ、お前たちに見てもらいたいものがあるんだが、ちょっといいか?」
「?はい、大丈夫です」
リオデに誘わがれるままついて行くと、やがて道が坂道になってきました。
「ちょっとキツイからな。気をつけろよ」
「は、はい」
「ねえゆかちゃん」
「リーリエ?どうしたの」
「…疲れちゃった。おんぶして」
「もう、しょうがないな」
リーリエをおんぶすると、対してキツくなかった坂道が急にしんどくなってきました。
「ふう…ふう…」
「おい、大丈夫か?」
「大…丈夫です。私のことは気にしないでください」
気にかけてくれるリオデに感謝しながら答えました。
「あとちょっとだから、もう少し頑張れよ」
「ゆかちゃん頑張れ♪」
「はいい……」
登り始めてもうどれくらい経ったのか分からなくなってきた頃、
「よし、ついたぞ」
リオデが言いました。
「つき…ましたかあ?」
「ありがとう、ゆかちゃん」
「うん…」
疲れ切り、肩で息をしていた私はしばらくまともな返事が出来ませんでした。
疲れがだいぶ癒えてきた頃、
「ゆかちゃんすごいよ!見てみて!」
リーリエがやけに私の腕を引っ張ってきます。
リーリエが指さす方向を見て私も驚きの声を上げました。
「わあ…!」
目線の先に、これぞ街と言わんばかりの無数の家々、更にその中に目を引く巨大な建物が二つ見えました。
「あの、リオデさん、あれってもしかして…」
「俺たちが目指す街、ホロウスだ」
目指している場所がようやく、見えました。
「あの大きい建物、何でしょうか」
「左に見えるのはホロウスの大聖堂、右に見えるのはフィーデオス魔法学園だな」
リオデが説明をしてくれました。
「はええ、凄いですね」
「まあな。それより、目的地はすぐそこだ。行くぞ」
「はい。リーリエ、行くよ。…リーリエ?」
リーリエの方を見ると、彼女はなぜか街の方を呆然と眺めていました。
私には、魔法学園の方を眺めているように見えました。
「あ、ごめんゆかちゃん。いまいく…」
少し違和感を覚えながらも、その場を後にすることにしました。
「あの、リオデさん」
「どうした」
「その、今更聞くのもおかしいと思うんですけど」
「おう、なんだ」
「リオデさんがホロウスに行く目的ってなんですか?その、何となく聞いてみたくて」
「………」
(ちょっと失礼なこと聞いちゃったかも…?!どうしよう)
すると、
「俺のダチに会いにいくためさ。もう久しく会ってないダチにな」
「ダチ…ですか?」
「ああ。実は、俺はさっき言った魔法学園に通っててな。その時の同級生なんだ」
「つまり、その同級生にこれから会いに行くんですね?」
「まあ、そんなところだ」
安心感と共に、リオデがあの学園に通っていたという事実に驚きもありました。
「あいつには久しぶりに会うからな…。元気にしてればいいんだが」
彼の様子を見るに、そのダチに会うのをかなり楽しみにしているようでした。
「おっと、もう街についたようだ」
「ホロウスについちゃいましたね…リオデさんともここでお別れ…」
「お別れだと?ちょっと待て。ゆかり、まさかお前、ここで俺が"じゃあな"と言って二人を置き去りにしていくと思ってたのか」
「えっと、あっ、はい」
正直に答えました。
するとリオデが真剣な面持ちで言いました。
「まず、俺のダチに会わせてくれないか。お前たち二人のことは、それから考えよう」
リオデの後につきながら、街の住宅街にあたるであろう場所を歩いています。
この場所に、リオデのダチの家があるそうです。
夕暮れが近いのか、家々の隙間からオレンジ色の光が漏れ出ていました。
「確か、ここら辺だったはず…」
家を見て回りながら、ダチの家を探しているようでした。
やがて、
「あった。この家のはずだ」
一軒の家の前に立ち止まりました。
これといって特徴がない、まあ普通、と言う感じの家でした。
リオデがそのドアを手で軽くノックして言いました。
「来たぞ、ナツメ。ドアを開けてくれ」
次の瞬間、ドアがスっと開き、中から誰か出てきました。
するといきなり、
「ちょっとリオデ!あんた私と一緒に学園を卒業した後、早く地元に帰らなきゃいけないんだとかほざいて、勝手に帰ったくせに、今度はそっちからいきなり連絡してきて"俺の頼みを聞いて欲しい"って…。ちょっと都合良すぎるんじゃない?」
出てきて早々、リオデを説教するように喋り立てる声。
見ると、リオデを睨みつけながら腕組みをしている謎の女の人が、そこにいたのでした。