再び森へ
それから何日かの間、私達は変わらず草原を宛もなく彷徨っていました。
途中、リーリエになぜ家出をしてしまったのか等、気になっていたことを聞いてみたけれど、彼女はうつむいて黙りこくるばかり。
結局、理由は聞けずじまいになってしまいました。
そんな時、変哲もなく続いていた草原の向こうに、あるものが見えました。
「うん…?あれは…」
見えたものは、森でした。
「も、森?また森かあ…」
うっそうと生い茂る木々を前にへこたれそうになりつつも、こんな所で音を上げてちゃダメだと堪え、森の中へ入っていきました。
「リーリエ、大丈夫?」
「……うん」
私の背中にしがみついているリーリエがそう答えます。
実は森に入ってからすぐ、リーリエが疲れたと言ってその場に座り込んでしまったのです。
私がいくら"行こう"と催促しても、その場に突っ伏して動きません。
体を動かさない代わりに、しっぽをゆらゆらと動かしていました。
そのままその場に留まる訳にもいかないので、結局リーリエを背中におんぶして森を進むことにしました。
「…ゆかちゃんは?」
「大丈夫だよ。私は平気」
「……」
「……」
(な、何だか気まずいなあ……)
リーリエの様子を見て、内心ため息をつこうとしたその時。
「ん、あれは…」
私の視界の隅に、何やら鮮やかに彩られたものが入りました。
気になって近づいて見ると、そこには色とりどりのお花が咲き誇っていたのです。
まるで、森の中から突然、天然のお花畑があらわれたようでした。
「わあ、綺麗なお花…!」
思わず、その場に屈んでお花を眺め始めると、リーリエも気になりだしたのか、しきりに私の肩から顔を出し始めました。
「リーリエもお花、見てみる?」
「うん…!」
猫耳をぴょこぴょこさせながら、さっきまでの疲れが嘘のような軽い動きで、うれしそうに花畑を駆けて行きました。
やがて、小さな手に一輪のお花を持って戻ってきました。
「これ、私に…?」
彼女の手から差し出された花を見て言いました。
「うん。ゆかちゃんにプレゼント」
リーリエがくれたのは、澄んだ青紫色をしたそれはそれは綺麗なお花でした。
私はその花を宝物のように、大事にズボンのポケットにしまい込みました。
「ふふ、ありがとうリーリエ。…これ、私からもプレゼント」
私も、摘んでおいた一輪の花を手渡しました。
鮮やかな黄色をした、綺麗なお花です。
「……!ゆかちゃん、ありがとう!」
彼女はそう言って、貰った花を大事そうに胸に優しく押し当てました。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「あ、あの…」
立ち上がって、先を急ごうとしていた足がふと動きを止めました。
「リーリエ?」
「あの、さっき疲れたって言ってたの、ほんとは疲れてなくて、その、私嘘ついちゃって…ごめんなさい」
「………」
「なんだ、そんなことか」
また座り込んで、リーリエの頭を優しく撫でてあげました。
「私は別に怒ってないから安心して。でも、次は本当に疲れた時に言って欲しいな。そしたら、またおんぶしてあげるからさ」
リーリエがハッと私を見ました。
そして、
「ありがとう、ゆかちゃん」
一言、そう言いました。
「さあ、そろそろ行かなきゃ」
「あ、ゆかちゃん、おんぶして、おんぶ!」
「ありゃ…ついさっきおんぶは本当に疲れた時だけにしてって言ったんだけどな…」
仕方なく、リーリエをまた背中におんぶしてやりました。
「えへへ、行くよゆかちゃん」
「はいはい」
私たちは再び、森の中を歩き始めました。