転移失敗?
「んん…。あれ、ここは…?」
野草の芳しい匂いで目が覚めました。
(転移は終わったのかな…?)
試しに周囲を見渡してみると、一面に丈の低い草原が広がっています。
嫌な予感がしました。
目の前に見えるのは、草原に加えてちまちまと樹木が生えているだけの場所。
家どころか人里さえも、そこにはありません。
(一体、どうなって…。そうだ、リーリエならきっと何か…)
私は思い出したようにリーリエの姿を探しました。
彼女は、少し遠くにある樹木のふもとで立ち尽くしていました。
「あ、リーリエ。ここはどこなのか教えて…」
「そんな…どうして…?」
(…え?)
リーリエの一言に、私は歩み寄ろうとしていた足を思わず止めてしまいました。
ようやく私の存在に気付き、こちらを振り向いたリーリエの目元にはうっすらと涙が溜まっています。
「どうしてって、どういう事…?」
「あああ…ご、ごめんなさい…」
私が聞くと、猫耳をびくつかせ、その場に膝をつきながら、彼女はそう謝りました。
「私の家のすぐ近くに転移するようにしてたはずなのに、全く知らない場所にいて…」
「──」
「私が未熟なせいで、ゆかちゃんのおとーさんとおかーさんにも迷惑掛けちゃ…」
「リーリエは、悪くないよ」
泣きじゃくっているリーリエが、ハッと私の方に視線を向けた気がしました。
口ではこう言っていても、内心では今にも気が動転しそうになっているのを必死に堪えています。
「謝らなきゃいけないのは、私の方だよ。そもそもの言い出しっぺは私だし。悪いのは私。私のお父さんとお母さんの事は心配しなくていいよ。…自分で、なんとかするから」
「ゆかちゃん…」
すると、リーリエがぐしぐしと涙を拭い、きっと立ち上がって言いました。
「じゃあ、私はゆかちゃんのお手伝いをする。ゆかちゃんと一緒に家に帰るまで、ゆかちゃんの助けになる!」
「ありがとう、リーリエ。絶対に家まで送り届けるからね」
そうは言ったものの、ここは異世界なのに加えてリーリエも全く知らないと言っている土地。
私たちに出来ることと言えば、行く宛もなく彷徨うことのみ。
(不安しかないけど、ずっとここにいても何も始まらない。…お父さんとお母さんには心配掛けちゃうな。ごめんなさい)
「ゆかちゃん?早く行こうよ」
「あ、うん。行こう」
リーリエに催促され、私たち二人は歩き始めました。