猫耳さんがあらわれた!
ある日の昼下がり、私はいつも通り一人で家の近くの森をお散歩していました。
私には、昔から友達と言えるような子がいませんでした。
ただ、必要な時にだけ話す程度の関わりでいいと思っていたからです。
しかし、そのせいで代わり映えしない日常に暇を持て余していた私には、この森を気ままにお散歩するくらいしか、やることがありませんでした。
けれども、こうして気ままに森を歩く時間は私にとって唯一の癒しでもあったのです。
(やっぱり、森のお散歩は気持ちいいなあ)
お散歩をしながら、森の空気を堪能していたその時。
「きゃあ?!」
突然、何かに背中を押されました。
押された衝撃で、前方へすっ転んでしまいます。
「な、何…?」
「い、いたた…」
誰かの声が聞こえました。
(だ、誰かいる…?)
転んだせいで痛む左足を押さえながら、声した方へ目を向けました。
目を向けた先に、女の子が倒れこんでいました。
見た目は七歳くらいの普通の女の子。
自分を押した相手が分かって、安心したのも束の間。
異変に気がついたのはその直後でした。
よく見ると、女の子の頭にもっこりしたものが二つあるのです。
二つあったそれは、猫耳でした。
(猫…耳……?!)
更によく見ると、女の子のお尻の辺りから何かが生えてきているようでした。
生えていたものはそう、しっぽでした。
(猫耳に、しっぽまで……?!)
いつも通り森をお散歩していたはずなのに、なぜか目の前に猫耳の女の子。
「ね、ねえ、大丈夫…?」
その子が私を見据えて言いました。
「だ、大丈夫、だよ」
目の前の信じがたい光景に、私は気が動転しかけていました。
(あまりにも日常がつまらな過ぎたせいで、とうとう変な幻覚でも見るようになっちゃったのかな)
「違う、今は戻ってケガの手当をしなきゃ。幻覚なんて見てる場合じゃない…」
家へ戻るために立とうとしたら、転んでケガをした左足がズキッと痛みました。
「いたっ……」
左足を押さえながらしかめっ面をすると、女の子が寄ってきて、足のケガを見ながら言いました。
「足のケガ、私が治してあげる」
「え、治すってどうやって…」
言い終わるのを待たずに女の子が私のケガに手を添え、口の中で小さく何かを唱えました。
すると、
「あれ、足のケガが…」
見ると、足のケガが綺麗さっぱり消えていました。
幻覚などではない、明らかに現実の出来事でした。
驚いて女の子の方を向くと、
「…ケガさせちゃってごめんなさい」
猫耳の女の子はそう謝ってくれました。
「あ、ありがとう」
(この子、素直で優しい…猫耳がついてるのだけ気になるけど、出来れば、仲良くなりたいな…)
今さっきまで感じていた恐怖心から一転、私は女の子に興味が湧いてきました。
「ね、ねえ。さっき私のケガを治したあれ、一体どうやったの?」
私は意を決して女の子聞いてみました。
すると女の子は、微笑を浮かべながら言いました。
「私の魔法で、治したの」