夏休みの想い出 ~ 5年越しの宿題 ~
社会人1年目の二人
「よっ!」
「あっ!マサくん、帰ってたんだ?」
「あぁ、こっちで試験受けてたからな!」
「そっか……公務員試験、どうだった?」
「あぁ、どうかな?わかんない。あの試験ってさ、実はからくりがあるんだって」
「そうなの?」
「そうなの。筆記試験は、まぁ、実力だけどな……集団面接は受験番号の前後10人くらいと顔はちゃんとあわせて挨拶はしておく方がいい。いわゆる根回しだな……っていうのを先輩に教えてもらって去年知ったから、そこは抜かりなく!」
じゃあ、大丈夫だね!と微笑みかけると、マサくんはそんな簡単だったら、去年落ちてないよと苦笑いされた。
勝手知ったるおばあちゃんちの居間でスーツを着たままダラダラっとしている。
そういえば、今日は花火大会だと思い話しかけようとした。
「今日さ、迎えにくるから秘密基地に行こうぜ?」
「うん、いいよ!何か食べ物とかいる?」
「そうだな……とりあえず、ビールだな!」
「とりあえず、ビールね!秘密基地に行くまでに買っていこうか!」
「あぁ、そうだな……」
「ん?何?」
「あ、えっ?いや……その……卵焼きが食いたいなって……」
「私の卵焼き甘いから嫌だって言ってなかった?」
「そうか?俺、アキラの作る卵焼き好きだ……よ?」
調子いいんだから!とマサを睨むと分が悪そうにしていた。
まぁ、リクエストなら、作ってあげるさ!と笑いかければ、ありがとうと返される。
素直に言われると、こっちの方が照れくさい。
社会人1年目となったマサと私。
この町から出て行ったマサは都会の企業で働いている。
私は、この町で夢を叶え、翻訳士として働いていた。その傍らで、作家もすることが叶った。
あの高校3年生の夏休みに書いた物語が新人賞に通り、見事に書籍化したのだ。
かなり、有名になりドラマの原作とかになった。ただ、私は一切表舞台には出なかったので、周りから見れば、ずっと家にいる引篭もりだったりニートだったりフリーターだったりするわけだが、知っている人だけ知っていればいい。
「そういや、仕事、順調そうだな?」
「うん、おかげさまで!本も売れているし、翻訳もちらほらね。ありがたいよ。自宅で仕事ができるのって……」
「たまには家から出るんだろ?」
「もちろん!打ち合わせはあるからね!実際、現場に向かうこともあるし。でも、基本的にはだから、落ち着くんだ」
「アキラは、人付き合いもいい方だから、もったいない気はするけど、それでも才能だよな。努力してたのも知ってるけど!」
意外と私のことを見てくれていることを嬉しく思いながら、着替えてくると立ち上がったマサを見送った。
マサは、明日、夏休みを取ったらしい。
カレンダー通りの勤務らしく、夏休みは別にあるらしい。
なので、のんびりとできるということだった。
私も居間から立ち上がり、リクエストの甘い卵焼きを焼く。
◆◆◆
1時間後、いつものジーパンにTシャツとラフな格好のマサが、玄関に迎えに来た。
「ばあちゃん、これ」
「スイカ?」
「持ってけってさ。あと、今からアキラと花火見に行ってくるよ!」
「気を付けて行っておいで?ここの花火も人が増えてきたからねぇ……」
「わかった!まぁ……何もないよ!なんかあ……じゃない」
「何、慌ててるの?」
「何も……」
「じゃあ、おばあちゃん、行ってくるね!戸締りはしておいて!私、鍵は持っていくから!」
「あぁ、わかったよ!しっかりな!」
わけもわからず、マサはおばあちゃんに背中を叩かれむせこんでいた。
大丈夫?と覗くとちょっと涙目で大丈夫といい、手を出してくる。荷物を持ってくれるのだろう。
その手に卵焼きを渡すと家を出た。
手は繋いだまま、ちょっとはしゃぐ私に呆れかえっているマサ。
◆◇◆
買い物を済ませ、山の上にある秘密基地に二人で登っていく。
一年ぶりに来たのだけど……なんか、綺麗だった。
「マサくん、秘密基地が綺麗!どうしたの?」
「あぁ、昨日見に来たら、ちょっと荒れてたから直しておいた。花火はここから見たいじゃん?」
「うん、そうだね?ありがとう!」
「荷物は、俺持つから後で」
わかったと返事したときにひゅ~~~と音がした。
あっ!花火が始まったと思ったときにお声がかかり、私も梯子を上る。
「変わらないね!ここから見える景色は」
「まぁ、俺らは変わったけどな。それより、飲もうぜ!」
じゃあといってコンビニで買ってビールやおつまみ、食べ物、卵焼きをテーブルに並べる。
「あぁ、いいね。こういうのってさ」
「そうだね?」
「そうだ、5年前の宿題なんだけど……覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「だよなぁ……覚えてるよな……」
「忘れてたんだ?」
「そんなことないけど……答え合わせしようか?飲む前に」
「飲む前にね?うん、いいよ!」
飲む前とは言ったっが、なんだかのどが渇いているようだったので、ビールの缶をプシュッと開けてマサに渡した。
飲んだ前でも飲んだ後でも変わらないだろう。
「喉乾いたから、1本だけ飲もう!」
開けた缶を生唾飲み込み躊躇っていたマサに声をかけ、私も1本ビールをあける。
「ほら、乾杯」
「あぁ、乾杯」
ガツンと重みのある乾杯をして、ビールを飲む。目の前にいるマサは、一缶飲み切ってしまったらしい。
ガンとテーブルに缶を置いて、私を見据えるマサにニコリと微笑む。
「アキラ、その……5年越しの宿題の答えなんだけどさ……け……結婚してくだしゃい!」
「あっ!」
「……噛んだ……」
肩を落とすマサに、私は笑ってしまいそうになった。でも、ここはグッとこらえる。たぶん、我慢しているので、体は震えているだろう。
「末永く、よろしくお願いしましゅ!」
「あっ!」
「……移ったかな?」
わざとらしくないように噛んだわけだが……見抜けただろうか?私もこの秘密基地にくるまでの間、緊張していなかったわけではなかった。
だから……わざと噛んだんだけど、本当は素で噛んだんじゃないかと思えてくる。
ぷふ……ふふっ……
二人は、自分たちの噛んだ間抜けなプロポーズと返事に笑い始める。
こんなに笑ったのはいつぶりだろうか……高校を出てから、マサはこの町からいなくなった。
都会にある国立大学へ進学してしまったから。夏休みも帰ってこなかった。
何をしていたかというと、アルバイトをずっとしていたらしい。
その結果を目の前にコトっと置かれる。
「サイズ、合うかな……開けてみて」
「……いいの?」
「もちろん、そのために買ってきたし、4年間帰ることもなく貯めたんだから」
私は、置かれた小箱を手に取ると開ける。
ダイヤの指輪が入っていた。
貸してと小箱から指輪を出し私の指に嵌めてくれる。
「素敵だね!これ……高かった?」
「金額は……聞かないで……4年分のバイト代と思って」
私は指輪を眺める。その向こう側に花火が見えた。
「花火、全然見てないね?」
「まぁ、そうだね……いいんじゃない?」
「うん、ありがとう。マサくん、大好きだよ!」
「俺も……」
私はマサの横に座り直し、ぴったり寄り添って抱きついた。
「もうしばらくは、帰ってこれないけどさ……来年、結婚しような」
「来年ね!公務員試験受かるといいね!」
「そうだな……しばらく、当分遠距離だ」
寄り添える人が出来た。
私は、マサの隣で寄り添うと優しく抱きしめてくれる。
こんな幸せな時間をこれから過ごせるのかと心がホッと温まるのであった。
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