夏休みの想い出 ~ 目の前に咲く菊花 ~
今年の夏もやってきた!
何もない、母の実家があるド田舎へ!友人のいる町へ!
去年、ひと夏を一緒に過ごしたマサは、元気にしているだろうか?
新幹線に乗った直後から、そんなことを思いながら、わくわくと胸を躍らせる。
「アキラ、ようきたな!」
「おばあちゃん、今年もよろしくね!」
「あぁ、アキラが来てくれると賑やかで、嬉しいからな」
電車を乗り継ぎ、おばあちゃんちの近くの駅まで着いた頃、おばあちゃんは駅まで迎えに来てくれた。
家からは歩いてこれる距離なので、おばあちゃんは歩いてきたようだ。
荷物を持ち、空いている方の手でおばあちゃんの手を握る。
8月に入ったばかりで空気は、煮えたぎる湯の湯気をかぶっているかのように暑い。
「ちょうどいい、酒屋さんでアイスでも食べようか?」
私は、おばあちゃんがいう酒屋さんが何かわからず、後ろからおずおずとついて行く。
こんにちはと入る酒屋さん。
街なら、コンビニへ入るのが一般的だが、おばあちゃんの住むこの町はとても廃れたところだ。
新しいものは少なく、昔ながらのものがたくさんある。
だから、私の知らないモノが、この町にはたくさんあった。
「あらあら、いらっしゃい。なんにします?」
「アイスを……アキラ、どれにするね?」
呼ばれたので、冷凍庫……見たことのない箱型の冷凍庫に顔を突っ込むと、冷気がとても涼しい。
火照った頬をひんやりと熱を取ってくれた。
「こら、顔突っ込んでないで、アイスを選びな!」
「うーん、じゃあこれ!」
種類が少ないので、巻き巻きとなっているソフトクリームを選ぶと、おばあちゃんも同じものを選んでいた。
食べていくようで、休憩用のベンチに腰掛ける。
おばあちゃんは、酒屋のおばさんと話し始め、アイスを食べながらそれを横で聞き流していた。
「おばあちゃん、花火があるの?」
ベンチの真向かいにある壁に貼られた花火大会のポスターを見て聞いてみた。
去年は、そんなのに行った覚えがなかったので、不思議な気分だ。
「あぁ、あるよ!今年は、アキラがちょうど帰る前の日だな。去年は中止になっていけなかったから……今年は、マサと見に行くといいさ!」
「マサくん、覚えてくれている?」
「昨日、来ることを言っといたよ!喜んでたから、今年も遊んでくれるんじゃないかい?まぁ、遊んでばかりでなくて、勉強もしっかりしてくれっしな?」
「わかった!」
食べ終わった後のごみをどうしようかと思っていたら、おばさんが回収してくれる。
ちょうど、おばあちゃんのおしゃべりも終わったようで、また、暑い中を二人で歩いて家に帰った。
◇◆◇
「ばあちゃん、アキラ来た?」
次の日の朝、マサはおばあちゃんちに無遠慮に入ってくる。
勝手知ったるなんたらだと思い、障子のこっち側で、マサとおばあちゃんの様子をクスクスと小さく笑っていた。
「あぁ、テレビの前で宿題しとる!」
わかった!とドタバタとこちらにやってくるマサ。
障子があいた瞬間、懐かしさがこみ上げる。
「よぉ!アキラ、いっちねんぶり!」
相変わらず、あちこち出歩いているのか、マサはすでに真っ黒だ。
マサの背は少し伸びたのだろう。座っていると少し見上げる感じである。
「覚えてくれてたんだね!」
「あったぼうよ!さっそく、川、行こうぜ!」
していた宿題をそっちのけで、手を取り駆け出すマサについて行く。
川まで競争だと言われ、マサの背中を一生懸命追いかける。
ざっぱーん!ついた瞬間に、川に飛び込むマサに続き飛び込む。
川の水は冷たく気持ちいい!
飛び込んだり泳いだり、たらふく川で遊んだ後は、家まで二人でテクテクと歩く。
水にぬれたままなので、スニーカーの中は水浸し……歩くたびに変な音がした。
川から家までの間に服は乾き、ついた頃におばあちゃんがスイカを切ってくれていた。
塩を振りかけたスイカは、とても甘くて美味しい。
「ばあちゃん、アキラと明日も遊びに行ってもいい?」
「いいけど、二人とも宿題を忘れてないかい?」
「俺、いっこもしてない。まだ、時間あるしいいかなって」
「そうだ、マサくん、八月の最後の日曜に花火大会があるんだって!行かない?」
「花火大会?いいぜ、行っても!」
「花火大火に行くなら、それまでに宿題終わらせるんだよ?アキラは次の日帰るんだし、マサも数日後には学校だろ?」
「わかった!朝は宿題をやって、昼間遊ぼう!」
「えぇー宿題やだよ……」
「去年みたいに手伝ってやるからさ!早く終わらそうぜ!」
朝の2時間だけ、おばあちゃんちで宿題をする時間となった。
それ以外は、去年と一緒、山へ川へと二人で駆け回る日々。
ときどき秘密基地へ行って遊んだりもした。
そういえば、秘密基地に上がるための梯子が取り付けられていた。
マサの父親がつけてくれたらしい。
「マサくんは、友達いないの?」
「いっぱいいるぜ?」
「でも、会ったことないよ?」
「俺も、アキラの友達には会ったことないけど……」
「だって、遠いもん、ここから何時間もかけてくるんだから!」
「あぁ、アキラがこっちに住めばいいのにな!」
そんなことを言いながら夏休みは過ぎていく。
マサと過ごすとあっという間に終わる夏休み。とうとう、最終日曜になった。
「今晩だね?」
「あぁ、天気よさそうだってかぁちゃん言ってたから、楽しみだな!ちょっと早く行って屋台で食べ物買おうぜ!かき氷、たこ焼き、やきそば、いかやき、りんご飴」
「そんなに食べたら、お腹壊さない?」
「じゃあ、かき氷とりんご飴以外は半分ずつな!」
またあとでと、マサは家に帰っていく。
おばさんにお小遣いをもらいに行ってくるとのことだった。
「アキラ、浴衣着るかい?お母さんのがあるけど……どうする?」
「着ない!そんなの着たら、歩きづらい!」
「そうか……じゃあ、これお小遣い。マサとはぐれないようにしなよ?人がいっぱいくるからね?」
「わかった!もう、何回も聞いたよ!」
もぅ!っと怒っているうちに迎えに来てくれたマサと一緒に花火会場へと向かう。
少し早く着たはずだったのに花火の会場はすごい人だかりで、子どもだけできた私たちははぐれそうになった。
でも、こんな賑やかなお祭りに行ったことがなかった私は見ているだけで、心躍らされる。
マサの手を握り、あっちにこっちにと行くとさすがに疲れてきたようだった。
「なぁ、アキラ!」
「ん?」
「人多いからさ、秘密基地で花火みない?」
「いいよ!」
約束の物を買い、二人で秘密基地へと向かう。
町を一望できるこの場所は、打ち上げ花火も綺麗に見えるだろう。
あと少しで秘密基地に到着すると言うところで、花火が始まったようだ。
ひゅぅ~~~っという音の後にどぉーんっという音が空に響き、腹にも響く。
「始まったな!早く行こうぜ!って、アキラ、持っているもの全部貸せ!」
私から袋をひったくるとそのままずんずんと歩くマサを必死に追いかける。
すでに何発も打ちあがっているのか、何度も何度も音がした。
「やっと着いた」
秘密基地についたころ、煙が出ていたようで、花火は少し止まっている。
食べようぜと並べたたこ焼きや焼きそばを並べ食べていると、また、ひゅぅ~~~という音と共にどぉーんっという音が空に響く。
窓から見える菊花が目の前で咲きとても綺麗だった。
「誰もいないから、綺麗に見えるね!」
「あの人込みだと、大変だよな。俺らだとチビだから見えないし。ここだと、花火が目の前に見えるんだな」
真下にいれば、上を向いてみないといけないが、ここなら焼きそばを食べながらテレビでも見るかのような感覚で見れる。
「知ってるか?た~まやー!って叫ぶんだって!たぁ~まやー!」
「たぁ~まやー!」
マサにならって私も叫ぶ。
誰もいない山の秘密基地に二人、子どもの声と花火の音が響き渡った。
楽しい時間はすぐ終わる。
「綺麗だったね!」
「あぁ、来年もこような!」
私たちは、来年の約束をした。
花火も終わり、楽しい時間はすぐすぎる。
下山してそれぞれの家に向かった。
そして、家に帰る日。
ずっとこっちで住めればいいのに……願う私は、翌日マサにさよならの挨拶をしに行った。
また、来年な!と、見送ってくれるマサに大きく手を振り電車に乗る。
次に会えるのは……5年後。
来年の夏休みではなく、中学3年になる春休みのことだった。
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