弥生
税。それは土地を管理するものに必ず渡さねばならないものである。
時には不当な税を納めるよう支持するところもある。
平暗では、栄えていたこともあり少し税率は高かった。そのことをこの2人も知ってはいた。しかし、さほど気にも止めていなかった。何故なら、栄えていたからである。しかし、ここ弥生はどうだ。こんな現状で税など納められるはずがない。
大きな笛の音が鳴り響いた。その音に人々は平伏し、恐怖した。光源氏と頭中将も人々に習い平伏した。この2人は頭がきれる。その場で何をすべきかを感情に任せて行動できなくなるということはないのである。
「これより、本日の税を納めてもらう。代表者よ、前に出よ。」
この土地の貴族であろう者から、そう告げられ、この町の町長と思しき人物が前に出て平伏した。
「申し訳ございません。干ばつがひどく作物もとれず、頼りの若い衆は卑弥呼様の城にて業務を行っているため、本日献上できますものは何もございません。」
「貴様、卑弥呼様のせいで税を納められぬと言っているのか?では、その命を持って償いとせよ!」
税を納められないことに腹を立てた貴族が携えていた刀を抜き、町長に斬りかかった。
「頭中将、すまん。目の前で理不尽に10日も世話になった人が斬り捨てられるのを見過ごせない。」
光源氏はそう告げると頭を上げ、刀に手を置いた。
「まったく。」と頭中将が呟いてるだろうなと頭を過ぎったが、関係ない。この理不尽な行動を許せる器量は光源氏には無かったのだ。
「一撃で終わらせる。居合抜き"桐壺”」
光源氏を光が包み、次の瞬間、町長に斬りかかっていた貴族を斬り捨てた。
納得がいかなかった。傍で見てきたからこそ、理不尽な貴族の要求や態度が気に食わなかった。
頭中将は呆れはしたが、光源氏の性格を誰よりも知っているため、次に起こることを考えていた。
多分、いや確実に光源氏は町民から顰蹙を買うであろう。誰も望んでない。なんてことを言われるのがオチである。
案の定、貴族を斬り捨てた光源氏に対しては、賞賛ではなく批判が飛び交った。
なんてことをしてくれたんだ。
これで俺たちは終わりだ。
恩を仇で返しやがって。
言いたい放題である。しかし、それでも見捨てられなかった。その気持ちは頭中将にも痛いほど理解できた。
町民からの顰蹙を買い、町を出ることにした光源氏と頭中将は荷物をまとめ、町から少し離れたところに頓挫していた。
求められていないことはわかっている。けれど簡単に見捨てるわけにも行かない。そして何より、自分のまいた種は自分でケリをつけねばならないと考えていたからだ。
「いつまでそうしているつもりだ?俺は別にお前が間違えたことをしたとは思っていない。もしも、奴らの長である卑弥呼とやらが襲撃してくるならば、その時は俺も加勢してやる。だからもうそろそろ休め。お前らしくもない。」
しかし、頭中将に声をかけられた光源氏はこの時既に卑弥呼に勝つための算段を整えていた。だが、あと二つ、卑弥呼の能力と貴族の中に強者が何名居るかだけが気がかりであった。
夜、物思いにふけりながら、星空を眺めていた光源氏のもとにある男がやって来た。
「昼間は命を助けていただき、感謝致します。」
声をかけてきたのは、町長であった。
「別に大したことをした覚えはない。世話になったあんたが理不尽に斬り捨てられるのを指をくわえて見ていることができなかっただけだ。」
後ろの町民を気にかけ、光源氏はあくまで無愛想に答えるのであった。
町長もそのことを察したのか、用意した握り飯を光源氏の傍に置くと背を向け、町の方へと戻ろうとした。
その時、頭中将が町長に声をかけた。
「なあ、町長さん。卑弥呼ってのはなんでそんなに恐れられているんだ?どんな能力を使う?それとも卑弥呼以外に厄介なのが居るのか?」
頭中将の質問に対し、少し間を置いてから町長は切り出した。
「貴族の中に強者はおりませぬ。卑弥呼様に付き従うだけでございます。しかし、卑弥呼様は違います。彼の者は土を操る能力を有しております。かつて卑弥呼様に逆らった者がおりましたが、その者はみなの前で処刑されております。」
「なるほどな。それで、あんな恐れていたんだな。理解した、そして勝手な行動をして申し訳なかった。」
頭中将はそう言って頭を下げた。町長は慌てて頭を上げるよう促した。
その会話を聞いていた光源氏はニヤリと笑った。危惧していたことが解消できたのだ。そして町長が持ってきた握り飯を頬張ると頭中将に告げた。
「頭中将、早く飯を食え。今から仕掛けるぞ。」
光源氏の言葉に町長は焦り、止めるよう頭中将に乞うたが、頭中将は驚くことなく承諾した。
今宵、弥生卑弥呼討伐作戦が開始される。