はじまり
平暗時代末期、そこには特殊な能力を持つ人間達が暮らしていた。人間はその力を行使し、農業、商業、あるいは武士として生活していた。その武士の中に、特に優れた力を持つ者がいた。
その者たちは自らの力に胡座をかき、貴族と名乗り市民たちを蔑んでいた。
また、その貴族達は全国各地に存在しており、各所に立派な城を構えていた。しかし、貴族同士は牽制し合い、お互いの領地を奪うために小競り合いを繰り返している。
そんな貴族の中に1人、他とは一風変わった者がいた。彼の名は光源氏。貴族でありながら、自由奔放で規則を嫌い、誰に対しても平等に接している人物である。
これはそんな光源氏の成長を描く、少し変わったお話である。
平暗を収めている貴族達、その名も平暗京。その城下町で一人の男が、揉烏帽子を指に引っ掛けながら、着物を着崩して歩いていた。
「暇じゃの〜。何か面白いことでも起こればいいだが。お?あの者、良い乳をしておるな〜。」
この男、先程も申したが自由奔放である。またこの男、かなりの天才であるにも関わらず短気であり、そして何より助平である。女子の身体を見ては反応するほどである。しかし、この男天才でありながら、短気で助平ではあるが、その顔立ち、大変美しく皆から言い寄られる程である。
そんな光源氏は貴族の間では相当嫌われている。何せ貴族の恥さらしのような行動をも平然と行い、暇と思えば城下町に降り喧嘩や遊びに惚けているからである。
しかし、そんな光源氏にも1人だけ心を許せる友がいた。頭中将である。幼少期より共にすごしていた。光源氏の唯一の理解者とも言える存在である。
ある日の昼下がり、先帝より東の地の貴族を打ち破れという命を受けた。
平暗京において1番力を持っている先帝からの命令に、光源氏は仕方なく東の地に向かう準備を進めることにした。
貴族社会の何もかもが面白くないと考えていた光源氏だが、強い相手との戦闘だけは楽しみにしていた。
光源氏を煙たがっている貴族ではあるが、その能力だけは認めており、これまでも度々戦闘に向かわせていた。
貴族が元来戦闘に向かう際、部下を引き連れるがこの時光源氏には誰も付けられることはなかった。
光源氏は1人、東の地に赴くことになるのであった。貴族の考えを見透かしていた光源氏はある決心を固めていた。
そして出発当日、いつも通り着崩した着物に袖を通し、揉烏帽子を手に持っている刀の先に引っ掛けて城下町を通り過ぎた。
門の前に到着したとき、頭中将が待っていた。
「よう、光。どうせもうここには戻ってくるつもりは無いんだろ?」
「お前にだけはやっぱり見破られているんだな。」
「まあ、昔っから一緒に居たからな。だいたいのことはわかる。」
「流石だな。どうだ、お前も一緒に行かないか?」
光源氏は唯一の理解者であり、実力も拮抗している、親友であり好敵手でもある頭中将を誘った。
「クックック、やっぱりな。そう言うと思って、用意しておいた甲斐があったよ。」
「ハッハッハ、お前にだけは負ける気もしないが勝てる気がしないな。」
こうして1人、旅に出るはずだったが、頭中将と共に出発することになった。
そして城を見上げながら
「くそ貴族どもの見え透いた考えなんざどうでもいい。とりあえず形だけでも東の地に向かうとして、これを機に旅でもするか。」
と吐き捨てた光源氏は旅に出たのであった。
旅に出て7日ばかりが過ぎた頃、とりあえずの目的地としていた東の地に到着した。
「随分と大きな城が建ってるな。頭中将、ここはなんて場所だ?」
「確かに立派な城だな。ちなみにここは弥生だ。女帝卑弥呼が支配しているところらしい。」
「なるほどな。その卑弥呼ってのはやっぱり強いのか?」
「まあ、女で帝になるんだから相当強いんだろ。」
「まあ、襲われたら倒せばいいか。」
「だな。町に入るか。」
東の地、名を弥生。そこには立派な城が建っており、その城下町には藁を編んだ家々が建ち並んでいた。
しかし、大きな城のわりに町の人々は貧しそうにしていた。
町に入り、農作業に勤しむ老婆の姿が目に止まった。
栄養が行き届いていないようなやせ細っている手足、こけった頬、見るからに苦しい生活を強いられていることが見て取れた。
「城の大きさと城下町の様子が全然違うな。能力も全然使ってないように見える。」
「ああ、相当な税を敷いているみたいだな。能力を使うにしてもあんな身体じゃ1、2回も使えば死んでしまう可能性がある。」
「まあ、本来なら俺たちが関わる必要のないことなのはわかっているが、どうも情が移ってしまう。」
「お前は本当に昔からそういう奴だな。好きにしろ、光。俺は元々お前と共に旅に出た時点でこういうことも引っ括めて一緒にするつもりだったしな。」
そういうと2人は老婆に話しかけ、農作業の手伝いをした。
光源氏、名の通り光を操る能力を持ち、夕暮れでも安心した生活ができるようサポートした。
頭中将、水を操る能力を持ち、農作物を豊かにした。
農作業の手伝いをしながら10日ばかりすぎた頃、事件は起こったのであった。