第四話
行くあてのない人形は、主人の手がかりが見つかるまでレンの元に身を置くこととなった。
オヴェストという、王都から西に位置する鉱山都市。ここにレンの工房はある。彼は街でも名の売れた絡繰技師で、工房には所狭しと絡繰が並んでいる。
自らとは違い、意思を持たず思考をしない絡繰と過ごす日々は、人形にとって違和感の塊だった。
壁際で家具に混ざっているものは、美しい少女の絡繰人形から物を運ぶための装置まで、種類は様々だ。
「あなたは、どうして作られたのですか?」
「……」
「あなたの存在意義はなんですか?」
「……」
「あなたの主人は誰ですか?」
「……未定」
一日に一度、レンの最高傑作らしい幼い少女の人形に語りかける。しかし、彼女はいつも黙し、ただ人形とは性質を異にするものだということだけを言外に伝えてくる。
お互いに温度を持たない体、白く滑らかな人工皮膚に、関節部に取り付けられた球体、眼窩に嵌められた鮮やかなガラス玉、そのどれもが似ている。しかし、人形には意志があり、彼女にはそれがない。
「どうして、未定なのですか?」
「設定されておりません」
二人の会話は酷く不毛で、もはや会話と呼べるかすらも怪しい。それでも人形は数日の間同じことを尋ね続けていた。尽くすべき主人がいないのにも関わらず存在している小さな人形の存在が、にわかには信じられないのだ。
「それに何度同じ質問をするつもりだ?君の行動は非合理で不可解だな。……人形とは思えない」
ある日、レンはそう言って眉をひそめた。彼にとって、いかに人間に似ていようと、意志を持っていようと、美しかろうと、人形はどこまでいっても人形なのだ。それは、己の手で声を与えたものでも変わらない。
人形とて、意味がないことは理解している。理解していてなお、存在意義を持たないものへの興味は尽きない。このまま工房で佇んで壊れるのを待つだけの、生み出された意味がまるでない生活は、人形にはとうてい許容できるものではないのだから。
「私は人形であり、彼女もそうであるのに、我々の差異がこれほど明確なのが不思議なのです」
「なるほど、たしかにそうだ。君たちには越えようのない壁がある。……作り手の技量だな」
やや自嘲気味に言った青年は、しかし真っ直ぐと現実を受け止めているだけのようだった。人形の主人が魔法を扱っていたらしい事も、彼の自信の喪失を防いだのかもしれない。
からくり仕掛けの人形達を大切にしていても、レンの中で彼女たちは作り物に過ぎない存在だ。彼は、絡繰技師であるからこそ、人間との違いを明確に認識している。
「あぁ、そうだ。君が眠っていた倉庫に明日行くんだが、一緒にどうだ?」
まだ君の物が残っているかもしれないし、というレンの言葉に、人形には肯定する以外の選択肢はなかった。不甲斐ないことに側を離れてしまった主人の手がかりを、何としてでも見つけなければならない。
椅子に腰掛ける幼い人形は、主人への執着を見せる異質な存在に、興味を示す事もなく俯いたままでいる。