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魔法じかけの絡繰人形  作者: いふひな
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第三話

 美しい絡繰人形は、ドレスの裾を摘んで優雅に一礼した。どんな貴婦人でも敵わないほど完璧に、相手への敬意を表現する。

 時々明滅をする古びた電灯に照らされる小さな工房。普段は動く者が一人しかいないこの場所に、今は一輪の花が咲いている。


「直してくださり、感謝します」


 絡繰技師の青年・レンはほんの少しの間惚けていたが、すぐに怪訝そうな顔に変わった。


「なぁ、君の動力は一体何だ?それらしいものはどこにも見当たらなかったが……」

「私は、主人の魔力によって動いています。彼女の側にいることで蓄積された魔力は、人形一体の動力源としては余りある程ですので」


 人形が思い浮かべるのは、白銀の髪の少女。記録系が劣化してしまっているのか、詳しくは思い出せないが、とても長い時を共にした事だけは確かだ。

 人形の説明を聞いても、レンの表情は晴れない。むしろ、魔力という言葉に顔色は悪くなったように見える。


「魔力なんて、魔法はもう衰退している技術だぞ?君ほどの質量を動かすのに、魔法陣も描かず側にいて蓄積された魔力だけでどうにかなるのか?」


 この国において、魔法は過去の遺物のような扱いだ。生まれながらに扱う素質が決まっている魔法より、誰もが同じように扱える絡繰の方が民衆に求められるのは自明の理。魔力を持って生まれる者は年々減っていっている。

 しかし、目覚めたばかりの人形にはそんなことは知る由もない。そのため、レンの言葉は理解しがたかった。自分は確かに主人の魔力で動き、話し、思考しているのだ。


「私の主人は、数多の魔法使いの中でも抜きん出た才能をお持ちです。彼女を常識で測るには少々不具合があるかもしれません」

「才能、か。そういう次元ではないと思うが……いや、いい」


 これ以上は言葉を交わしてもわからないだろうと判断したのか、レンは言葉を切った。そして、そんなことより、と話題を変える。


「倉庫ではわからなかったが、君のドレスは随分と古いものに見える。あんな埃だらけの場所で、どうして汚れもほつれも無いんだ?」


 人形の着ている白いドレスは、あちこちで不具合を起こした体とは違って、積もっていた埃を払えば綺麗な状態が保たれていた。


「これも、主人がくださった特別な物だからという他ありません。私の体もこのドレスも彼女が作ったものですから、彼女の魔力が織り込まれているのです」

「君の話が本当なら、君の主人の魔力は量も質も桁外れだ。そしてそれを扱う技術も。……まるで魔女だな」

「魔女?」


 その言葉に、人形は強く聞き覚えがあった。今は思い出せなくなってしまった記録を、引き出すことが出来るかもしれないと期待できるほどに。


「知らないのか。……今はもう伝説のようなものだが、百二十年くらい前、まだ魔法が広く使われていた頃。この国は四人の魔女と契約して守られていたらしいが、喜怒哀楽を司る彼女たちは、人々に苦しみと災厄をもたらす存在でもあった」


 本当かどうかはわからないが、と挟むレン。伝承の類は権力者によって改竄されたものであることがほとんどだ。彼はこの話もそうだと思っているらしい。


「その時の国王は苦しむ民に心を痛め、忠臣に魔女の討伐を命じた。快楽の魔女は討ち取られ、憤怒の魔女は処刑され、残る二人も彼によって追放された。そして、忠臣を団長に据えた聖騎士団が、魔女の代わりに国を守るようになった。……こういう話だ」

「そうですか」


 人形にとって聞き覚えがある話ではないので、活動停止中の出来事なのだろう。しかし、どこか空っぽの胸につかえるように感じていた。

絡繰人形は、今で言うアンドロイド、よくファンタジーで見かけるオートマタのような物です。

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