出会い
3月16日──、
まだ肌に刺さるような冷たい風が吹く中、ツユキ芸能事務所のレッスン室では鏡に向かって踊る5人の姿があった。
時折、レッスン室の床と擦れて靴底がキュッと音が鳴る以外には5人の息遣いしか聞こえないこの空間。
そんな緊張感のある部屋の隅でパスプ椅子に座り5人を見つめる人物がパンっと手を叩く。
「崚!湊!同じところまたズレてるぞ!昴!ターン後のステップ間違ってる!」
「…っ、すいません」
湊と呼ばれた泣きぼくろが特徴的な少年が息が乱れて苦しいのか、詰まりながら謝罪する。
「…ハァハァ。…すいません。」
昴と呼ばれた長身の青年も、乱れた息を整えながら続いて謝罪した。
その隣にいる崚と呼ばれた金髪碧眼の少年は、Tシャツで額から伝う汗を拭っていた。
「…すいません。もう1回お願いします…。」
崚がそう言うとパイプ椅子に座る人物、宮城 晶はまた手をパチンっと叩いた。
「よし、じゃあ同じところから。」
「「「「「はい」」」」」
♢♢♢♢♢
「はいっ!ストーーーーップ!」
晶は椅子から立ち上がり手を振ると、5人の前に歩み出た。
「集まってもらってから急に踊れって言われて驚いたと思うけど、そこそこ出来てて驚いたよー!」
見本のDVD渡してたとはいえ、さすが若いだけあるなあ!と感心したように頷いている。
その様子は先程までの緊張感がまるでなく、5人はそのギャップに困惑した顔で固まっていた。
その様子を見た晶はあはは!と声を出し笑い、ごめんね!と付け加えた。
「改めて、僕は宮城 晶といいます。このツユキ芸能事務所に務めてて、プロデュース業を主に担っています。ま、小さい事務所なんで事務作業とか細々したこともしてるけどね。」
社長が人使い荒いんだよねー、と台詞とは裏腹に困ったように笑いながらもさして気にした風でもない口調で呟く。
「…君たちとはそれぞれ面識があるよね?ってまあ、ここにいる5人は僕がスカウトしたしね!」
そう言うと、5人の顔をそれぞれ確認するように見つめ何か納得したのかウンウンと頷いている。
「って僕ばっかり喋ってちゃダメだね!…まずは君たち初対面だし!自己紹介でもしようか!」
じゃあ、最年長の侑也から!と1人の青年を指さし話すように促すと晶はパイプ椅子を手繰り寄せそこに腰掛けた。
指名された青年は、淡いベージュの髪色が似合う穏やかそうな表情で落ち着いて話し始めた。