情報屋にて
「その勇者とハクさんの情報。私に売らない?」
情報を売る?
どう言う事だ?
「私ね、こう見えて情報屋をやってるんだ。だから新しい情報は良い値で買い取るよ?」
「情報屋? そんな事やってるのか?」
「うん、表向きは雑貨屋で裏の顔は情報屋。格好よくない?」
「ああ、だから店名が表雑貨屋なんだな」
「そうそう、分かってるね~!」
なるほど、謎が一つ解けた。
「で、どう? 売ってくれる? 素材買い取りを拒否された君にとってはいい話だと思うけど……」
そうなんだよな。俺には今、金を手に入れる手段が無い。
だから、この話は非常に有難い。
『見極めの眼』でも、敵意は見えないし。
なんせ、自分とあの勇者の話をするだけでお金が貰えるからな。乗らない手はない。
「ああ、いいぞ」
「やった! 新情報ゲット!」
「新情報かどうかは分からないぞ?」
「いやいや。全身に入れ墨入ってるプレイヤー何てハクさんぐらいだよ。だからそれに関連するスキルは新スキルの可能性が高いってわけ!」
全身入れ墨は俺だけなのか……
悲しいな……
「じゃあ、とりあえず10,000Gでハクさんの情報を買い取るよ」
「ん? まだ聞いてないのに、値段決めてもいいのか?」
「うん、情報を聞いた後に値段を決めたらぼったくれちゃうからね。うちはクリーンな情報屋だからそこら辺はしっかりしてるんだ。内容によっては上乗せもあるよ!」
「しっかりしてるんだな……見かけに寄らず」
「見かけに寄らずっ?!」
いや、見た目ただの少女だからな……
「まぁ残念な事に、とことん買い叩く情報屋も居るわけだけど……それはいいや。で、どんなスキル持ってるの?」
「ああ、俺の持ってるスキルで特殊なのは……称号スキルの『大罪人の息子』、『罪人の証』、『生まれながらの罪人』だな。そして称号スキルの効果で手に入ったのが、『身体能力上昇』、『見極めの眼』だな」
俺はステータスを確認しながら自分のスキルを言った
「ふむふむ、知らないスキルがいくつかあるね。『罪人の証』の方は確認されているスキルだね。悪いけどそこまで良い値段にはならないと思う。それにしても称号スキルを最初から三つも……効果はどんな感じ?」
「『大罪人の息子』は、スキル『身体能力上昇』を獲得っていうのと、好感度マイナス300だな。」
「好感度マイナス300!? なにそれ!」
すごい驚いているな。俺も最初は驚いた物だ。
「すごいね……うん、続けて。」
「『罪人の証』は分かってると思うけど、この入れ墨の原因だな。効果は、好感度マイナス200だ。それで『生まれながらの罪人』の効果だが……」
「ちょっ、ちょっと待って流さないで!」
「何がだ?」
「好感度マイナス200の事だよ!私の知ってる『罪人の証』はせいぜい好感度マイナス50とかいっても100とかだよ!200なんて聞いた事が無いよ!」
とは、言われてもな……
「罪の内容によって証が変わる、ともあるし全身入れ墨だったらこんな物だろ?」
「そ、そうかな……?」
「それに安心しろ。これ以上好感度は下がらない」
「そっそれは、良かったね……うん、ごめん、話が逸れたね。もう一つの称号スキルは?」
軽い同情を貰ってから俺は引き続きスキルの内容を話す。
「『生まれながらの罪人』の効果だが、スキル『見極めの眼』の獲得と、神からの憐れみっていう言葉だけの物だな。」
「うん、スキル『見極めの眼』は新スキルだね。後さっきスルーしちゃったけどスキル『身体能力上昇』も新スキルだよ」
「高くなりそうか?」
「うん。新スキルの情報は需要が常にあるからね。期待してて良いよ!」
よし。俺には金稼ぎの方法が乏しいからな。ここで稼いでおきたい。
「次は『見極めの眼』の効果だが、相手の敵意を見極める事ができる」
「相手の敵意を? どう言うこと?」
「俺に敵意を持ってる奴には黒いオーラが見えるようになる。勇者で試したから間違いない」
「ふ~ん、結構便利そうだね!」
「ああ、かなり使えるぞ」
実際にこれのおかげで勇者を避ける事が出来たしな。
「『身体能力上昇』っていうのは?」
「その名前のままだぞ? 腕力や脚力、反射神経や動体視力なんかが上がる」
「えっ、それって凄くない?」
「結構、便利だぞ?」
かなり便利なスキルだ。これには助けられている。逃げる時にも、戦う時にも。
「後は……神からの憐れみっていうのは?」
「俺にもさっぱりだ。説明を見ても神からの憐れみ、としか書かれてないし」
「内容は分からない、と……」
そう言いながら、アリスは紙に何かを書き込んでいる。
「ふむふむ、スキルはこんな物かな?」
「ああ、それぐらいだ。後は攻略サイトに載っているような物ばかりだな」
「オッケー、じゃあハクさんの情報の値段決めるからちょっと待ってね~」
「分かった」
アリスは虚空を見つめている。
恐らく、メニューを使っているんだろう。
メニューとはストレージと同じくプレイヤーなら誰でも使える魔法だ。フレンドを登録したり、電話をしたり、メールを送ったり、様々な事が出来る。
ようは、ゲーム的な操作が出来る訳だ。
だが、大半の機能は友人や知り合いあっての物なので俺はまだ使っていない。このゲームじゃ友人も知り合いもまだいないからな。
「うん決まったよ! ハクさんの情報は合計50,000Gで買い取らせて貰うよ! いいかな?」
50,000G……結構な値段だな。
全く問題ない。
「それでいいぞ」
「じゃあこれが、お金ね!」
店のカウンターに金が入った袋が置かれる。
おお、これがこのゲームの貨幣か。初めて見た。
「後は勇者の情報だけど、さっき確認したんだけどこちらは結構情報が出てきてるんだよね~。どうやら勇者君、あちこちで「自分は勇者だ!」って言って人助けしてるみたいだね。だから容姿なんかはあんまりお金にならないよ?」
あの勇者そんなことしてんの?
悪い奴では無さそうだったけど……
お金にならなくなってしまったのはいただけない。
まぁ勇者に関する情報は容姿以外にもある。
「ならスキルの情報はどうだ?」
「勇者のスキルの情報があるの? だったら買い取れると思うよ。勇者のスキルとかは気になってる人も多いと思うし」
よし。あの時叫んでたのを聞いていて良かった。
「あの勇者は『正義の使者』とかいうスキルを持っているはずだ。効果は対象の好感度を調べる事が出来るとあの勇者が言っていた」
「好感度を? めずらしいスキルだねぇ。っていうかハクさんの天敵だね……」
「ああ、厄介なことにな」
「どんだけ姿を隠してもバレちゃうもんねぇ……」
本当に迷惑な話だ。何も悪いことしてないのにな。
「で、買い取りの話だけど、5000Gでどうかな? 不確定な部分もあるし、これくらいになっちゃうけど……」
アリスは確認をとってくるが迷う理由がない
「それで構わないぞ」
「まいど~じゃこれお金ね!」
カウンターに二つ目の袋が置かれる。
合計で55,000Gか……増えたもんだ。大事に使わないとな。
「いや~いい情報だったよ。ハクさんありがとね!」
「そういえば、気になったんだか情報屋って儲かるのか?」
情報なんて、攻略サイトに載ってるの見ればよくないか?
「ん? 割と儲かるよ? リアルなゲームだし雰囲気大事にする人も多いし、このゲーム作り込みがとんでもないからネットに載ってない情報なんて結構あるし、お金になるんだったらって売りに来る人もいるし。それに私の場合は一人でやってないからね、赤字にはなりにくいよ?」
「そうなのか……一人でやってないとはどう言うことだ?」
「クランに入ってるんだよ。情報屋がいっぱいいるクランに。だから情報を共有して売るネタが増やせるし、新情報も直ぐに分かるんだ」
クランとは、プレイヤーが作る集団の事だ。
そういうやり方もあるのか……
てっきり情報屋は一人でやる物だと思っていた。
ついでに何か買っていくか。
もちろん雑貨の方じゃなく情報の方だ
「買いたい情報があるんだか……」
「何の情報が欲しいの?」
「好感度を上げる方法と冒険者組合関係以外の金稼ぎの情報だ」
「どちらも、ハクさんに必要不可欠な情報だね……大丈夫!いい情報を売ってくれたし安くしとくよ!」
おお、有難い。
ここに寄って良かったな、寄らなかったら延々と路地を歩き回っていただろう。
俺は情報を買うべく、話を進める