雑貨屋で会話
路地を進んでいると、初めて店を見つけた。
看板には、大きく『表雑貨屋』と書かれている。
表って何だろう。
路地に入って初めて見た店だし興味もある。
入るか。
カランッという音と共に扉が開く。
中にはいろいろな物が雑多に置かれている。
謎の円盤、紫色の液体、不気味なオーラが見える人形
様々な物がある。
大丈夫か? この店。
しばらくすると、
「いらっしゃーい!」
奥から、短い銀髪の背の低い少女が出て来た。服装は動きやすそうな茶色の服だ。
「初めてのお客さんだね。私はアリス。よろしくね!」
「ああ、俺はハク。宜しく頼む」
このゲームで初めて名乗ったな。ちょっと感動。
今まで、斬りかかられたり、帰れと言われたり、ケンカを売られたり、そんなのばっかりだったからな……
名乗るタイミング何て無かった。
「何で名乗っただけでそんな感動してるの?」
おっと、顔に出てたか。
「いや、何でもない」
「ふーん? 所で何をお求めで?」
しまった。興味があったから入っただけだから何も考えてない。どうしよう。
「あっ! もしかしてただ入って見たかっただけ?」
バレた。正直に言うか……
「ああ、路地を歩いていたらこの店が見えてな。気になったんで入って見たんだ」
「なるほどね~。まぁこんな奥に入った路地で店をやってる人なんて私くらいだし」
「儲かるのか?」
「ぜ~んぜん。お客さんなんてめったに来ないよ。ハクさんは久しぶりのお客さんだね」
「何でこんな所に店を?」
「安かったんだよ。それにこういう隠れ家的な店憧れてたんだよね。だから思い切って買ったんだ~」
この口ぶり、プレイヤーかな?
このゲームはプレイヤーとNPCの違いが一目で分からないようになっている。
だから会話の内容で予想するしかない。
「この店は何を売ってるんだ?」
「そうだね~見たら分かると思うけど、色んな物を売ってるよ?」
「じゃあ、これは何なんだ?」
俺は入店してから気になっていた、不気味なオーラが見える人形を指さす。
「ああ、それはね。勝手に髪が伸びる人形でね。オークションに売られてたのを、買ったんだ~。かわいいでしょ!」
おおう……マジか。かわいいの定義が知りたくなるな。
「最近はこの子の髪を切ってあげるのが日課なんだ~」
そう言って、アリスは人形を手に持ち櫛で髪をとかす。
人形から怨嗟の声が聞こえる気がする。
気のせいだな、うん。気のせい気のせい
「じ、じゃあ、この円盤は?」
人形と同じく気になっていた物だ。
「それはね。ヴィジャ盤って言ってね。悪魔の召喚に使われる道具なんだって~。前に使った人が呪われちゃったらしくて、手放された物を格安で譲ってもらったんだ~。お得だったよ!」
お得とか、そういう事じゃない気がする。
来歴がひたすら怖い。
「……あの紫の液体は?」
「あれは毒の研究に取り憑かれた昔の錬金術師が研究の集大成として開発したっていう猛毒だよ。匂いを嗅ぐだけで毒状態になるくらい強い毒なんだ。いや~間違って蓋を開けちゃった時は死ぬかと思ったね!」
匂いだけで……でも毒としてはどうなんだ?
一目見て危険だと分かるぞ?
「他のは……呪われた魔導書とか、叫び声を上げる植物、こちらを見つめ続ける魔物の目、脈動を続ける心臓……」
その後もアリスによる、商品の紹介が続けられた。
にしても、よくこんな不気味な物ばっかり集められたな。
「ねっ!結構色んなの売ってるでしょ!」
「確かに他にはない品揃えだな……」
いい意味でも、悪い意味でも。
「でしょ! でも何故かお客さんは何も買ってくれないんだよね……何でだろ?」
「……さぁ?」
正直、これを好んで買う奴はそうそういないだろう。
不気味にも程がある。
「ハクさんもお一つどう?」
そう言って、アリスは呪われた魔導書とやらを差し出してくる。
「いや、今は手持ちがなくてな。申し訳ないが……」
「そうなの? じゃあしょうが無いね」
誤魔化せたようだ。良かった。まぁ本当に手持ちは無いしな。
「そういえばハクさんって、このゲーム最近始めたの?」
「ああ、そうだが?」
「なら何でそんなに全身隠してるの?」
聞かれてしまった。確かに怪しいよな、こんな全身隠して居る人。
「あっ!いや、答えたくなかったらいいよ。別にそういうロールプレイしてる人もいるし。ただそういう人は普通に会話とかあんまりしないから、気になっただけ!」
どうする? 入れ墨の事を言うか?
普通のプレイヤーが入れ墨の事をどう思うか、気になるが……
ま、いいか。今話してみた感じ、さすがに斬りかかられたりはしないだろうし。
俺は外套のフードを取る。
「! それって……『罪人の証』!?」
やっぱり、直ぐに分かるようだな。だが嫌悪感は抱いていない様子だ。よかった。
「この入れ墨の意味って分かるか?」
これは最初から気になっていた事だ。
スキルの説明では、罪の内容によって変わるとしか書かれていなかった。詳しい事が分かればいいが……
「う、うん。普通は悪い事をしたプレイヤーや街の住人に刻まれる物で、罪の大きさによって入れ墨を入れる場所が変わるんだけど……顔に刻まれる何て……」
「あ。顔だけじゃなくて、全身だぞ」
「全身!?」
なるほど、罪の大きさによって入れ墨を入れる場所が変わる、と。
全身に入れ墨がある俺ってとんでもない罪人なんだなぁ。
「で、でもハクさんはゲーム始めたばかりなんでしょ? どうして、『罪人の証』が?」
俺は、キャラクター設定の時に起きた事を説明した。
その結果……
「どうして……全部ランダムを……」
呆れられてしまった。
仕方ないじゃん。やっちゃったんだから。
「で、ランダムスキルプリセットで出たのが、『大罪人の息子』っていうテーマだった訳だ」
「それは、災難だったね……悪い事してないのに」
「ああ、フィールドに出たら襲われるし、買い取りは拒否されるし、チンピラには怯えられるし、散々だった」
「え、襲われたの?」
「ああ、襲われた」
俺はその時の状況を話す。もちろん勇者の事も。
「へぇ~勇者ねぇ。やっぱりその子もランダムスキルプリセットを選んだのかな?」
「多分そうだと思うぞ? じゃなきゃ自分のこと勇者だって言わないだろ」
「そうだよね~……」
そしてアリスは少し考え込み、こう言ってきた。
「ねぇハクさん。その勇者とハクさんの情報。私に売らない?」